第3話懐かしい人物たちとの再会
父親からの提案を聞いてから数日が経過しており…
本日は土曜日なためアカデミー専用グラウンドで練習の日だった。
誰よりも先にグラウンドに降り立った俺は外野に向かってアップを行っている。
ランニングを行って準備運動や柔軟ストレッチ。
ポール間ダッシュを10本行った辺りでチームメイトはぞろぞろとグラウンドに入ってくる。
俺はそれを横目で確認してネットのある場所まで移動していた。
グラブとボールを手にすると二割程度の力で投球していた。
肩を温めながら本日の調子や身体の具合を確かめていた。
次第に離れた場所から少しずつ力を込めた投球に変えていき…
肩が完全に出来上がるとバットを持って素振り行っていく。
同じ様に少ない力で全身の調子を確かめながら両方で素振りを行って…
投球と同じ様に徐々に力を込めていき…
本格的な素振りを終えるとベンチに戻っていく。
チームメイトは未だに雑談をしており…
俺がベンチに戻る姿を確認した途端に立ち上がり始めていた。
「なぁ。ちょっと良いか?」
珍しく俺から声を掛けられたチームメイトは少しだけ驚いた表情を浮かべて立ち止まった。
俺の話の続きを待っているようにも思えるが…
何か余計な忠告をされるのでは?
と警戒心を含んだ複雑な表情に思えてならなかった。
「この中で俺と一緒にU‐12に選ばれたやつって何人居たっけ?
数年前の話を掘り返すようだけど…」
俺の問いに数名のチームメイトが手を上げていて…
俺はそれを確認してウンウンと頷いていた。
「それで?今年も引き続き俺と共にU‐15に招集されているメンバーは?」
再度繰り出す質問に手を挙げるメンバーは一人も居なかった。
「そうなんだよな…
それが代表選手を選出する偉いさん達の意見だって理解しているか?
これについては言い訳できないよな?
俺が選出に関わっているわけではない。
アカデミーで俺と一緒にプレイしているお前らがなんで選出されない?
U-12では選出されたのに…
それが指し示す答えは一つしか無いよな?
お前らがこの数年で劣化していっていると言うことだろ?
もしくはアカデミーに入れない選手に現時点で実力が劣っていると言うこと。
それで良いのか?
折角世界最高のアカデミーに入団できたのに…
練習やトレーニングをサボり続けて…
お前たちは入団できたことに満足してしまい慢心していたんだ。
本来であればアカデミーに入団できるほどの実力があったというのに…
今のお前らの実力は明らかに衰えている。
もう一度尋ねるが…
それで本当に良いのか?
お前らだって将来は野球で食っていくつもりなんだろ?
今のままだとそれも叶わないんだぞ?
いつ意識を切り替えるんだ?
やる気になるのはいつなんだよ…」
俺のお気持ちを耳にした彼らは苦々しい表情を隠すこともなく…
あるいは噛みつくような表情で口を開いた。
「別に良いだろ。俺達が何もしなくても試合は勝つんだからな。
お前の単独プレイで勝手に自動的に点が入っていく。
投手が適当に相手打線を抑えて失点しなければ俺達は勝つんだよ。
お前はスタンドプレイのお陰で世間に注目されるから良いよな。
クラスの女子にもチヤホヤされてネット記事にも取り上げられる。
沢山のファンが居て今から将来安泰で上から物を言っているんだろ?
俺の高みに来れば皆んなも安泰だ。
って上から目線で施しを与えるような感覚で物を言っているんだろうがな…
俺達はお前のようになれないし…
お前と一緒にプレイするのは息が詰まるんだよ。
正直な話をすれば…
お前が居なければと思った回数は正直数え切れないほどあるんだよ。
悪いが…俺はもうお前の顔なんか見たくもないんだ。
いい加減懲り懲りだぜ…
誰もがお前みたいに野球に全振り出来ないんだよ。
プライベートでは遊びたいときもあるし…
野球だけに全力で注力出来るほど俺達は野球に取り憑かれていないし…
全てを投げ売って形振り構わず全力で迎えるほど…
俺達は…
誰もがお前のようになれると勘違いするな…
もうお前の話は聞きたくない…
俺達にお前の理想を押し付ける…」
アカデミーの選手の総意を耳にして…
俺は大きなため息が漏れると…
「分かった。じゃあ俺はアカデミーをやめる。
U-12に招集された時…
お前たちの実力や本気の姿勢を目にして…
正直嬉しかったし心躍ったんだよ。
俺と同じ意識で同じ未来を想像して…
同じ道の上を歩いていて同じ努力をしているって感じたんだ。
それなのに…
お前らはアカデミーに入団できたことで…
代表に選ばれたことで現状に満足して努力を怠るようになった。
先に裏切られたって感じたのは俺の方だよ。
俺はもうお前らの様な意識の低い連中と一緒に居られない。
俺まで腐っていきそうだ。
悪いがもう付き合いきれないのは俺の方だよ。
ここで俺達は一度別れる。
もうお前らと道が交わることは無いかもしれない。
俺は既にお前らを諦めているし何も期待していない。
だが…もしも俺が居なくなったことでお前たちがやる気を取り戻し…
以前のように努力を怠らない選手に戻ってくれるのであれば…
俺は喜んでここを離れるさ。
そして…いつかメジャーで相まみえることがあったのであれば…
俺の選択は正しかったと証明できる。
お前らも自分の未来を台無いしにしないようにな。
監督に退団届を出してくる。
ではな。
ここでさようならだ」
俺は一方的に言葉を吐き捨てるとその足で道具をバッグにしまって手に持った。
その足で事務所に向かい…
大勢の大人たちに引き止められる言葉を幾つも投げ掛けられ…
それでも俺の決意は揺るぐこともなく…
退団届を提出すると事務所を後にする。
「フブキ!U-15はどうするんだ!?既に招集は掛かっているんだぞ!?」
「辞退します。すぐに日本に戻ってすべきことが山程あるので。では。
今まで本当に長い間お世話になりました。
ここでの経験は本当に自分の糧になっています。
感謝や恩は一生忘れません。
本当にありがとうございました。
一方的な別れの言葉を贈ることを心苦しく思いますが…
さようなら」
それだけ言い残すと俺は父の迎えを待つこともなく…
家までの道のりをゆっくりと歩いて帰宅していくのであった。
帰宅した俺を目にした両親は全てを理解したようで…
柔和で全てを包み込むような微笑みを向けてくれる。
俺はこの歳になっても涙が溢れそうだった。
逃げるという事実に悔しさだったり遣る瀬無さだったり切なさのような複雑な感情が心の中で渦巻き入り乱れていたのだ。
そんな俺に邪気が無く混じりっけが一つも無い優しさ向けてくる両親の眼差しに触れて…
俺は反射的に泣き出しそうだった。
すぐに自室に戻ってベッドに倒れ込んでしまいたかった。
顔を布団に押し付けて大声を出して泣きたかった。
けれど…
俺はここで立ち止まるわけにはいかない。
すぐに意識を切り替えると階下に降りていく。
庭に出てバットを持つと一心不乱に素振りを行っていた。
嫌なことを全て忘れてかき消してしまうほど…
全力で素振りに打ち込むのであった。
日本に戻るための様々な手続きを両親は行ってくれていた。
アカデミーの退団が決まりU-15の招集も正式に断れていた。
学校を辞める手続きも…
必要な手続きを全て行ってくれた両親のお陰で俺達は既に日本に戻れる準備は整っていた。
荷物を纏めた俺達家族のもとにケインがやってきて…
「申し訳ない。俺がこちらに来ることを勧めたばかりに…
面倒を起こさせてしまったな…
あの時の吹雪に俺は…
より良い環境を提供したかった。
それなのに…
再び帰る選択をさせてしまったんだな。
本当にすまない。
俺の見通しの甘さが招いた結果と言えるだろう。
どの様にして償えば良いか…」
ケインは短い言葉だが謝罪と後悔の言葉を口にしていて…
「そんな事言わないでくれ。今回の選択にケインは関係ない。
俺達家族が勝手に決めたことなんだ。
だからそんなに落ち込んだりしないでくれ。
またいつかこっちに来たならば…
その時はまた友人のように接してくれ。
頼むよ」
父の言葉で複雑な笑みを浮かべているケインだった。
俺も父と同じ様な言葉をケインに伝えて…
深い感謝の言葉を贈ったのであった。
再びこちらの家を空けることになる。
僕らは来た時の荷物を持って空港に向かっていた。
ケインは旅立ちの日も自宅を訪れてくれて…
空港まで車で僕らを送ってくれた。
ケインと別れを済ませた僕らは機内に乗り込んでいった。
約八年ぶりに帰国することに少しだけ胸を高鳴らせながら…
僕は機内で出来るトレーニング…
イメトレを深いものにして過ごしていたのであった。
帰国すると懐かしい光景や匂いを感じていた。
僕らはタクシーに乗り込んで自宅へと帰っていく。
帰宅すると荷物を部屋に運び込んで荷解きをしていた。
現在は五月のGW中だった。
大型連休が終わると共に俺は地元の中学に転校することになっている。
懐かしい顔ぶれが揃っていることだろう。
僕を覚えている人物はいるだろうか。
山口悟の妹である響子も同じ学校なはずで…
僕はどの様な表情を浮かべて帰国してきたことを伝えるのだろうか。
そんなことを軽く悩みながら…
俺は荷解きを終了させる。
ジャージに着替えた俺は時差ボケなど一つも感じていなかったため…
外に出て準備運動を行っていた。
日課のトレーニングや練習を本日も全うするため…
始めの30km走からスタートさせるのであった。
懐かしい光景やあの頃とは少しだけ変わってしまった景色を目にしながら…
俺は懐かしさと真新しさを感じていたことだろう。
ふわふわとした柔らかく丸い気持ちを携えて…
ハイスピードハイテンポの長距離走を行っていた。
河原を走っている途中で目的地を設定していない自分に気付く。
「このまま走り続けると帝位高校野球部一軍専用グラウンドまで到着するな。
久しぶりに様子でも観に行こうか…
来年は俺も入学するわけだし…
今のチームがどれぐらいのレベルか…
確認しておいて損は無いはずだ」
そんな独り言の様な言葉が脳内や心に浮かんできていた。
俺はもう少しだけスピードを上げて…
帝位高校野球部一軍専用グラウンドを目指して走り続けていた。
190cm100kgほどの巨体が信じられないスピードで走っているため…
俺は明らかに目立っており…
ここでも注目の的になりそうだった。
ずんずんと走り続けた俺は…
久しぶりに帝位高校野球部の練習を眺めていた。
「おい!ショート!何だその動きは!?
本当にショートなんだよな!?
チームで一番守備が上手い選手なんじゃないのかよ!
そんなんじゃあ俺と二遊間のコンビを組めないと思え!
俺はそんなレベルの選手とコンビは組みたくないぞ!?
悔しかったらもっと上手くなれ!」
セカンドを守っている選手はショートの選手に強い言葉を使っている。
「………」
俺の心に言いようのない感情が生まれつつある。
「………まさか…ここなら…」
何かに誰かに期待してしまう言葉が自然と口から漏れていて…
「俺の安寧の場所は…ここか…?」
数々の期待や不安や疑問や様々な思いが浮かんできていて…
俺は複雑な感情に苛まれていた。
「お前ら!来年の一年に凄いのが入ってくるって監督が言っていただろ!?
もう忘れたのか!?
一人は萬田シニア出身でU-12の代表選手にも選ばれたやつだ!
ポジションは捕手で代表では主将を務めていたそうだぞ!
お前ら!
簡単に負けてポジションを譲るつもりか!?
それとも簡単に奪われて泣き寝入りするか!?
正捕手で試合に出ている人間もうかうかしていられないぞ!?
とにかく一人一人もっと気を引き締めろ!
もう一人入ってくるのは…
あの神田吹雪だぞ!?
お前らだって名前を聞いたことあるよな!?
活躍をネット記事や動画で観たことあるやつばかりだろう!?
九条監督は来年のショートポジションを神田吹雪に決めているそうだ!
それは揺るぎ様がない!
今ショートを守っている選手はコンバージョンやサブポジションを今の内から考えておきなさい。
誰もが試合に出て活躍したい!
それは帝位高校野球部にいる全員が思っていることだろう!
神田吹雪に負けないように…!
やつが入学してきたら必ず俺達の実力を見せつけるぞ!」
センターから大きな声を上げて全員に発破をかけている選手。
きっと今の主将だと思うが…
では何故自分のことのように来年の心配をしているのだろうか。
主将なら現在三年生のはずだ。
「おい!
何仕切ってんだ!?
もう主将になったつもりか!?
まだ三年がいるんだぞ!?
まだ俺達の代で大会も残っているこの状況で…!
何生意気言ってくれてんだ!?」
「………あの人…二年生だったんだ…すげえ空気読まないな…
まだ先輩たちいるのに来年のこと考えてプレイしているのか…
俺みたいに…先のことしか見ていないタイプかも…
先輩が居てもお構いなく言いたいことをはっきりと言う。
自分が主将になることを今から想定できているんだ。
凄い人は何処にでも…やっぱりいるものだな…」
俺は思わず目の前のやり取りに目を奪われており…
感想のような言葉が勝手に漏れ出ていた。
「すみません!既に来年のチームのことを考えてしまっていました!
まだ先輩たちがいるというのに新チームについて思考を巡らせていました!
生意気な俺をどうぞ煮るなり焼くなりしてくださって結構です!
ですが…ついでですので後一つだけ言わせてください!
………
俺が注意する前にたるんでいる選手に発破をかけるのが…
主将であり三年生じゃないんか!
最上級生のお前らがしっかりしていないから俺が先に口を開くことになったんだろがい!
自分たちの無能を棚に上げて俺を責めるな!
………
以上です!
全て言いたいことは言わせて頂きました!」
センターの二年生…
次期主将候補…不知火は空気がまるで読めず先輩にも食って掛かる存在。
俺が入学したら彼が最上級生で主将。
それを理解した俺の心は一気に跳ね上がっていた。
「彼が主将なら…俺も好きにプレイできるかも…
チームの面倒事は彼に任せることが出来るわけで…
俺は練習にトレーニングにプレイに集中できる…
やっぱり帰国してきて良かった。
これを知れただけでも大収穫だ。
とにかく良いこと尽くめな毎日を送れたら良いな…
今日はここら辺で帰ろう」
久しぶりに感じたお互いに切磋琢磨するような様々なやり取りを目にした俺は…
大変満足するとその場を離れる。
再び来た道をなぞるような形で…
ハイスピードハイテンポで残りの距離を走って帰宅するのであった。
帰宅すると庭にて素振りを行っていた。
いつも通り左右を全力で規定回数行って…
それが終わるとダンベルを使用した筋トレや家で出来る自重トレなどを行う。
GWを無駄なものにすること無く…
残りの休日もしっかりとやるべきことを毎日行い…
俺は久しぶりに日本の同級生と再会することになるのであった。
「お久しぶりです。覚えている人が居るかどうかわかりませんが…
皆様と小学一年生の短い期間…
同じ小学校に通っていた神田吹雪と申します。
つい最近まで海外で暮らしておりまして…
帰国してきた次第です。
日本の高校に進学予定ですので…
しばらくは日本にいることと思います。
仲良くしてくださると嬉しいです。
今日から再びよろしくお願いします」
俺は教壇の前で挨拶を交わしていた。
懐かしい顔ぶれは明らかに成長しており…
彼らの物珍しそうな者を見る視線で…
俺もあの頃から確実に成長していることに改めて気付く。
彼らも俺と同じ様な気持ちだったことだろう。
「こいつ…前とめっちゃ変わってやがる…成長しすぎだな…」
俺もクラスメートも同様の思いを抱いていたことだろう。
少しだけ間の抜けた時間が続いて…
しかしながら温かい拍手に包まれながら…
俺は自席に着席したのであった。
「神田。久しぶりだな。俺を覚えているか?」
休み時間がやって来ると久しぶりに再会したクラスメートの男子生徒が声を掛けてくる。
その相手は…
俺が小学生の時に何度もいちゃもんを付けてきた男子。
同じ様に野球をしていたはずだ。
「えっと…顔は覚えているよ。確か野球をやっていたよね?」
「あぁ。お前の活躍を俺はSNSで何度も目にしていた。
向こうでU‐12の代表選手に選ばれて破竹の活躍をしていたよな?
U-15の招集も掛かっていると記事で読んだが?
それを蹴って日本に帰ってきたのか?」
「うん…そうだね…」
「どうしてだ?向こうで何かあったのか?」
「まぁね。チームメイトと意識の違いが生まれてさ。
レベルが違うって感じてしまって…
帰国してきたんだ」
「その体系を見るに…チームメイトがお前についていけなくなったんだな?」
それに頷いて応えると彼は急にニヒルな笑みを浮かべてみせた。
「俺は
もう一度自己紹介をしておく。
お前が日本を離れて…
俺は悔しくて仕方がなかった。
野球留学をして海外でも信じられない活躍をするお前の記事を読む度に…
俺は全ての感情や情報を自らの成長の糧にした。
U-12では主将を務めたんだ。
ポジションは捕手。
その後は萬田シニアに入団して…
来年はお前と一緒で帝位高校に進学することが決定している。
特A推薦で…スポーツ特待生として…
お前に負けず劣らずの待遇で俺は帝位高校野球部に入るんだ。
俺はお前に負けない。
現時点で並び立っているなんて驕り高ぶった考えは持ち合わせていない。
身体の大きさ的にもまるで歯が立たない。
現時点では何もかも劣っているだろう。
だがいつか必ず並び立ち…
追い抜くような存在になるからな!?
お前もこれからも努力を怠るなよ!?
俺を失望させてくれるなよ!?」
俺は須山の話を耳にして…
同じ様にニヒルな笑みを浮かべていたことだろう。
「あぁ。よろしく頼むよ。その言葉を鵜呑みにして…今から楽しみにしているよ」
挑戦的な言葉を口にして…
俺は彼に右手を差し出していた。
彼と熱い握手を交わすと…
「すげぇ掌だな…俺もまだまだだ。もっと素振りの数増やしてやる!」
彼は悔しそうな表情を浮かべると捨て台詞の様なものを吐いて…
けれど何処か嬉しそうな表情を浮かべて自席に戻っていくのであった。
昼休みがやってきて…
俺は母親が持たせてくれた巨大な弁当を三つ完食していた。
「吹雪くん…久しぶり。私のこと覚えている?
流石に八年近くも経過したから…
忘れているよね…?
私はこの八年間毎日吹雪くんのこと考えていて…
活躍の全てに目を通していたよ?
向こうでも凄い活躍だったみたいだね…」
眼の前の女子生徒を目にして…
俺は懐かしさのあまりに席を立ち上がってしまう。
「響子ちゃん?」
彼女の名前を口にする…
山口響子は心から嬉しそうな表情で笑みを向けてくる。
「覚えていてくれたんだ!本当に嬉しい…♡」
甘い声を俺に投げ掛けてくる彼女の想いから思わず避けるような形で…
「悟先輩は今どうしているの?」
彼の兄である山口悟。
萬田シニアで一緒にプレイしていた彼の現在が気になっていた。
「うん。高校は強豪校に進学できて…
投手として一年生の夏から一軍入りしたんだ。
二年生の春からはエースナンバーをつけて…
引退するまでずっとエースだったよ。
プロから声を掛けられたお兄ちゃんは高卒でプロ入りを果たしたんだ。
一年目は一軍と二軍を行ったり来たりを繰り返していたけど…
二年目からローテーションに定着して…
今でも先発投手として一軍のマウンドに立っているんだ。
日本を代表するような好投手になってきていて…
数年後はメジャーに行くつもりかもね。
お兄ちゃんも吹雪くんの活躍を見て…
いつも励みにしていたよ。
海を越えても吹雪くんの影響力は本当に絶大だって感じたよ」
山口悟の現在を耳にして俺はかなりの幸福感を感じていた。
過去の知り合いがプロやメジャーで活躍していることを快く思いながら…
「そうか。その内…再会したいな。
プロで活躍しているお兄さんに失礼だと思うけど…
また対戦してみたいよ」
俺の何気ない一言で響子は笑みを深くして…
「やっぱり吹雪くんは昔と変わらない。
今の発言をお兄ちゃんにしたら…
きっと喜んで了承してくれるよ」
「いや…今のは冗談っていうか…」
「ふふっ。分かっているけれど。きっと本心でもあるんだよね?
吹雪くんのことだから」
「まぁ…失礼だけど…そうだね」
「失礼なんかじゃないよ。
きっとお兄ちゃんも成長した吹雪くんと対戦したいはずだから」
「そっか…日本を代表する好投手にそう思って頂けたら…光栄だよ」
「謙虚な姿勢だね。そうだ…!連絡先教えてよ!
スマホ持っているでしょ?」
「あぁ。帰国してきて…GW中に買ってもらったよ。
使い方がまだ良くわかっていなくて…
教えてくれたら幸いです…」
「私で良ければ…♡何でも教えるからねっ♡」
響子は残りの休み時間を利用して俺にスマホの操作方法等を教えてくれていた。
連絡先も交換して…
帰国して初めて連絡先を交換した友人は山口響子なのであった。
ここから俺は帝位高校に入学するまで…
自主練習や自主トレに性を出すことを決める。
試合感覚を失わないために…
何か手を打たなければならない。
そんなことに思考を割きながら…
存分に悩みながら…
今日も今日とて…
明日も明日とて…
俺は全力で野球に全振りした生活を送るのであった。
次回へ!
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