第2話逃げる先がある場合は幾らでも逃げて良い
独りというのは…
誰とも分かり合えないというのは…
思いの外にも堪えることだと…
俺は中学三年生の歳になってやっと気付いたことだった。
今までは形振り構わずに上を目指し続けて…
前にだけ進み続けてきたわけだ。
しかしながら…
ある程度の高みまで上り詰めた現在地で…
俺は少しだけ後方や下方に目を向けてしまったのかもしれない。
同じ高みに同世代の人間が存在しない。
以前、チームメイトとして少しの時間だが共にプレイしていた人物たち。
梅田や仙道…
元KINGやカイザーやフォルテを始めとしたフェニックスの歳上の先輩たち。
彼らはこの八年間でメジャーでプレイしており…
俺はそれが羨ましくて仕方がなかったのだ。
「今の俺だって…」
そんなどうしようもない嘆きの言葉が口から漏れ出ていることに気付いてしまい…
俺は自らの弱々しい思考に嫌気が差していた。
現在は授業中であり俺は黒板の板書をノートに書き写しながら…
邪念のような思考に苛まれつつあった。
「俺の今後…進むべき道は…」
何処か逃げ出したくなるような言葉が脳内を占拠していて…
今のチームに居続けることが自分にとってプラスなのか…
そんなことばかりを悩む日々だった。
正直な話をすれば…
この様な邪念に苛まれている暇はないのだ。
俺は今までのように野球に全振りした思考で…
練習やトレーニングに取り組みたかったのだ。
邪魔な思考があると…
どうしてもパフォーマンスを悪くする気がしてならなかったのだ。
教室では教師が恙無く授業を進行していて…
「日本に戻ったとして…俺と同じ様な思考の選手がいるとも限らないよな…
何を期待しているんだ…
誰かに何かに期待するのは間違っている…
世界中から集められたアカデミーの選手ですら俺に追いつけないんだ…
俺と同じ種類の選手がいるわけ…
でも…どうしても求めたくなるよな…
後八人…とは言わなくとも…一人や二人は…仲間が味方が…」
俺の脳内では授業どころでは無く…
ここからの野球生活について…
その一点に集中して思考を繰り返していた。
思考が深い泥沼に陥りかけた時…
授業を終えるチャイムが鳴って…
教師は教科書と参考資料を纏めて手にすると教室を後にした。
「フブキー!新チームになったんでしょ!?
調子はどう?
この間の練習試合も活躍したんでしょ?
ネット記事で読んだわよ」
クラスメートの女子生徒が幾人か束になって俺の席に向かってきていた。
適当に応えるように返事をしてスマホを手にしていた。
「因みにだけど…どの記事?」
「すぐにURL送るね!」
話しかけてきたクラスの中心的女子生徒がスマホを手にすると…
すぐにURL付きのチャットを送ってくれる。
「ありがとう。今から読んでも良い?」
「うん!もちろんだよ!私達も邪魔しないから…ここに居て良い…?」
彼女らの言葉に了承する返事をして…
俺はすぐにネット記事に目を通していた。
「アカデミー歴代最高選手であるフブキカンダを密着!
新チームとなって日が浅いアカデミー。
本日から練習試合が解禁されたとのことで…
筆者も試合の様子を観戦しに行っていた。
アカデミー先攻から始まった試合。
フブキカンダ以外の打順はまだ定着していないように思える。
一番打者から三番打者が四番打者であるフブキカンダの前で塁を埋めなければならない。
前回の記事でも何度か書き記したことなのだが…
フブキカンダは直近20試合殆ど前打席を敬遠されている始末だった。
今の状況が続くことは明白で…
フブキカンダの前を務める三人の打者が塁を埋めないと…
彼はこれからもずっと敬遠され続けるだろう。
チームの方針に寄ると思うが…
塁を埋めても敬遠を選択し…
押し出しを選ぶバッテリーも存在するだろう。
それぐらいフブキカンダという打者は手が付けられない存在だ。
怪物、神童、天才。
どの様な言葉を紡いでも彼の底しれない実力を表現できる言葉がないことを酷く心苦しく思う。
筆者の筆力が劣っていると言うのは重々承知の上だが…
彼の実力を正しく形容する言葉が…
この世に存在していない。
筆者はその様に考える。
二回表。
フブキカンダから始まる打順。
彼は申告敬遠を受けて一塁へ。
続く五番打者に投げられた一球目からフブキカンダは二塁へ盗塁。
その後に投げられた二球目。
二塁ランナーのフブキカンダは三塁へ盗塁。
やっと余計な思考を振り払った投手はランナーを気にすること無く投球ができていたことだろう。
五番打者を三振に抑えて…
ここまでは順調だった…
きっと三振を奪って張り詰めていた緊張が一瞬だけ解除されてしまったのだろう。
捕手からのやまなりの返球を見逃さない三塁ランナーのフブキカンダ。
ホームスチールを行い先制点を奪う。
先制点後…
ネクストに居た六番打者と口論のようなものがあったように思えるが…
試合は恙無く進行していった。
フブキカンダは四打席連続で敬遠。
毎回当然の出来事のように三塁まで盗塁して…
捕手の後逸や投手の暴投を誘うような…
撹乱する厄介なランナーだったことだろう。
フブキカンダの思惑通り…
後逸や暴投により再度得点に絡む。
アカデミーは新チームが発足して初めての練習試合を快勝に収めた。
少しばかり不安が残るアカデミー新チームのように思える。
フブキカンダの実力だけが突出しており…
完全にチームで浮いた存在だ。
彼を受け入れていないチームメイトも幼稚に思えるし…
フブキカンダも実力の割にはメンタルや思考が幼稚に思える気がしてならない。
外から観戦していた筆者にはお互いが協力的で無い気がしてしまったのだ。
彼らがしっかりと打ち解けあって協力すれば…
新チームはアカデミー歴代最強チームになると…
私は外野から感染する一筆者として直感的に感じてしまった。
この先の彼らの活躍に期待しながら…
本記事を終了とする」
記事を最後まで読んだ俺はぎこちないけれど笑みを浮かべていた。
教えてくれた女子生徒に感謝の言葉を口にして…
けれどこの記事で俺が活躍したと思っているのだろうか。
俺は確実に勝負を避けられており…
殆ど何もさせてもらえていないのだ。
活躍したいのに活躍の場を奪われている。
どうしてもそんな気がしてしまう。
海を渡って強者と相まみえることに思いを馳せていたというのに…
毎打席敬遠や極端な戦法を使う打者にも少しだけ嫌気が差していたのだ。
俺と勝負をしてくれる相手は何処にいるというのだろうか。
チームにも俺と真正面から向き合ってくれる選手はおらず…
当たり前だが敵チームにもそういった選手は存在していない現状。
俺はここで野球を続けることに限界のようなものを感じてしまっていたのだ。
「凄いね!フブキの活躍を楽しみにしているファンって多いんだね!?」
女子生徒の言葉に俺は言っている意味がわからずに首を傾げていた。
すると女子生徒はスマホの画面をこちらに見せてくる。
「ここ見て!この記事が読まれた数といいねの数!
下にスクロールしていくと沢山の肯定的コメント!
殆どの人がフブキを絶賛している!
既に期待されている証拠だし!
現時点からファンはメジャーで活躍することを求めているみたいだね!」
女子生徒の無邪気な弾ける笑顔を受け止めながら…
俺は適当に思える言葉で感謝の言葉を口にしていた。
ぎこちない笑みを再度浮かべて…
嫉妬の視線でこちらを睨んでいるアカデミーのチームメイトに気付きながら…
俺は無視を決め込んで次の授業に向かうのであった。
アカデミーでは平日練習を推奨されていない。
平日はあくまで学業や自主練や休息に努めるようにお達しを言い渡されており…
だがしかし…
選手の自主性に任せてしまった結果が…
俺のチームメイトへの不満にも繋がっているのだ。
俺は毎日設定している自主トレをサボったこともなく…
年々、日に日に増加していくメニューを完全に遂行していた。
しっかりと意味や意義のある効果的な練習やトレーニングを毎日繰り返して…
その結果が自ずと今の現状の実力に繋がったということ。
チームメイト達はと言うと…
彼らは日々の自主練を明らかにサボっていた。
翌週になってチームメイトが集まった時…
彼らは何一つレベルアップしておらず…
先週と何一つ変わらないままなのだ。
簡単にレベルアップなど出来ないことは重々承知だが…
それでも一週間みっちりと自主練をしていれば…
外野からでも見て取れることがある。
一週間程度で格段と進化することはあり得ないだろう。
しかしながら一週間もあれば少しでも目に見える変化があるというものだ。
彼らにはそれがまるでない。
だから俺は彼らを見限って…
そんな状況がずっと続いた結果…
俺は孤独な遊撃手になってしまったのだ。
中学生にもなると父は俺の自主トレーニングを監督する役目を降りていた。
「もう今の吹雪の運動能力に流石の俺もついていけないさ。
監督出来なくなることを心苦しく思うが…
吹雪が練習をサボることはないと信じている。
毎日大変だと思うが…
きっと必ず輝かしい未来に繋がる。
だから毎日しっかりと励みなさい。
今は…独りだとしても…」
父は俺の現状や立ち位置をしっかりと理解しているようで…
いつだったかその様な言葉を投げ掛けてくれていた。
本日帰宅すると父は何やら悩ましい表情を浮かべながら通話をしているようだった。
俺が帰宅したことを目にすると父は慌てた様子で無言になるとそのまま庭に出る。
玄関に入って少しだけ聞こえてきた父の言葉が…
「日本語だったよな…誰だろ…」
脳内に独り言の様な言葉が流れてきていたが…
俺はすぐに自室に戻ってカバンを降ろした。
ジャージに着替えて階下のリビングに戻ると母が用意してくれた間食を頂いていた。
食事を終えると日課である食休み兼柔軟ストレッチを行って…
俺は家の外に出た。
本日もハイスピードハイテンポの30km走を行うために入念に準備運動を行っていた。
庭にいる父の声が微かに漏れ聞こえており…
「そうですね。息子がどう答えを出すか…俺にもまだ分かっていないんですよ。
最近は張り詰めた表情のことが多く…
明らかにチームメイトと上手にコミュニケーションが取れていない状況でして…
吹雪はきっと自分と同じ存在を求めているんだと父親なりに理解しています。
それが如何に難しい要求なのかも…
それでも吹雪は今までずっと独りで野球をしてきたんです。
萬田シニアを離れて…
帝位高校の練習に参加して…
フェニックスに拾ってもらって…
何処でも吹雪の実力についていけなくなった選手たちが…
吹雪を追い出す形で…
野球が嫌いになっても可笑しくない。
まだ少年の吹雪の心やメンタルが脆くても可笑しくないんです。
今にも糸が切れてしまい…
投げ出してしまう可能性だってある。
まだまだ精神的に幼い吹雪が自分と同じ存在を求めて…
望んでしまうのも父親として元一選手として理解できる感情です。
今所属しているアカデミーも…
もしかしたら近い内に追い出されると言うか…
吹雪は排除されるに近い形で退団を選びそうなんです。
来年から高校一年生になる吹雪は…
本当に僅かな可能性を信じて…
藁にも縋るような思いで日本に戻ったほうが…
そんなことを父親として悩むばかりですよ…
正直な話をすればですがね…」
父の話を盗み聞きするつもりはなかったのだが…
どうやら電話の相手に俺の現状を伝えているようで…
電話の相手は誰なのだろうか…
そんなことに悩みながら準備運動を恙無く終える。
そのまま靴紐を結び直すと俺は家を出て本日のトレーニングと向き合うのであった。
「神田家には潤沢な資金力があるでしょうから簡単に渡米を決意できたと思います。
ですが世の中の家庭がそうでないということは理解できますよね?」
「もちろん。そういう点でも吹雪は恵まれた存在だと思っている。
日々の食事だってそうだ。
一日五食。
沢山の量の食事を沢山の回数行えている。
確実に恵まれた環境に生まれた子供だと思っているよ。
だが…それが何だと言うのだ?」
「はい。話が遠回りになり見え難くて申し訳ありません。
実を言うとですね…
アカデミーにスカウトをされた選手が今のチームに数名いるんですよ。
本当に偶然のようですが…
彼らは世界最高の選手たちが集まるアカデミーでプレイしたかったはずなんです。
ですが…家にそんな資金力が無かった。
吹雪の様にアカデミーでプレイしたかったでしょう。
渡米が叶わなかった彼らは…
吹雪が以前練習に参加していた帝位高校にスポーツ特待生として来てくれました。
スカウト陣が声を掛けたのはもちろんですが…
彼らの自宅に話に行ったその日に二つ返事で帝位高校に進学することを決意してくれたんです。
その理由を尋ねると…
吹雪が小学生の頃に練習参加していた帝位高校に進学することをずっと夢見ていたそうです。
アカデミーに行くことが能わなかった彼らは…
せめて帝位高校に進学することを夢見て日々練習に性を出していたそうですよ。
彼らなら…吹雪の渇きを癒してくれるかもしれません。
今年の一、二年生に一人ずつ。
来年の新一年生にも一人。
ここに吹雪が加われば来年からの帝位高校は歴代最強チームになります。
私もそれを願っていますし…
以前の約束はそのままで据え置きですよ。
特S推薦で…
もちろんスポーツ特待生として。
来年の特待生の枠はずっと吹雪のために昔から予約してあるんですよ。
吹雪が帝位高校に入学したら…
一年の春から遊撃手としてレギュラーにします。
先輩から不満が出ないように今から言って聞かせるつもりです。
遊撃手の席は吹雪だと…
俺はずっとそう考えてそれをシミュレーションしたチームを想像しています。
どうか神田さんも良く悩んでください。
良い返事を心待ちにしておりますが…
当然分かっているとは思いますが…
吹雪と…家族と良く話し合って決めてください。
私共はただ良い返事が来ることを期待して…
待ち続けるだけですから」
「分かった。良く考えて家族と話し合って返事をする。
時差がある中でそちらの生活もあるだろうというのに…
こちらの生活に併せた時間に電話をかけてくれたことに深く感謝する。
またこちらから連絡する」
「はい。では良い返事を期待しております。ではまた」
通話を切った俺は庭から家の中に入る。
俺の曇ったような晴れたような複雑な表情を確認した妻である星奈はタオルで手を拭いてこちらに向かってくる。
「何か良いことがありましたか?
それとも苦しく悩み続ける問題にでも直面しましたか?」
星奈は柔和な笑みを浮かべて何処か楽しそうな弾んだ声で俺のもとにやってきていた。
「なんで少し嬉しそうなんだ…」
「ふふっ。だって業さんが複雑な表情を浮かべている時は…
家族についてのこと。
私か吹雪についてのことでしょ?
きっと今の電話の相手は帝位高校の九条監督。
吹雪の現状を悩んで思ってくれる人が世界中にいる。
萬田くんも蒲田くんも…
九条監督もケインも。
業さんに私も。
沢山の大人が吹雪の将来を楽しみにして沢山悩んでいる。
考えて悩み抜いて…
吹雪の最善である道を模索してくれている。
親目線でしか語れないけれど…
吹雪は本当に人に恵まれていると思います。
でも…
どうやら同年代の子供達とは上手くやれていないみたいですね。
吹雪の最近の張り詰めた表情や険しい顔付きを見て…
親として危機感を覚えて当然です。
だから…吹雪が帰ってきたら沢山お話をしましょう。
吹雪の思いを…
私達の思いを…
ぶつけ合う結果になったとしても…
今回の問題も家族全員で全力で向き合いましょう」
心強い星奈の言葉に背中を押される形で…
俺は吹雪がトレーニングを終えるまでに話をまとめておこうと決意するのであった。
平日のトレーニングや自主練習が終了したのは夜10時を過ぎた頃だった。
空腹感や疲労感から来る苛立ちにも似た感情を胸に秘めながら…
俺は家の中に戻っていく。
「先にお風呂に入りなさい。食事を取った後に話しがある。
しっかりと疲れを取るように入浴して…
寝る前にストレッチと柔軟を…」
「分かっているよ。父さん。
今まで何年間同じルーティンを行っていると思っているのさ。
じゃあお風呂入ってくるね」
父に返事をして俺は風呂場に向かっていた。
入念に疲れやコリを癒やすように…
筋肉痛が残らないように…
とにかく怪我や故障に繋がらないように意識をした入浴を心がけて…
入念な入浴を終えてリビングに顔を出す。
母親はいつも以上の量の食事を用意してくれており…
俺は挨拶をするとそれに手を付けていく。
完食するのは当然なことで…
効果があるのか定かではないが…
疲れた身体に今摂取している食事が新たな細胞や筋肉を作り上げていると…
血液や消費したエネルギーを補っていると…
明確なイメージを持ちながら食事の時間を有意義なものにしていた。
完食したのは一時間が経過した頃で…
現在時刻を目にして…
俺は本日明らかに夜ふかしをしている気がしてならなかった。
普段よりもトレーニングメニューを少しだけ追加してしまい…
帰宅の時間が普段よりも遅くなったのは否定できない。
風呂と食事の時間を失念してしまうほど…
俺の心には言いようのない複雑な感情が渦巻いていて…
とにかくその様な邪念を全て振り払うためにも…
全力で体を動かして…
本日ある分の体力の全てを使い果たしたかったのかもしれない。
さすれば邪念など少しも浮かんでこないはずだから…
「早速本題に入るようで申し訳ないが…」
俺が食事を終えたのを確認した父は時計を目にしながら口を開いていく。
母は食器を片付けながら話に耳を傾けているようだった。
俺は父の言葉に返事をするように頷いて…
話の続きを待っていた。
「吹雪。日本に戻るか?」
唐突に父の口から告げられた意味のわからない提案に俺は首を傾げていたことだろう。
「どうして?アカデミーは世界最高の環境でしょ?
将来野球で食べていくなら…
メジャーで活躍するのであれば…
アカデミーでプレイすることが最善手だと思うけど…?
他に何か理由があるの?」
俺の当然の疑問に父は呆れるように柔和な笑みを浮かべていた。
「そうだが…最近チームメイトと上手くやれていないだろ?
親だし元一選手として…
お前が原因だとは思っていない。
吹雪のレベルに併せてくれないチームメイトに嫌気が指した結果…
お前もチームメイトに冷たく当たるようになったのだろう。
俺にもそういう経験があるから分かってやれる。
一度チームメイトと意識の齟齬があり衝突して溝を生んだ場合。
ほぼ確実に修復は不可能だ。
メジャーのような契約が存在するステージでそういったことを経験することは少ない。
まだ学生のお前らには存在する苦悩だろうと思う。
正直な話を包み隠さずに言えば…
一度関係が完全に壊れてしまった場合は…
泣き寝入りするように別の場所を求めて逃げるしか無い。
ここは自分のいるべき場所では無かったと割り切るしか無いんだ。
今ここでアカデミーの選手たちに併せてレベルを落とすのは自分のためにもならない。
チームメイトのためにも誰のためにもなりはしないことなんだ。
だから…吹雪はアカデミーを抜けるべきかもな。
彼らとは本質的に何もかもが違うのだろう。
アカデミーにスカウトされて入団が叶った時点で努力をやめてしまい…
慢心しているのは彼らの責任だ。
そして自分よりも実力のある吹雪を目の当たりにして…
やらない理由や努力を怠る言い訳をするチームメイトと一緒にいる必要はない。
チームメイトの存在のお陰で自分を高めてくれるような…
吹雪の存在のお陰でチームメイトが自ずと高みを目指してくれるような…
そういう存在がきっと日本にいる。
具体的に言ってしまうと…
帝位高校野球部に。
今日九条監督と電話をして…
吹雪を特S推薦…スポーツ特待生として迎えてくれると仰っていた。
もちろん一年の春からショートでレギュラーだそうだ。
過去の約束を律儀にもしっかりと果たそうとしてくれている。
どうだ?
今度は高校生になって本格的に帝位高校野球部に所属するのは…」
父の具体的な話を幾つも耳にして…
俺は正直救われた様な…
けれど現状から逃げることにも抵抗感を覚えていて…
でも…
かなり良い話に思えてならなかった俺は…
「とりあえず今日は遅いから寝ます。
明日以降にゆっくりと考えて…
来週までには返事するから。
それでもいい?」
俺の返事に父は柔和な笑みで頷いて応えてくれて…
それを確認した俺は席を立っていた。
両親に就寝の挨拶をすると自室へと向かう。
ベッドに潜り込むと先程の話を思い出しながら…
少しだけ弾む心をどうにか沈めながら…
それでもアカデミーの選手たちと…
最後にしっかりと話し合いを行おうと思って…
本日は久しぶりに心地よく深い眠りにつくのであった。
次回へ…!
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