第9話波乱の紅白戦
土曜日までの平日の学校生活で山口響子は僕に話しかけてくることもなく。
火曜日から金曜日まで彼女は僕と視線を合わせることもなかった。
きっとそれもそのはずで…
自慢の兄が散々打たれたところを目撃してしまったのだ。
打者として当事者であった僕を目の敵のように思っていても可笑しくない。
少しだけ居心地が悪く居場所が無かった平日の学校生活が終わり。
やっと休日の土曜日がやってきたのであった。
普段通り選手全員でウォーミングアップを行うと投手以外の野手は十分休憩に入る。
僕は投手陣に混じってロードワークの準備をしていた。
身体が冷えてしまう前に僕らはロードワークに向かい…
その後は入念な柔軟。
そしていつものように自重トレ。
いつもだったら投手陣はトレーニングルームに向かうところだったが…
本日は僕とともにグラウンドのベンチにて選手の様子を眺めている監督の元へ向かった。
「監督。終わりました」
エースの山口悟が報告をすると監督は僕らにホワイトボードを見せてくる。
「正味一時間後に紅白戦を行う。
チームは四チームに分けてある。
五枚いる投手陣を何処に配置しようか悩んでいるんだが…
なにか意見がある者は挙手を頼む」
監督から投げかけられた質問に僕は無関係だと思いながら彼らの動向を伺っていた。
するとすぐに山口悟が挙手をして監督は彼を指名する。
「一年二人は同じチームに配属してほしいです。
もっと言うのであれば…
吹雪と一番最初に対戦するチームに配属されることを希望します」
「そうか…では山口はAチームに配属。
小林、内藤はDチームだ。
Bチームに早川。Cチームに拳道だ。
第一試合はA対B。
第二試合はC対D。
第三試合は一試合目勝者と二試合目勝者。
第四試合は一試合目敗者と二試合目敗者。
本来であれば全てのチームと対戦させたいんだが…
投手の枚数的にそれも難しいだろう。
なので各チーム二試合までとする。
一試合三回まででコールド無し。
選手変更なし。
サインも選手同士で好きに行うこと。
試合を行っていないチームは審判やスコアラーやボールボーイやランナーコーチを務めてもらう。
それぐらいの決定事項で構わないと思うか?」
不意に監督に助言を求められた投手陣は顔を見合わせていた。
しかしながらその均衡を破るように口を開くのはまたしても山口悟だった。
「小林、内藤。Cチームを絶対に0点で抑えろ。
必ず勝利チームとして上がってこい。
そして第三試合で当たるぞ」
「「はい!」」
急に浮かべるエースの真面目な態度に二人は背筋をピシッと立てて返事をする。
「Aチームが必ず勝利チームで上がるとは限らないじゃないですか。
なぁ?吹雪もそう思うだろ?」
Bチームで投手を務める早川は茶々を入れるわけでもなく…
自らが投手を務めるチームを蔑ろにされている気がしたようで…
食って掛かるようにして口を挟む。
同じくBチームに配属されている僕にも追い打ちの賛同を求めるような言葉を投げかけられたのだが…
「今日は一本も打たせん。三回までだからどのチームもパーフェクトで抑える」
完全にやる気に満ちている山口の気迫に…
後輩投手陣は明らかに怖気付いているように思えてならなかった。
「よし。では各チームのバッテリーはブルペンで軽く調整してこい。
相方となる捕手には自分で声を掛けてくれ。
では一時間で完全に調子を整えてくること」
「「「「「はい!」」」」」
投手陣は今まさにグラウンドでノックを終えた捕手達に声を掛けに行っていた。
「吹雪。お前に渡したいものがあるんだ」
監督はそう言うとベンチの脇に置いてあった箱を手渡してくる。
箱ごと受け取るのだが…
箱のサイズにしてはかなりの重量に僕は驚いてしまう。
「開けてみろ」
監督に促されるままに僕はその箱を開けて中身を確認する。
「バットに付ける重りだ。打席に立つ前の素振りではこれを付けること。
シニアリーグのバットは重たいが…
それでもかなり扱いに慣れてきただろ?
もう普通の選手以上に扱えていると思う。
ただし吹雪が目指すべき場所は強打者だ。
今の内からスイングスピードを上げることに意識を向けろ。
ただし普段の素振りでは重りを多用しすぎるな。
折角親父さんが整えてくれたきれいなフォームが崩れることになる。
それが原因で打ちづらくなり…
ヒットを打つことすら難しくなる選手だっているんだ。
強打者になるにつれてフォーム改善もするんだろうが…
それは親父さんに任せるからな。
とにかくネクストでは投手と対戦していると仮定して…
この重りを付けて素振りをすること。
これから沢山の投手と戦うこととなるが…
山口や親父さんよりも速いストレートを投げてくる投手も出てくるはずだ。
そういう投手に振り遅れること無く戦うために…
今の内からスイングスピードを上げような」
「はい!ありがとうございます!」
プレゼントされた重りを大事そうに手にして眺めていると…
「試しに素振りしてみると良い」
それに返事をすると俺はバットを手にして重りを装着してみる。
かなりの重量に多少の驚きがあり…
ベンチの前のグラウンドに出て構えを取る。
軽く振ってみるが…
「バットに振られているな。上手く振れるようになるまで頑張れ。
回数重ねることと自重トレを怠らないこと。
一人前に振れるようになれば…
その時は強打者の道を歩むようになるだろう。
期待している」
「はい!ありがとうございました!」
感謝の言葉とともに頭を下げると監督は選手を集める。
そのまま先程投手陣に説明したようなことを口にして僕らは各チームに分かれてミィーティングを開始したのであった。
そこから正味一時間が経過して…
第一試合が開始される。
山口悟率いるAチームと早川投手率いるBチームの試合は開始されたのである。
先行はBチームで…
一回表から山口悟の宣言通りに試合は運んでいた。
三者三振で攻撃の時間がすぐに終了すると僕らは守備につく。
監督の計らいなのか俺はショートを守っている。
試合形式で守備につくのは初めての経験だった。
早川の準備投球が七球行われている最中に僕らは軽い守備練習のようなものを行っている。
ショートの動きを頭の中で改めて思い出しながら…
早川の準備練習が最後の一球となり…
投手が投げた球を捕球した捕手がそのまま二塁へと送球。
ショートの僕が取り二塁に走塁してきた走者を仮定してタッチ。
完全に遊撃手の動きを頭の中で再生して…
いざ、一回裏の守備の時間が始まる。
Aチームの一番バッターが初球からセーフティの構えを取り…
早川の投球に乱れが生じる。
「セーフティ警戒」
捕手がサードとファーストに声を掛けている。
投手の早川もその言葉が耳に入り多少の警戒をしながら二球目を投げる。
再びセーフティの構えを取る打者だったが…
早川はしっかりとストライクを取る。
そこで僕は多少の疑問を抱いていた。
今の球はセーフティが成功するものだったと思われる。
それなのにバットを引いた…?
それが示す答えは…
きっとバッテリーへの揺さぶり行為として取った行動だと推察していた。
サードとファーストは心なしか前進守備気味だ。
相手は左打者。
「セカン。もう少しファースト側に寄って」
二遊間のコミュニケーションを図って声を掛けるとセカンドを守る先輩は了解してくれる。
セカンドがファースト側へ何歩か移動して。
僕もセンター側へと数歩移動していた。
「サード。そっち飛んだら何が何でも身体で止めて」
でしゃばりかもしれないが…
僕の言葉を受けてサードは了解と言うように帽子のつばを軽く触る。
「ファースト。ライン際に強い当たりが飛んだら頼む」
遅れて捕手が一塁手に声を掛ける。
彼も了解と言わんばかりに帽子のつばを触る。
内野手のコミュニケーションが取れると投手は投球モーションに入る。
打者はセーフティの構えを取り…
すぐにバットを引くとそのままヒッティングへ。
バスター打法が上手に成功して…
投手の足元を抜けていく強い打球が転がっていく。
しかし…
センター側に守っていた僕の数歩先だったため守備範囲だった。
上手に捌いて一塁へ送球。
アウトが宣言されて…
厄介な一番打者をしっかりと打ち取り守備のリズムは整っていく。
一塁手は投手に返球して…
投手はショートを守る僕の方へと視線を向ける。
「マジでサンキューな。今のプレイでこの試合…安心して投げられるわ」
感謝を受け取ったと言わんばかりに帽子のつばを触って応える。
そこから早川は調子が上がってきたのか後続の二人もしっかりと抑えていた。
三人でしっかりと閉めると僕らの攻撃の時間がやって来る。
二回表。
四番から始まる攻撃だったが…
本日の山口悟は初っ端からギアが上がっているようで…
Bチームメンバーは誰一人としてバットにボールを当てることが出来ずにいた。
「今日の山口先輩…やばくね?あんなん打てないって…」
四番を任されている選手が思わず弱音を口にしてベンチに戻って来る。
「ネガティブ禁止。雰囲気よく行こうぜ」
捕手がチームの雰囲気を良くしようと笑顔を向けてチームメイトを励ましている。
「この回は見に徹底しても良いよ。最終回の三人で一点取ろう」
投手の早川も捕手に釣られるような形でポジティブ発言を口にしていく。
「どうにかして九番の吹雪の前にランナー貯めよう。
山口先輩…なんでか分からないけど吹雪と対戦したがっているから。
絶対に逃げないよ。
一、二塁でも二、三塁でも最悪三塁だけ二塁だけでも良いけど…
吹雪の単打で確実に帰ってくれば一点はもぎ取れる。
そうだろ?」
選手たちはウンウンと頷いているが…
彼らは僕が絶対に単打を打つと信じているのだろうか。
この作戦には確実に僕の単打が重要だと言えるだろう。
七番、八番も重大な責任を担うことになるが…
下位打線の僕らに任せて良いのだろうか。
このまま五番、六番が打つ可能性も…
そんなことを思っていると…
二人はかなり粘った末…
三振に抑えられてしまうのであった。
「よく見れただろ?次の回は頼むぞ」
五番、六番を打っていた彼らは悔しい表情を浮かべながら…
それでもチームメイトに発破をかけるように務めていた。
「二回裏行くぞ。ちゃんと0点で守り切るぞ!」
捕手の声掛けにより僕らは守備位置に付く。
早川は二回裏にギアが数段上がったようで…
四番から始まる攻撃もしっかり三人でピシャリと抑えて見せる。
「早川。今日のピッチング…今までで一番いいぞ」
ベンチに戻ると捕手に声を掛けられて早川は薄く微笑んでいた。
「それよりも今は…この回で確実に一点取らないとって思考の方がでかいよ…
俺…吹雪の前の打順だし…ヘマ出来ない」
「もっと気軽にいけよ。山口さんの球を間近で見てきただろ?」
「そうだな…頑張るわ」
三回表の攻撃が始まり。
七番打者はどうにかして塁に出ようと画策していた。
出来る限りの様々な行動を取り…
投手のメンタルを揺さぶったり捕手のリードを読むように思考を巡らせていたことだろう。
しかしながら…
山口は崩れなかった。
捕手も好投の山口に釣られて自信のある配球を要求していた。
七番打者は三振に敗れる。
八番打者の早川の打順がやってきて…
彼も捕手のリードを読み好調の山口からヒットを打とうと努力している。
しかしながら…
早川も山口に三振に抑えられてしまい…
三回表まで山口は全員を三振で抑えていたのだ。
宣言通りパーフェクト以上の成績を達成しそうだった。
九番打者として僕はネクストで重りを付けて素振りを行っていた。
早川が三振に倒れるとベンチに戻ってくる。
その道中で彼は僕にアドバイスのような言葉をかけてくれる。
「いつもより球速上がっていると思う。
数km/h程度だけど…
いつもの球を知っている俺が言うんだ。
一応参考にしてくれ。
俺が言うのも変だが…
このままパーフェクトを許すなよ」
「はい!」
そうして俺は左打者としてバッターボックスに入り…
山口はボールを手に持ちながら俺に向けて右手を伸ばしている。
ヘルメットのつばを右手で掴むと軽く頭を下げた。
「よろしくお願いします」
同じ様に捕手と審判に頭を下げて…
俺と山口悟の月曜日ぶりの真剣勝負が幕を開けようとしていた。
「山口。ラストバッターだ。しっかりと抑えようぜ。
三振取れるよ。
このまま全員三振と行こうぜ。
裏の攻撃で俺達が一点取るから。
自分を仲間を信じて投げろ!」
捕手の言葉を受けて山口は肩の力が抜けたのか首を軽く回していた。
プレートに足を乗せて投球モーションに入った山口だった。
俺は捕手の言葉に苛立ちを覚えていない。
何故ならば月曜日に同じ様な経験をしているからだ。
もう捕手の煽りに乗っかることもなく…
一球目からギアが上がりきっている山口の速球を見送ることになる。
あえて見送ったのだが…
その理由は月曜日に対戦した時と速球にどれだけの差異があるか…
打席に立ってしっかりと感じたかったのだ。
審判がストライクをコールしてキャッチャーミットの位置を確認する。
アウトコースいっぱいに素晴らしいストレートが放られている。
この間までの制球力の甘さも見られない。
確実に今の山口はゾーンに入っていると言うか…
覚醒に指を掛けつつあると思われた。
チームメイトのエース投手が覚醒することのほうが…
僕が打つことよりもきっと大事だろう。
そんな弱気にも感じる思考を多少なりとも携えていたかもしれない。
しかしながらベンチへと視線を送ると…
「絶対に打て!」
「三振するな!」
「次に繋げ!」
「相手の気迫に負けるな!」
「吹雪なら打てるぞ!」
Bチームの仲間は僕に激励やエールを送ってくれており…
ポジティブな言葉でテンションが上った僕は…
捕手のリードと山口の思考を盗むように自らの思考を回転させていた。
続く二球目。
山口はフォーシームと殆ど変わらない球速のツーシームを先程と同じコースに投げ込む。
右投手の山口が放ったツーシームは変化量の少ないシュートのように曲がり軽く沈む。
ストライクゾーンからボール一個分外に出たと感じた僕はバットを出さない。
しかしながら審判がストライクをコールして…
俺は納得がいかないが判定が覆るはずもなく…
泣き寝入りするように諦める。
しかしながらまだツーストライクと追い込まれただけ。
そうプラスに考える他無かった。
そこからの捕手のリードは釣り玉を利用した配球ばかりだった。
山口との真剣勝負に僕の選球眼もいつもより上がっていたことだろう。
ツーボール、ツーストライクとカウント的には未だに不利な状況だった。
バッテリーからしたらもう一球遊ぶことも出来るだろう。
打者である僕もそう考えていた。
だが…今日の山口の実力は普段より明らかにレベルが上っている。
クサイところに制球出来る程のコントロールがあると肌で感じていた。
クサイところに差し込む?
インコース…腹を掠めるほど差し込む…制球…。
山口が月曜日に蒲田コーチに言われていた言葉が急に脳裏をかすめていく。
最後の決め球はストレート。
インコースに差し込んで…
打者が仰け反るほどの制球力を見せつけてくる…
これで俺を抑えるって初めから決めているんだ。
月曜日の真剣勝負を終えた時から…
山口は今日まで…今の今までずっと悔しさを抱えていたはずだ。
山口の投手としての思考が薄く透けてきて…
俺は一度バッターボックスから出ると深呼吸をする。
再びバッターボックスに戻る時…
俺は捕手にも投手の山口にもバレないように…
先ほど構えていた位置よりも一歩分だけベースから離れていた。
それによりインコースに差し込まれても…
しっかりと芯に当てられる位置を確保していたのだ。
もしもこれで打者としての僕の思考の上を行ったバッテリーが…
アウトコースいっぱいに要求して投げてきても…
俺は踏み込んで打つイメージが出来ていたのだ。
投球モーションに入った投手としての山口の思考力は…
と言うよりもバッテリーの思考力は打者としての僕の思考よりも上だったようで…
二球目に投げ込まれた時と同じ様にアウトコースいっぱいに…
ツーシームが投げ込まれている。
これではまるで二球目と同じシチュエーション…
ボール一個分外に変化していくツーシームだと理解していた。
ただし二球目と同じであれば…
審判はストライクをコールするはずだ。
右足を踏み込んで腰を捻ると…
速球に逆らわないようにレフト方向へと流すようにきれいにバットを出す。
左手をレフト方向に押し出すように出して…
右手を柔軟に使い振ったバットの芯に気持ちよく山口のツーシームが当たる。
サードの頭を越えるような当たりは山口の球威のお陰でかなり速い打球速度として弾丸ライナーになって飛んでいった。
サードは反応が遅れたわけでもなく…
ジャンプをしても届かずに打球はレフト線上にきれいに落ちる。
三塁審判のフェアのコールにより俺は全速力で走っていた。
レフト線上に勢い良く転がっていくボールを追いかけるレフト。
クッションボールをミスして取り損ねているのを見逃さずに…
どうにか二塁へと走っていく。
送球される前に二塁に到着して…
本日俺は初めて二塁打を打った日になったのだ。
ベンチからは割れんばかりの声援が送られていて…
俺は右拳を突き上げて笑顔を向けた。
山口は遊撃手からボールを受け取ると俺の方へと視線を向ける。
声は聞こえてこない…
所謂口パクだったが…
「楽しかった」
と言って右拳を僕に向けていた。
それにヘルメットを取って頭を下げると山口はきれいな笑みを浮かべて応えてくれるのであった。
残念なことに続く一番打者は三振に打ち取られ…
三回裏の守備の時間がやって来る。
七番、八番を打ち取った早川も本日の調子は最高だったと思われた。
九番打者は山口悟で。
これを抑えて引き分けで試合が終了すると誰もが思っていた。
いいや…もしかしたら山口以外全員だったかもしれない。
チームのエースであり自らに厳しい山口だけ…
今もこの瞬間も諦めていなかったのだろう。
早川の投げた初球は甘いコースに入ったわけではない。
捕手のリードも悪くなかっただろう。
早川の得意な変化球から入り…
打者の空振りを誘いストライク先行を狙う。
警戒していない九番打者に対しても気を抜いていない悪くない配球だったと思われる。
だが…もしかしたら何処かで気を抜いていたのかもしれない。
それでもショートを守る僕から見ても早川が投げた球は悪くない変化量だったと思われた。
しかし…山口はその球を確実に仕留めて…
高く上がった打球はセンター方向へと伸びていく。
センターが素早く落下点へと向けて走っていく。
ただ…あっという間にフェンスまでたどり着いてしまったセンターは…
グラブを構えるのをやめていた。
「まさか…嘘だろ…」
Bチームの全員がそんな声を漏らしたことだろう。
山口の打った打球はバックスクリーン直撃の大きなホームランとなり…
僕らBチームは接戦の末…
サヨナラ負けで敗退してしまうのであった。
Aチームの喜ぶ姿を見て…
僕らBチームは早川に謝罪の言葉を口にしていた。
「すまん早川…!俺が打っていれば…」
「俺もだ…山口先輩からちゃんと打てていれば…」
「俺は配球を見直す。俺の配球が読まれていたんだ…早川は悪くない…」
様々な選手が謝罪をしていたが…
当の本人である早川はあっけらかんとした表情で応える。
「打たれたの一本だけですよ?それで負けたなら仕方ないじゃないですか。
それに山口先輩だって吹雪に二塁打打たれていますし…
今日の投手戦は引き分けって思っておきます。
皆さんの守備のお陰で…
最後の一本だけで抑えることが出来ました。
ありがとうございます。
これが公式戦だったら…
悔やんでも悔やみきれないでしょう。
でも…紅白戦です。
むしろ色んな経験になりましたし…
確実に何かを掴んで成長できたと思います。
第四戦は確実に勝ちましょう!」
一番悔しいはずの早川の激励に寄って…
僕らBチームの士気は先程よりも一気に押し上げられたのであった。
第二試合が行われている間。
僕らは室内練習場でピッチングマシンを利用してバッティング練習を行っていた。
一人一人が意識を向上させて次の試合に挑むつもりでいた。
集中しすぎたため…
あっという間に時間が流れていると思われた。
蒲田コーチに呼ばれた僕らは気迫十分で第四試合に望むのであった。
第四試合でも早川は好投を続ける。
打者にボールを触らせること無く三振の山を築いていく。
それに応えるように打線は一回から爆発。
コールドの無い試合。
僕らはAチームとの試合でまるで打てなかった鬱憤を晴らすように…
Cチームの拳道をコテンパンにするほど打ち崩して…
大差で勝利を収めるのであった。
紅白戦の結果は…
Aチームが二連勝。
BチームとDチームが一勝一敗。
Cチームは全敗。
何やらCチームの拳道は…
本日不調のようだった。
その理由は…
「Dチームの一年連中にスコスコに打たれた…
第四試合の投球は…もう気持ちが入らなかったんだ…」
同じく二年生投手の早川に悩みを打ち明けていた拳道だった。
「そんなに打たれたのか?お前が?」
「あぁ。何処に投げても打たれるイメージが拭えなくてな…」
「どういうことだ?」
「あいつら…一年生大会で優勝して…完全に調子付いてやがる…」
「でも…そんな一年も山口先輩には完全に抑えられたんだろ?」
「あぁ…だから…悪い。俺のせいで二年が一年全体にナメられるかも…」
「心配しすぎだ。そんなこと考えてプレイしていると…控え投手降ろされるぞ?」
「だよな…。小林、内藤の調子もかなり上がっている。
Cチームの俺達は全然打てなかった。
あいつら確実に強くなってやがる…」
「負けないように取り組み方変えようぜ」
「あぁ。励ましてくれてありがとうな」
「水臭いこと言うなよ。同じ二年投手でライバルだろ?」
「今でもそう言ってくれるか…?」
「当然だ。気持ち切り替えろ」
「あぁ。ありがとう」
投手として覚醒した山口悟、早川、小林、内藤だったが…
その陰で確実に不調になってしまった拳道がいた。
来週も行われる紅白戦までに拳道の調子は上向くのだろうか…
第四試合で僕は四打数四安打。
内二本を二塁打と言う好成績で本日の紅白戦を意義あるもので終えたのであった。
本日の練習が完全に終了して。
山口は監督の下に拳道と早川を連れて行っていた。
俺はその様子を確認して…
平日の秘密特訓のメンバーが増えることを予想していた。
挨拶を済ませて父親の元へ向かう。
車に乗り込んで帰路に就く俺に父親は口を開く。
「吹雪。不調になった選手が這い上がるのは大変だ。
そうならないためにも日頃から事前に準備をすること。
全てを怠るな。
さすれば不調になどならない。
それとこれは…お前にはまだ早いことだが…
女性関係のトラブルで不調になる選手もいる。
だから女性と交際するなら真剣にな」
それに頷いた所で俺は疲労感に襲われて眠りに着くのであった。
次回。日曜日。
練習試合…山口響子もスタンドで僕らを応援している…!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。