第2話入団後初練習

「吹雪。お前は特別メニューだ。まずは体力つけろ。

投手陣と同じメニューをこなせ」


入団を認められた翌週の土曜日のこと。

父親に連れられて先週ぶりに訪れた球場で僕はキツイメニューを言い渡されていた。


「走り込みを中心に自重トレも軽く。

親父さんのことだから食トレも同時並行で行っているだろ?

特別メニューが終わったら俺のところに来い」


監督の言葉に返事をすると俺はすぐに投手陣と共にロードワークのメニューを行うこととなる。


「小学生だし俺達のペースについてこられないだろ?

無理しないでゆっくり来いよ」


中学生の先輩たちに優しく声を掛けられて俺は何を思い何を感じていただろうか。

負けん気が強い自らの性格を俺自身理解している。


「わかりました…」


ぶっきらぼうに返事をした俺は準備運動を済ませてスタートの時を待っていた。


「ロードワーク開始」


エースと思われる先輩が掛け声を口にして他の投手陣は応えるように声を発していた。

一番後方でロードワークについていく俺だったが…

明らかにスピードが早くついていくので精一杯だった。

このまま無理してついていけば体力的に限界が訪れることは火を見るより明らかだった。


少しずつ離されていく距離に俺は言い様のない悔しさを感じていた。

中学生に対して運動能力という土俵で勝負するのは小学一年生の俺には分が悪く思われた。


しかしながら…それでも諦めきれない俺がいて…

離されていく距離を確かに感じながら…

それでも彼らを見失わないように全力以上の力で食らいつくのであった。




結果的に見失うことはなかったが…

彼らよりも数分遅れでロードワークを終えた俺だった。


「お前凄いな…本当に小学一年生か?」


エースと思しき先輩は俺に飲み物を手渡しながら労いの言葉をかけてくれる。


「はい…ありがとうございます…」


「小学生にはキツイメニューだったろ?

こんな長距離走ったことあるか?」


「はい…一応父親と一緒に10km近く走っています…

でもこんなスピードは初めてでした…」


「凄いな…俺も入団してすぐにロードワークに加わって…

このスピードには驚かされた。

監督が定めた速さらしくてな。

試合のキツイ時に限界以上実力を引き出すためなんだと。

うちのロードワークは何処よりも過酷だと思うぞ。

だからそれについてこられた自分を誇ると良い」


「はい。次は…もっとちゃんとついていきます」


「ははっ。あまり無理するなよ?怪我しないように入念にストレッチな」


「はい…」


そこから俺は投手陣に混ざりながら入念にストレッチをして過ごすのであった。




「自重トレ開始」


エースと思われる先輩の掛け声に始まり僕らは自重トレを開始させる。

一般的にあげられる様な自重トレを順番に行う。

自らの体重で負荷をかける様に意識をして行っていた。

小学生には少なくない回数を行って体作り体力づくりに専念していた。


「俺達はこの後マシンを使ったトレーニングに移行するから。

お前は監督のところに行きな」


「はい…お疲れ様でした」


小学生の俺にマシントレーニングはまだ早いそうだ。

監督の指示によって俺の筋トレメニューは自重トレだけに定められていた。

そこにどの様な考えや意味があるのか…

俺には知る由もなかったのだ。


先輩たちはトレーニングルームへと向かい俺はグラウンドへと向かっていく。


現在野手陣はノックの最中で監督はベンチでその様子を眺めている。

コーチと思われる人物がノックバットを持ってバッターボックスの辺りでバットを振っている。


「監督…終わりました…」


「あぁ。お疲れ。うちのロードワークはどうだった?」


「はい。距離はどうにかなったのですが…スピードについていけませんでした…」


「だろうな。流石に中学生と同じスピードでは走れんだろ。

だが焦るな。

これから回を重ねるごとについていけるようになる。

むしろ吹雪なら追い越してしまうだろうな。

体力や運動能力は少しずつでいい。

徐々に上達させていけ。

素振りと捕球練習は親父さんに教えてもらっているんだろ?」


「はい。平日も休日も家の庭でみっちり練習しています」


「よし。そこは親父さんに任せる。俺が教えるより余程良いだろう。

土曜日はロードワークと自重トレばかりになるだろうが…

今は先のことを見据えて体力と運動能力の向上だ。

分かってもらえるか?」


「はい…」


「ただバッティング練習は入れ。後で個別にノックをしてやる。

それまでは先輩たちの動きを学習しろ」


「はい」


そこから俺は先輩たちのノックの様子を見学していた。

学べる所を存分に吸収して…

自らの能力を向上させるために努めるのであった。




バッティング練習がやってきて…

先週と同じ様に俺は10球連続でヒット性の当たりを打ち…

最速でバッティング練習を終える。


バッティングを終えると監督に呼ばれて俺はグラウンドの端で個別ノックを受けていた。

左右に振られるノックが行われて…

監督が打つ瞬間に軽く飛び上がるようにステップを踏み打球方向へと一気に駆け出す。

追いつかないと感じても必ず飛び込み。

意味のあるノック練習を終えると既に夕方が訪れていた。


最後は全員で素振りを行って。

クールダウンの後グラウンド整備。

ミィーティングと瞑想を終えると本日の練習は終了したのである。


迎えに来ていた父親の車に乗り込むと俺は疲労のピークを迎えて…

家までの帰りの車内で眠りこけてしまうのであった。

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