第4話 葉咲崎蒼と学校生活
毎朝電車で一時間以上かけて通学する都合上、
「腐れ縁、か」
切っても切れない関係。
中学生の時までは二人で一緒だった登下校の時間もなくなり、こうして顔を合わせることが出来なくなった。──だったのに、なんだかんだ土日は一緒に居た。
別に何か共通の目的があったわけでもない。
確かに蒼は勉強する為に緋羽を呼んだが、あの時の緋羽もマイペースに本を読んでいただけだ。
(確かにな)
自分達の関係を表すのにぴったりの言葉なのかもしれない。友達のような関係かと言われたらそれもまた微妙に違うような気がした。
各々が好きにやって、ただ隣にいるだけ。
緋羽のまるで気を遣おうなどと思ってないような不機嫌な顔を思い出すと、なんだかおかしく思えてくる。
それも悪くない。と、そう思う自分自身もまたおかしいと蒼は思いながら電車の中でうたた寝をした。
「合宿するぞ!」
昼休みに意気揚々とそう言い放ったのは、蒼の友人の
その他に
中学の時の知り合いはこの学校には殆どおらず、今のクラスメイトに至っては全員初対面。その中でもこの三人は今ではいつも一緒にいる仲で、顔を合わせてまだ三ヶ月だがすっかり友達となっている。
「何だそれは」
中指で眼鏡を上げながらため息混じりで一夏が言う。長身で整った顔立ちをしていてたまに千大へ毒を吐くことのある男。
「急にどうしたのさ千大くん」
困った顔で笑って聞くのは奏汰だった。
こちらは一夏とは反対に背が低く、高校生とは思えない童顔で、一夏が厳しく接する千大にも優しく寄り添う。
「合宿?」
蒼は焼きそばパンを頬張りながら純粋に疑問を唱える。
ここにいる四人は基本的に千大を中心に回っており、何か定期的に彼が突拍子もないことを言えば、一夏は呆れ、奏汰は愛想笑いをし、蒼はシンプルに疑問を持つ。
「来週テストだから勉強しないとヤバいだろ! だからここは皆の力を合わせて勉強合宿を──」
「断る」
「なぁんで!?」
心底嫌そうな顔をした一夏が吐き捨てるように言った。一夏は千大とは違ってクールな人間だが、千大に対しては主に負の感情が前面に出ている。
その様子が先日な緋羽のようで、蒼は参考資料として彼らのやり取りを静かに見守ることにした。
「山崎、まずは貴様が一人でやるんだな」
「一人だとやる気でねーのよ」
「なら俺の家を使うならいいだろう」
「えぇ? いや、お前ん家ってゲームとか何もないじゃ──」
「勉強をするんだろう?」
「そ────…………スゥー…………」
一夏か指を差すと千大は冷汗を流しながら顔を背けた。
「あれこれ理由をつけて遊びたいだけだろう貴様」
「だって一夏もテスト期間中は部活休みだろ。これは皆で遊ぶ絶好の機会だろ」
「勉強をしろ」
真正面から正論を言われて千大は天を仰いだ。
そこへ奏汰がフォローする。
「けど、一人で勉強するよりも皆で勉強した方が捗るよね。僕も勉強会はしてみたいな」
「三砂瑚、貴様は山崎を甘やかしすぎだ」
「その……千大くんを監視すると考えればいいんじゃないかな。千大くんが赤点取ると困るよね」
「俺はこいつが赤点取ろうと困らん」
「え、えっと……、千大くんが赤点取ったら……補習で遊ぶ時間が減るし」
「それはこいつの自業自得だろ」
「俺が赤点取る前提で話を進めるんじゃない」
「で、でも……千大くんが赤点取ったら……と、友達として……恥だよね?」
「ぅぐ……!」
フォローに回ったつもりの発言がより深く千大の心を穿った。どうやら恥と思われているらしい。
心に傷を負った千大は蒼にターゲットを変える。
「蒼!」
「ん?」
「蒼は勉強会どう思う?」
「んー、アリなんじゃ? 俺も一人だと全然やる気出ないタイプだし、正直俺も赤点回避出来る自信ないし」
「やっぱり蒼しか勝たん!」
「俺はわかってあげられるぞ千大……」
蒼と千大は肩を組む。
体育の授業でペアを組んだことがきっかけで仲良くなったが、二人の波長が合うのか今では妙に仲良しである。
そんな二人を一夏は冷めた目で見ていた。
「待て
「ん?」
「貴様はその馬鹿と違って真面目に授業を受けているだろう。その馬鹿の頭の悪さはお前の想像より遥かに下回るぞ」
「はぁ!? 蒼、授業中に寝てないのか!?」
「うん」
「なんでだよ! 眠くなるだろ!」
「いや、赤点取りたくないし」
「見損なったぞ蒼!」
「なんで?」
信じられないものを見る目をした千大と、その千大を呆れた目で見る一夏。
一夏には自分の能力の低さを認めて努力する人間と、自分の能力の低さに甘えて諦める人間の構図が見えていた。
「まあ俺は自分から望んで家から遠い高校に来たわけだし、それで赤点取ってたら本当に無駄だからなぁ。近いところでよかったやんってなるし」
「言われてるぞ無駄野郎」
「誰が無駄野郎!?」
再び一夏の矛先が千大に向いたところで奏汰が話を別の方向に舵を切る。
「じゃあ葉咲崎くんは何か行きたい大学とか、なりたい仕事とかあるの?」
「いや、今のところはそういうのはないかな」
「そうなんだ?」
「とりあえず頭が良くなりたいから来た」
「ざ、ざっくりしてるね……」
馬鹿みたいな答えに流石の奏汰も苦笑する。
一応理由はあるが、今ここで言うと三人のフォーカスを浴びそうなので蒼は伏せて置いた。
「まあいいや! とりあえず蒼も勉強会は賛成ってことでこれで三対一な! はい、決定!」
千大が高らかに宣言すると、一夏は呆れたのか腕組んで何も言わない。
合宿などという大掛かりなことは面倒たが、勉強会自体は反対はしないのだろう。なんだかんだ優しい一夏の一面が蒼には見えた。
奏汰はもとより周りの意見に従うつもりなので、一夏が何も言わないなら何も言わない。
そして、蒼は……
「あ、俺はこっちに来るの面倒くさいから参加はしないから」
「はぁん!?」
勉強会自体は否定しないものの、やはり家が遠いと面倒なので参加は拒否した。
「まあ葉咲崎はそうだろう」
「流石に大変だもんね」
一夏と奏汰の二人は納得する。
ここで断ることの出来る関係なのは蒼にとってもありがたかった。
「見損なったぞ蒼!」
「休みの日に一時間以上かけてこっちに来てやることが勉強て……」
「それは確かにそうだな!」
勉強したくない連盟の結束は強く、正直な気持ちを打ち明けると千大が一番納得してくれた。
そしてそんな蒼のことを尊重して千大はある提案をする。
「じゃあやっぱり勉強はやめて遊ぶかぁ──」
「殴るぞ貴様」
一夏が千大の胸ぐらを掴んだところで昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。
なんだかんだ蒼は退屈しない学校生活を送れていた。
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