第1話 子守唄
「…っ」
パッと目を覚ます
カラカラと喉が渇いてうまく声が出せない
嫌な汗が頬を濡らし、震えが止まらない
嫌な夢を見た
遠い昔の、忘れることなどできない遠い…
ぎゅっと奥歯を噛む
「 ルコア様? 」
大丈夫…?と心配そうな顔を覗かせる緑髪の少年
彼はこのフルアの森に住む木霊の子供、ルノ
彼ら木霊の子供達は、世界樹から産み落とされたとされている
彼らは世界樹を母とし、「マナの恩恵」「祝福」を受け、ここ「フルアの森」で暮らしている
「おはようございます、ルノ」
木漏れ日が彼のふわふわの綺麗な緑髪を優しく照らす
「おはようございます!」
えへへとここでしか咲かないフェアリーベルを
両手いっぱいに持ち、どうぞ!と両手いっぱいのフェアリーベリを受け取る
優しい香りがふわりと両手いっぱいに広がる
「…フェアリーベル…」
「あのね!ルコア様
フェアリーベルたくさん咲いてたからルコア様に贈り物!リコリスと、コハクと一緒に摘んだの。ルコア様、最近元気ないみたいだから…。
だからね!フェアリーベル沢山積んで元気にってもらおうと思って」
ニコニコと優しい笑顔に目頭が溢れる
「…ありがとうございます、ルノ
少し、幼い頃の夢を見たんです」
「夢?」
「…私には、兄がいました」
ーー双子の兄の事
ーー歌が大好きな事
ーー大好きなフルールの花畑の事
幸せだった日々を話す。
会いたい、兄に会いたい…
今はどこにいるのか、もしかしたらあの時にはもう…
私はかろうじて生きていた。誰かがフルアの森に連れてきたのか記憶が曖昧で目を覚ましたらこの場所に、世界樹の下で魔力を封じられ倒れ、鎖に繋がれていた
とても優しい「人」だったのはどことなく覚えている
「古代龍」私たちの種族は数少なく、小さな村でひっそりと暮らしていた
「ルコア様」
ニコッと笑ってぎゅーっと私の体を抱きしめる
「僕ね!大きくなったらルコア様のお兄ちゃんをお迎えに行く!それでね、みんなでフルアの森に住むの♪だから、ルコア様泣かないで?」
小さな手が私の頭に触れる
いつのまにか頬が濡れていて、止めようにもうまく止まらないでそれは溢れ出て
「…はい、そうですね、みんなでここで暮らせたら幸せですね…」
拭いても拭いても流れ出るそれを笑顔に変えるとルノはホッとしてニコッと笑う
「ルノー!」
「ルコア様ー!」
パタパタと走ってくる少女と少年
ルノと同い年の10歳のフルアの子供のリコリスとコハク
私の顔を見ると慌てた顔をして慌てた顔をする
「ルコア様、どうしたの…?大丈夫?」
「あ、お花足りなかった!?僕たくさん持ってきたんだ!コクルの実とあとはあとは、星屑のお花!」
リコリスと一緒に集めたんだ♪
と両手いっぱいの花々から星屑の花と、真っ赤に熟れたコクルの実をさらに私の両手にどうぞと渡す
みんなの優しさが嬉しくて一生懸命な3人に笑が溢れる
「…コハク、リコリス、ありがとうございます。
もう私は大丈夫です。こんなにお花をいただけるなんて幸せです。コクルの実も熟れていてとても美味しそうですね」
にこりと微笑むと2人はエヘヘと笑い返す
「またたくさん拾ってこなきゃ!」
「僕、秘密の場所知ってるよ!」
「あ、リリックのお花も摘んでこようよ♫」
きゃっきゃっと楽し気に話す3人
そろそろ太陽が上を指す
もう少し、コロコロとした3人の言葉に耳を傾けたかったけど
「…ルノ、コハク、リコリス
そろそろ長老の御伽噺(お話)が始まる時間ですよ」
「「「あ!!」」」
と空を見る、太陽が3人の白い頬を照らす
急がなきゃとワタワタと慌てた姿にくすりと笑う
いつのまにか涙はおさまっている
子供の笑顔は魔法なのかもしれない
「ルコア様!お話終わったら、またくるね!」
「今日は、どんなお話なのか楽しみにしていますね」
またねー!!
とパタパタと慌ただしく森の奥を元気に駆けて行く
行ってらっしゃい
転ばないように
怪我をしないように
駆けていった元気な3人の後ろ姿を見つめ
いつか自分もこの脚で、枷がついていない自由になった脚で野花を駆け巡り、会いたいと願う兄の元へと駆けていけたら
そう願うくらいは、自由でありたい
あの、木漏れ日のような優しくあたりを照らしてくれる少年少女と共に。兄が大好きな、みんなが大好きだと言ってくれた唄を唄う
はじまりの唄
母が子守唄にと聞かせてくれた暖かく優しい唄
安らかに穏やかに眠れるようにと
この唄が、どこにいるかわからない兄にも届きますようにと
ーーー
「ここがあの方が言っていた森か
やっと見つけたぜ、地図にも載ってねぇから苦労したぜ」
「気をつけろ、ここは古代龍以外にも「魔女」もいるらしいぜ」
「魔女?お前もう100年前に魔女は殺されていねぇんだよ。ま、何が出てもいいように俺たちは準備してきたんだ。」
サクッと花を踏み潰し、どんどん歩き進める黒いローブに身を包んだ5人の人物。
「さっ、ここら辺で全て炙り出すか。」
「パーティーの始まりだ」
ニタァっと笑う人物は、大きな機械の引き金を引く
猛獣のような音がフルアの森に響き渡った
聞いたことのない音に動物達が逃げ惑い
次の瞬間、木々は倒れ森は赤い光に包まれる
踏み潰された花は立つ力なくへたり込み
ちちちと小鳥達が飛び立った
優しい子守唄が風に乗って騒音と共に消えていった
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