第14話 苦悩

大学に入ってからの俺の生活は苛酷だった。ホストクラブの仕事が有る為、朝晩のトレーニングが出来なくなっていた。その代わりとして、肉体を酷使する引っ越し屋のアルバイトを週3回入れていた。

最も大変だったのが学業だった。成績上位の維持は絶対条件の為、俺は休日も只管勉強を続けていた。寝ている時間と働いている時間以外は、全て勉強に充てていたといっても過言じゃない。

大学で俺に言い寄ってくる女は沢山いたが、俺は全て冷たくあしらっていた。そんな事をする暇がないくらい、勉強に追われていたからだった。

特に厳しかったのがゼミだった。課題の難易度が高く回数も多い為、時にはバイトを休んででも出席しなければならなかった。

ただ教授には非常に気に入られていた。俺は兎に角大学では真面目一辺倒だった為、周囲の人間に冷たく扱われる事は無かった。




同じゼミ生の女で、小﨑希美という成績優秀者がいた。俺は小﨑と同じ班になる事が多く、いつの間にか大学の中で一番話をする様になっていた。

数カ月も経たない内に、俺は希美と恋人同士になっていた。付き合ったのは希美の家が金持ちで、社長令嬢だという事が一番の理由だった。

俺は実家が貧乏な事と、ホストをやっている事は希美に隠し続けていた。大概の女は嫉妬深いので、面倒事になるのが嫌だと思っていた。

物事を順調に進める為、俺は止むを得ずEDの治療薬を飲む様になっていた。取り合えず行為中に喜ばせておけば、希美も太客も全員俺を好きだと言っていた。

だが俺のトラウマは一向に治る気配はなかった。行為が終わってシャワーを浴びる時、ゲロを吐くのがどうしても止められなかった。

俺は男として異常なのかと、段々と思い詰める事が多くなっていった。周りはモテる俺の事を羨ましいと言っていたが、肝心の俺はその度に苦しみが増していった。



「俺の一押し!真島あんず、マジ可愛いだろ。こんな童顔なのに、すげえ体してるしよ。このフィニッシュの時の顔とかさあ、まじでいいと思わねえ?」

「木原さん、俺の前でAV観るなって何度も言ってるだろ。こんな馬鹿でかいモニター買って、どうせ見るならハリウッド映画とかにしなよ」

「馬鹿言ってんじゃねえよ、俺はAV観る為にわざわざテレビ買い替えたんだよ!!この大画面で堪能するのがいいんじゃねえか。あーあ、またこんな無茶な企画モノやらされて。俺のあんずを酷使すんじゃねえ!!」

心底馬鹿馬鹿しいものを見せられ、俺は1時間だけ眠らせてと木原に言った。今夜は一段と店が忙しく、気を張り過ぎて疲れ切っていた。

「駄目だ駄目だ、お前は単に耐性が薄いだけなんだって。親の行為を見たのって10歳の時の話だろ?もう10年以上経ってるじゃん、そんなもんさっさと忘れろよ。

俺なんか毎晩母ちゃんの喘ぎ声聞いてたぜ。人間なんて所詮動物なんだから、自分だけ潔癖を貫こうとするなよ」

「自分の考えを俺に押し付けるなよ…………あんなもんDV以外の何物でもないだろ。せめてホテルにでも行けよ、ボケが………」

「おいガキンチョ、いい加減に目覚ませよ。何の為にキンタマ付いてんだ、ったく。ほら、俺のもう一人の一押しを貸してやるよ。新人だけどこいつは売れるぜ」

そう言って木原は、俺の頭にドンと新品のAVを投げつけた。其れを拾って見た瞬間、俺は思わず「はあ!!??」と声をあげた。

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