第13話 愛に飢えたケダモノ
高校卒業と同時に俺は実家を出て、速攻で新天地にアパートを借りた。大学までは自転車で通える距離で、一駅歩けばホストクラブも無数にあった。
俺は木原の紹介したクリニックで、顔の整形施術を受けた。ダウンタイムという元に戻るまでの期間が一か月もあり、その間バイトに行けない事だけが苦痛だった。
貯金の300万は、整形と引っ越しで全て消えてなくなった。俺は一刻も早く金が稼ぎたかった為、帽子とマスクを被ってチラシ配りのバイトを始めた。
そして大学入学の4月、俺は新しい顔で大学の門を潜った。背が高くイケメンの類に入る俺は、入学してすぐに女が自分を見ている事に気付いていた。
チラシ配りのバイトで貯めた金で、俺は初めて携帯電話を購入した。すぐに木原からメールが届き、今晩会って話そうという事になった。
「だから言ったろ、お前弄れば絶対イケメンになるって!まじモテ男じゃん、体もめっちゃ引き締まってるし!」
「俺の勤勉な性格が、まさかこんな方向で役に立つとは思わなかったよ。早速だけど木原さん、俺もホストクラブに入店したいんだけど」
待ってましたと言わんばかりに、木原は嬉しそうに名刺を俺に渡していった。Crownというのが木原の働いてる店名で、其処に俺を紹介してくれると言った。
「此の辺じゃ一番売れてる店だから。それに今のお前なら絶対稼げる。店長にはもう話付けて有るからさ、最初は俺のヘルプやりながら仕事覚えて行けばいいよ」
俺は木原の紹介でCrownに入店し、初めの1週間は木原に仕事を教わりながらヘルプをやることになった。仕事の内容は至って単純だったが、トイレの掃除と暴れる女の対応が兎に角嫌だった。
「まーーー入店最初はしょうがねえよ。俺もゲロまみれの掃除、一か月は続けたよ。でも売り上げが付く様になれば、その底辺の仕事はもうやらなくても良くなる。此の世界は売り上げが全てだから、トイレ掃除したくなけりゃ女から金引っ張り出すことだ」
俺は木原の接客を徹底的にメモし、店に居る間は其れを何度もそれを見返していた。木原は軽妙なトークと、疑似恋愛に持ち込むのが非常に上手い男だった。
(俺はあんな風には出来ないが、逆に誠実性をアピールするという手はどうだろう。連絡は死ぬ程マメにして、本当に夢中になっている演技をする。兎に角初めての事だから、トライアンドエラーを繰り返して修正していくしかない)
自分でも意外だったが、体を鍛えていたお陰でスーツ姿が非常にサマになっていた。身長も180cmあったので、ブーツを履けばかなり店でも目立つ様になった。
入店から3週間で、俺はランキングというものに名前が乗る様になっていた。勿論木原がアシストしてくれたお陰もあるが、半分以上は俺の努力の成果だった。
俺の店での名前はマサトだった。俺が何でもいいと言ったので、木原が勝手に付けた名前だった。
三カ月後には俺はランキング上位の常連になっていた。太客と呼ばれる女が数人居て、他にも枝と呼ばれる細客が大量に居る状態だった。
俺は全員に毎日欠かさずメールを送った。枝にはテンプレートで一斉送信し、太客には毎日違う内容のものを送った。更に全員の誕生日や趣味・好きな男のタイプをエクセルにまとめ、それをプリントアウトしたものを毎日店でチェックしていた。
俺の一番の太客は、10歳以上歳の離れた女医だった。その女はめぐみという名前で、来るたびに旦那の愚痴を大量に聞かされた。
めぐみは兎に角俺との性行為を激しく求めてきたが、俺は其れだけはしないと決めていた。俺は両親の性行為を見てしまったトラウマで、相手が誰であっても其れをするのが嫌になっていた。
俺から見れば、めぐみは只の金を持ったケダモノだった。いつも露出度の高い服を着て、VIPルームで俺に行為を求めて来る。絶対に表には出さなかったが、俺はめぐみの事が吐き気がする程嫌いだった。
「お前さ、そのやり方だと早々に限界が来るよ。適当にやっときゃいいんだよ。めぐみは女医だぜ、本気になればもっと金引き出せるよ」
「前にも言っただろ、俺にはトラウマが有るんだよ。キスした後ですら、何回も歯磨きしないと駄目な体質だ。心底気持ち悪いんだよ…………飢えた女のあの顔」
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