第8話 5年後
それから5年が経ち、俺は中学3年生になっていた。相変わらず同級生に友達は出来ず、家に金も無い為お決まりの帰宅部だった。
両親のプロレスを見てから1年後、俺の家には家族が一人増えた。女の子が欲しかったと母親は喜び、リサイクルショップに通ってワゴン内の子供服を買い漁った。
父親の商売は相変わらず低飛行で、家には借金が増える一方だった。朝飯はもやしと卵のままで、晩御飯は今まで通り300円と決まっていた。
だが変わった事もいくつかあった。俺は中学生になってから、新聞配達のアルバイトを始めていた。
通学前の朝5時~7時の2時間と、夕方の2時間を配達の時間に充てていた。給料は俺の口座に振り込まれる為、俺の貯金は少しずつ増えていった。
俺はこの金には一切手を付けなかった。この金は高校を卒業後、一人暮らしをする為の資金にすると決めていた。
両親は妹にしか関心が無い為、俺の事は基本的に放置だった。夕方の配達を終えて帰宅後は、熱心に勉強していたので学校での成績も常にトップだった。
勉強が出来ると言うだけで、今まで見向きもしてこなかった奴らが俺に声を掛ける様になっていた。それは単純に、宿題のノートを写したいだけだった。
俺はそういう連中を全て無視し、自分の成績を上げる事だけに集中していた。必ず進学校に合格し、卒業後は割のいい仕事で生計を立てる為だった。
下校後に立ち寄っていた古い神社は、俺が小学6年生の時に取り壊された。西さんも小曾根さんも居なくなり、行方不明のポチも帰ってこないままだった。
俺は新聞配達のアルバイトの後、時々其の跡地に立ち寄っていた。此処は俺にとって特別な場所であり、何より西さんがどうしているか心配だった。
神社の取り壊しが決まった日、西さんは俺に体調が悪い事を教えてくれた。体に悪性の腫瘍があり、本来ならばきちんと治療を受けなければならないという。
それでも西さんは、治療を受ける事を拒み続けていた。西さんはグッタリとしゃがみ込み、体なんかどうなってもいいと言った。
「長生きなんてしても、なぁんにも良い事無いんだよぉ。家族からも早く死んでほしいと思われているしねぇ。だったらそうしてやるのが、私に出来る唯一の事…………所謂家族サービスってやつだよぉ、へへへ」
それについて、俺は西さんに何も言う事が出来なかった。ただその時強く思ったのは、西さんはもう好きな様に生きてもいいという事だった。
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