第6話 小曾根さんの秘密

小曾根さん、と俺はそのオバケに声を掛けた。すると小曾根さんは、無言でぬうっと俺の方を振り返った。

「誰や、お前。ガキがこんな時間に何しとる」

「さとるだよ、西さんの友達。小曾根さんこそ何してんの」

俺がそう言って近づいた瞬間、とんでもない悪臭が小曾根さんの方から漂ってきた。そういえば此処には風呂もトイレも無い。俺はヤバいと思って、その場に立ち止まった。

「どっかいけ、どっかいけ!!しっ、しっ!!」

小曾根さんはそう言って、太った体を引きずるようにしてのそのそと境内の奥へと向かっていった。

俺は帰った振りをした後、裏側に回って物陰から小曾根さんを観察していた。すると小曾根さんは茂みの奥の方に行き、其処から長いホースを引っ張り上げていった。

そんなところから水が出る事を、俺は今の今まで全く知らなかった。小曾根さんはその場で服を脱ぎ、頭から水をぶっかけていった。

暗くてよく見えなかったが、恐らく其処が小曾根さんにとっての風呂場だったのだ。恐らくトイレも全部其処でしているのだろう。

俺は小曾根さんに興味が湧き、そのままじっと次は何をするのか様子を見ていた。



それから数分後、ごそごそと茂みを搔き分ける音が聞こえてきた。俺はびっくりして、思わず物陰の裏でしゃがみ込んだ。こんな所に熊や鹿はいないので、出て来るとしたら人間以外に考えられなかった。

暫くすると、んごぉ~~~!!という小曾根さんの呻く様な声が聞こえてきた。やって来たのは恐らく大人の男で、俺は小曾根さんが殺されかけているのかと思った。

(ヤバい、西さん呼んできた方がいいのか?でも西さんは何処にいるのかわからないし…………そうだ、ポチ!!ポチを連れていけば男に向かって吠える筈!!)

俺は物音を立てないようにして、急いでポチの居る犬小屋へと走っていった。そしてポチの鎖を外し、ポチを連れて小曾根さんの居る茂みの方へと向かっていった。

俺がポチのケツを蹴飛ばすと、ポチはワンワン!!と大きな声で吠えた。すると茂みの向こうから、男の怒鳴り声の様なものが聞こえてきた。

(いいぞ、もっとデカい声で吠えてやれ!!早く吠えろ、此のノロマ!!)

俺は小曾根さんを助ける為に、何度もポチのケツを蹴飛ばした。その度にポチは大声で吠え、茂みの向こうから「うるせえ!!」という怒鳴り声が聞こえてきた。



「ガキと犬が、こんな所で何しよる。どっかいけや、ぶち殺すぞ!!」

そう言って出て来た男は、下半身に何も履いていなかった。シワシワの顔を更にシワクチャにしながら、俺とポチに向けて「死ね」と何度も言った。

「お前、俺が警察呼んだら捕まるぞ!人殺しは犯罪だ、今日俺が見た事は交番で全部話すからな!」

「はあぁ?何言っとんじゃこのクソガキは。誰がこんな臭いババア殺すか、ボケェ。もうええわ、此のクソが!」

シワシワの男はそう言って、繁みの奥から裸の小曾根さんを突き飛ばしていった。まるで樽の様に小曾根さんはゴロゴロと転がり、その上に男が彼女の服を投げ飛ばしていった。

其の時の俺は、ちょっとしたヒーロー気分だった。ポチを連れて小曾根さんの傍に駆け寄り、大丈夫と声を掛けた。

其の瞬間、俺は恐怖でしょんべんをちびりそうになった。起き上がった小曾根さんは、俺の事を殺すような眼で睨みつけていた。

「こんのクソガキがぁぁぁ!!お前のせいで、今日の稼ぎがパーになってしもうたやないか!!このボケェ、うんこたれのクソガキィィィィ!!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る