第5話 貧乏な俺と、金持ちのババア
次の日から俺は、学校が終わったら熱心に図書館に通う様になった。理由は明白だ。弟か妹が生まれた瞬間、ドブ河に投げ捨てなければならないからだった。
俺は幸いな事に、本を読む事は全く以って苦にならない性格だった。片っ端から法律の本を手に取り、赤ん坊を河に投げ捨てるとどうなるのかを調べていった。
しかしどの法律の本を読んでも、俺の求める答えは何処にも載っていなかった。はっきりとわかったのは2つだけ。
人殺しは警察に捕まる事と、子供の犯罪は少年院送りになるという事だった。
心底馬鹿馬鹿しい、何故俺が家を護る為に犯罪者にならなければならないのか。日本の法律はおかしいと俺は酷く憤慨した。
一体誰に相談すれば、俺の両親の行為を止めさせてくれるのだろう。両親は俺の言う事など絶対にまともに聞かない。俺は抑々両親には大事にされていないのだから。
1週間悩んだ結果、俺は役所がやっている無料の「こども相談室」という所に行く事に決めた。其処に行けば誰かが俺の話を聞いて、両親のバカげた行為を止めてくれると願っていた。
しかし結果は散々たるものだった。相談員のオバサンは、俺の話を聞くなり嫌そうな表情を浮かべた。
「あのねえ、そういう事は子供が口出しをしてはいけないの。ご両親はね、別に貴方を困らせようとしているんじゃないのよ」
「じゃあ何故貧乏なのに、これ以上子供を増やして余計に貧乏にするの?子供って育てるの金が掛かるだろ。俺が小学生になった時、母さんはめちゃくちゃ嫌そうな顔で中古のランドセル買ったけど」
「それは………たまたまその時、お金に余裕が無かったのよ。其れにランドセルってね、きちんと使えばとっても長く持つのよ」
「そういう事を聞いているんじゃなくて、弟か妹の食費や学費をどうやって払うつもりなのかと聞いてるの。俺の家、時々電気だって止まる事もあるんだよ。今でさえこんな状態なのに、なんで余計に金が掛かる事をやろうとするの」
俺は自分の意見を口にしながら、此のオバサンには何を言っても届かないと思った。オバサンの着ている服は上等なもので、指には高そうな指輪をはめていた。
「今は生活が苦しいかもしれないけど、この先もそうとは限らないでしょ?お父さんのお仕事が上手く行ったら、お給料も増えるかもしれないわよ。そうすればお金に困る事も無くなるし、お子さんが増えても大丈夫でしょ?」
「その逆になったらどうするの。今の時点で父さんの仕事は上手く行っていないし、うちにはいくらか知らないけど借金もある。順番が逆だと俺は思うけど。父さんの仕事が上手く行って借金がなくなってから、弟でも妹でもつくるのが正しいんじゃない?」
オバサンは嫌そうな表情をしながら、壁に掛けてある時計のほうに目をやった。そして未来には希望があるから、そんなに悪いことばかり考えてはいけないと言った。
俺はいつもの300円を持って、スーパーの値切り品を買った。この日はおにぎりが2つと、よくわからないメーカーのまずいお茶を袋に入れた。
其れを持ったまま、俺はいつもの神社の境内へと向かった。家には帰りたくない、あの家に居ると俺は頭がおかしくなりそうだった。
貧乏な家の子供に生まれなければ、俺はもっとましな性格の人間になれていたのだろうか。あの金持ちのオバサンの言う事にも、素直にハイと返事をする事が出来たのか。
そんな事を考えても何の意味も無い。現実俺の家は貧乏で、母さんの口癖は「お金が無い」なのだから。
俺がまずい夕飯を食ってゴミを放り投げると、あの青いボロ小屋から人が出てくるのが見えた。ボサボサ頭に太った体で、遠くから見るとオバケか何かの様に思えた。
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