第3話 謎のオヤジと汚い犬
友達の居ない俺は、下校も当然一人だった。入学してから俺は一度たりとも、此の校門の前で誰かにバイバイと言った事はなかった。
どうせ嫌でも明日も会うのだから、バイバイと言う意味がわからなかった。そして何よりバイバイではなく、さようならと言うのが正しいと思い込んでいた。
さようならは俺の一番好きな言葉だ。もうお前とは二度と会いたくない、そういうニュアンスを僅かに感じられるからだ。
俺には下校の際の日課があった。うっとおしいクラスメートと同じ通学路を通るのではなく、其処から外れた路地に入ると決めていた。
路地の途中にはボロボロの神社があった。当時の俺にとっては、其処が一番のお気に入りの場所だった。俺はいつも通りボロボロの神社の境内に入ると、頭が半分禿げた薄汚いオヤジが声を掛けて来た。
「さとるくん、学校終わったんかね。今日はまた一段と暑いねえ」
「夏なんか早く終わればいいのに。俺の家クーラー無いから、夕方まで此処で涼んでいっていい?」
俺がそう言うと、オヤジはいいよぉと言ってにかっと笑った。此のオヤジの名前は知らないが、西さんと呼ばれているのを一度だけ聞いたことがあった。
普段何をしているのかも、どうして昼間に此処に居るのかも知らない。理由なんてどうでも良かったし、俺にとっては此処で涼む事の方が重要だった。
「西さん、ポチは?昼寝中?」
「おるよぉ、いつもの犬小屋に。でも今日は特に暑いけぇね、バテて外に出るの嫌がるんよぉ」
ポチというのは、此の境内の隅の犬小屋にいる犬の名前だった。種類は良くわからないが、図鑑で見る限りは柴犬か何かだと思う。
誰かが勝手にポチを此処に置いて、其れを西さんが拾って小屋を建ててやったという。西さんが作った小屋の前に俺は座り、バテてぐったりしているポチの様子を覗き込んだ。
「何歳か知らんけど、もうポチもええ歳なんかもしれんねぇ。どこそこの犬やったら、このぐらいの暑さは何ともありゃせんと思うんやけど」
「まあいいじゃん、犬なんだから好きにさせとけば。それより西さん、ちょっと聞いて欲しい話があるんだけど」
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