第2話 両親のプロレスの件で保険室のババアに怒られた
いつもは母親が朝俺を起こしに来るが、其の日だけは俺は自分から起きて朝食を食いに行った。母親はいつも通りの様子で、今日は珍しいわねとだけ言った。
俺は其れを無視したまま、定番のもやし炒めを口の中に突っ込んだ。母親はとても料理が下手な上に、食材はもやしと卵以外に何も出てこなかった。
父親は朝の6時には仕事に行く為に家を出る。俺は父親が仕事に向かう音も、布団の中で全て聞いていた。
「今日残業で帰り遅くなるから、晩御飯適当に何か食べといて」
そう言って、母親は俺の目の前に300円を置いていった。此れはいつもの事で、俺は無言でそれをポケットの中にしまい込んだ。
ろくに母親と目も合わせないまま、俺はさっさとランドセルを背負って小学校へと向かった。
俺にはクラスメートに友達がいない。1年生の時からずっとそうだった。だから通学路でも、俺におはようと声を掛けてくる奴は居ない。
それを寂しいとか辛いと思った事は一度も無かった。俺はクラスメートの全員を、心の底から激しく嫌っていた。
バカで無知で汚らしい。其れが俺のクラスメートに対する共通認識だった。俺は幼稚園の時から文学を好んでいたせいか、クラスメートが大好きなゲームや馬鹿馬鹿しい遊びに全くと言っていい程興味が無かった。
授業を受けている最中も、深夜に見た両親の姿がフラッシュバックして気分が悪くなった。後から思い出す程に、何か不潔なものを見たという気持ちが込み上げてきたのだ。
俺は耐え切れなくなり、午後の授業中に手を上げて具合が悪いと教師に言った。すると教師は嫌そうな顔をし、隣の席に座る同級生が「サボり」と俺に言った。
「さっさと保健室行ってこい。全くお前という生徒は…………つくづく軟弱な奴だ」
教師が俺に冷たいのはいつもの事だった。俺は無言で立ち上がり、さっさと保健室に向かって歩いていった。
「熱は無いし、只の夏バテじゃない?其処にベッドあるから、適当に休んだら教室に戻りなさい」
保健室の担当は、俺の母親と同じ位の歳の眼鏡を掛けたブスだった。態度がデカい上に口が臭いので、クラスメートの殆どから嫌われていた。
「俺が体調が悪いのは、昨日の夜殆ど眠れなかったから」
「なによ、夜更かししてゲームでもしていたんでしょ。だらしないわね、そんなんだから友達も出来ないのよ」
保健室のブスババアにそう言われ、俺は無性に腹が立った。椅子を蹴り飛ばす様にして立ち上がり、ババアに向かってデカい声で言った。
「俺の家は貧乏だから、皆が持ってるゲームなんか無い。それに俺が夜眠れなかったのは、俺の両親が裸でプロレスをしていたから!!」
其れを聞いた瞬間、保健室のブスババアは下衆を見る様な目付きで俺を見た。そして顔を引きつらせ、俺に向かって馬鹿と怒鳴りつけた。
「子供の癖に、おかしな事言ってるんじゃないわよ!!くだらない事言ってる暇があったら、さっさと家に帰って宿題でもしていなさい!!」
俺はヒステリーを起こす大人が昔から大嫌いだった。俺の母親もそうだが、デカい声を出してわめきちらすのは恥ずかしい事だと思っていた。
下校の時間になるまでベッドで横になり、チャイムがなったらさっさと保健室から俺は立ち去った。こんな所に居る方が、俺にとっては余計に気分が悪くなるだけだった。
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