狂気

 とうとう旭から告白をされた。もちろん受けたとも。

 この日が来たのだと、にやけてしまう顔を必死に抑えることができてよかった。


「ようやく」


 部屋の中にはおびただしいほどの彼女の写真で埋め尽くされている。

 全て盗撮したものだ。


 一年前、初めて学校で見たとき、恋に落ちた。

 さらりと流れる黒く長い髪、屈託なく笑うあの顔、細く白い手足。


 全てにおいて欲しくなった。


 こんな感情は初めてで、あの全てが欲しいと強く思った。

 それからの行動は、彼女を手に入れるためにだけに動いた。

 同じ高校だったのは幸運だったな。


 彼女の情報を探って、少しずつ近づいて。

 彼女にバレないように、自然に、ストーカー行為を行う。

 すべてを手に入れるために。

 名前、好きなもの、嫌いなもの、家族構成、住所、日々の行動パターン……。

 半年ほど情報を集めた。


 夏休みに入ってから、制服のまま泳いでいることを知ると、私は夜の散歩を始めた。

 偶然を装って、助けに入って、そうして初めて出逢うことになる。


 ドラマチックな出逢いのせいか、距離が縮まるのが早かった。



「かわいい私の旭。今から会いに行くね」



 スマホに映る彼女を見てつぶやいた。



 ■



「もうすぐ夏休みも終わるね……」

「そうだね」

「か、彼女になったわけだし、これからもよろしくね」

「よろしくね。……かわいい」


 真っ赤になった彼女はかわいい。

 隠していた冷たくて小さいペットボトルを彼女に渡した。

 疑うことなくお礼を言って、彼女は一気に飲み干してしまう。

 睡眠薬が入ったジュースを。

 数十分もすれば効いてくるだろう。

 家に着く頃には、きっと。


「あ、今日家に誰もいないんだっけ」

「いないよ……なにすんの」

「ただの確認だから」


 ふーん?と言いながら、彼女は横を向いたが、顔を真っ赤にしているのがわかった。

 かわいいなあ。

 彼女と二人、家に向かう。

 何度も見た家だった。

 初めて来たかのようなフリをして、家の中に入る。

 お邪魔します、と言った瞬間に彼女が崩れ落ちた。


「おやすみ」


 そう彼女に告げて、家を出る。

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