君と私


「なんで制服のまま泳いでるの?」

「気分!」


 砂の上に座って、旭を見ている。月明かりに照らされている旭は楽しそうだ。

 友達になった日から毎日のように夜の海に繰り出している。私は泳がずに、泳ぐ旭を眺めているだけ。

 泳ぎ疲れたら、タオルで身体を拭いて、ある程度乾くまで他愛ない話をする。風邪を引きそうな毎日だが、旭が風邪を引く様子はない。むしろいつも元気ですらある。

 バシャバシャと楽しげに泳いでいる旭を見ていると、私もと思ってしまうが、絶対そんなことをしたら風邪を引いてしまうだろう。

 ぼんやりと眺めていたら、旭が上がってきた。


「はい、タオル」

「ありがと」


 タオルを受け取り、黒くて長い髪をゆっくりと拭く。月明かりに照らされて、宗教画のような雰囲気がある。喋り始めたらそんなこともなくなるのだけど。

 服の裾を絞って、海水を滴らせる。そしてブルブルと犬のように身体を揺らす。

 僅かな海水がこっちにまで散ってくる。その冷たさが心地よい。

 見上げると丸い月がこちらを照らしていた。ぼんやりとしていたら。


「好き!」


 唐突な告白である。友達だったらよくあることだけれど。ノリで私も好きだよと返す。

 

「なんか軽ーい」

「気のせいだよ」


 はは、と笑って、旭の頭をなで回すと、ムスッとしながら歩き出す。その後を私はついていくのだった。

 こんな毎日が続けばいいなと思う。本当にそう思った。





 ■





 いつものように月明かりが海を、私たちを照らす。

 いつもなら旭はすぐに泳ぐのに、今日は海に入ろうともしない。どうしたのかと思って、聞いてみても、もごもごと口を動かすだけだった。

 いつもより赤い顔。

 もしかしたら体調でも悪くなってしまったのかと思って、聞くけれど違うという。

 もじもじと何か言いたげな旭だったが、覚悟を決めたような顔をして口を開いた。


「あの……夜乃、私と付き合って」

「ほんとに?」

「うん……」

「ありがとう、嬉しい」


 きっといつもより温度が高くて柔らかい身体を抱きしめる。ぎゅっと旭も抱きしめてきた。

 この温度を手放したくないと思った。

 

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