駐車場掃除で

リュウ

第1話 駐車場掃除で

「駐車場の清掃、お願い」

 主任の彼女は、チロルチョコを一掴みし、僕のエプロンのポケットに入れた。

 僕が甘いものに弱いのを知っている。

 実は、主任の彼女にも弱い。

 ここでバイトする事を決めたのも主任が面接官だったからだ。

「ありがとうございます。行ってきます」僕は、管理室から駐車場に向かった。

 エプロンをしてホウキとちり取りとゴミ袋と清掃用トングを持った。

 僕には遭遇したくないモノがある。


 一、死体(絶対無理、死んでも会いたくない)

 一、酔っぱらって寝ている女(好みの人ならOK)

 一、酔っぱらって寝ている男(何を言ってるのかわからないし、暴力的なので)

 一、お金を抜かれた財布とか鞄(警察に疑われたくないので)

 一、大酒飲みのお客様のアレ(見たくない)


 気分が悪くなるので、考えるのを辞めた。


 駐車場に出る。

 空は、青空。いい天気だ。

 さぁ、やるぞと気合は十分だ。


 全体を見渡す。

 先ず、遭遇したくないものや大型のゴミが無いか確認。

「ラッキー、無いようだ」一人呟いた。


 奥から掃除を始める。

 ここは、ビルに囲まれているので、風の影響か色々なゴミが集まる。

 コンビニの袋とか、タバコの吸い殻や箱。

「あっ、キモ」声が出てしまうもの発見。

 ピンク色のフニャフニャした物体。

 使用したものか不明。

 トングで挟んで、ゴミ袋へ投入。

 こんなものは、責任を持って処理してもらいたいものだ。


 一通り、ゴミ拾いが終わると、ホウキで白線出し。

 駐車する人から見れば、この白線は大切なもの。

 線がはっきりしていれば、気持ちもいいし、隣の車とのいざこざも防げる。


 僕が白線をホウキでなぞっていると、目の前に子どもが現れた。

 丁度、小学校に上がるか上がらないかの年頃。

 僕の顔を見上げて笑ってる。

「こんにちは」と僕が言うと

「ファスナーが開いてるぅ!」と言って、僕の股間を指さした。

 反射的に僕は自分の股間を見た。

 その途端、「うわぁ、引っかかったぁ」と笑いながら僕から離れた。

 その時、気づいたのだが、もう一人女の子が居て、その子も一緒になって笑っていた。

 僕は、「やられた」と唇を噛んだが、なんか懐かしいく思った。

 そんなこと、僕も昔、やったなと思った。

 今もするのだろうか?

 スカートめくりとかしたら、セクハラで怒られるのだろうか……。


 僕は、車止めの縁石に腰を掛け下を向いた。

 ゆっくりと子どもたちが近づいてくる。

 僕の肩に手を置いて、「どうしたの?」と僕の顔を除いた時

「つかまえたぁ」僕は子どもたちを捕まえた。

「わー、ずるいよ」と暴れるが僕の腕から逃れることはできない。

「お前たち、人をからかって、悪い奴だな」と、怒った顔をして見せた。

 子どもたちは顔は、引きつっている。

「うそだよ」と言って、僕は手を緩めた。

 子どもたちは、笑いながら一二歩後ずさったが笑っていた。

 僕は子どもたちに横に座るように誘った。

 僕の横に縁石に座る。

「どこから来たの?」

 笑いながら頭をかしげる。

「名前は?」

 動作は変わらない。

 僕はエプロンのポケットから、チロルチョコを出した。

 子どもは正直なもので、目を見ればわかる。

 チョコを食べたいのだと。

「遠慮するなよ」

 小さな手がゆっくりとチョコをつまむ。

「君も」

 女の子にもチョコを差し出す。

 恥ずかしそうに僕をチラッと見てから、チョコをつまんだ。

 小さな手で、チョコの包みを開ける。

 口にポイっと投げ込む。もぐもぐ噛むと口が緩む。

「おいしい?」

 二人とも「うん」と頷く。

「これあげるよ」

 僕は、残りのチョコを同じ数、子どもたちに与えた。

「ありがと」小さな声で言った。

「どういたしまして」そんな様子を見ていると僕も幸せな気持ちになった。


「この人、いい人……」

 女の子が男の子の顔を覗き込み言うと男の子も「そうだね」と頷いた。

「終わったの」

 その時、僕の背中越しに声をかけられた。

 振り向くと主任だった。

「あら、どこの子」

 しゃがんで、子どもたちと視線を同じにする。

「僕たちが見えるの?」と子どもたちが小さな声で呟いていた。

「僕も訊いたんですが、わからないです。近所だと思うけど……」

「近所?ここはラブホテル街の真ん中……家なんか無いわよ」

 主任が立ち上がって僕に向か言った。

 何か子どもたちが話している。

「この人もいい人」確かそんな事を言っている。

 女の子が主任の手を取る。

 男の子が僕の手を取る。

 手を引っ張って、僕の手と主任の手を重ねた。

「お似合い」と女の子。

「お似合い」と男の子繰り返す。

 子どもたちは、僕と主任の顔をじっと見つめる。

「やったぁ」と叫んで、女の子が走っていった。

「やったぁ」と男の子が追いかけていく。


 僕と主任は、お互いに手を繋いでいることに気づき、恥ずかしくなり手を放す。

「何ですかね」

 少し顔を赤らめた主任が言う。

「戻りましょ」と僕と主任が管理室に向かった。


「よくあるのよ。

 ここラブホでしょ。

 子どもが部屋を走り回りとか、色々……」

 と、主任が教えてくれた。


 それがきっかけで、僕と主任が付き合い。

 お互いにラブホの仕事を辞め、結婚している。

 主任は妊娠し、お腹には双子がいるらしい。

 今、僕と主任は、幸せな時を過ごしている。

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駐車場掃除で リュウ @ryu_labo

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