第4話 クラさんと、ミコちゃん

四年生の頃の友人として、クラさんとミコちゃんがいる。

いや、クラさんとミコちゃんだけいた。

なんならクラさんはほっちゃん同様向こうから友人と認識されていたかどうかは少し怪しいが、ほっちゃんと大きく異なる点は、一緒に下校し、家に招かれていた、ということがある。

そんな人間関係として一歩進んだ事実まであるのになぜ友人断定出来ないかというと、クラさんと私は性質上気が合うとは言い難かった。

クラさんは活発で運動神経が良く、男の子の友人が多かったことに対し、私は学年で最下級を争う運動能力の持ち主であり、この頃には本を読むことに目覚め、図書室の住人と化し、加えて人間の中でも同年代の男子は最も苦手な生き物であった。

それでも一緒に居たのはたぶん家が近かったことと、両親が留守がちで放課後の時間を持て余していたクラさんにとって、呼べばすぐ家に来る私はとても都合が良かったのだと思う。事実、一緒に遊んでいる最中に彼女と親しくしている男の子から、ドロケイやら鬼ごっこやら私の運動能力では到底ついていけない遊びに誘われると、呆気なく私は置いていかれた。

寂しくもあり、幼いながらに選ばれなかったという事実にほんのり自尊心が傷ついたりもしていたが、それでもクラさんとは六年生までつかず離れず過ごしていた。

いつのタイミングだったか、おそらく彼女の秘めたる趣味であったろう宝塚のブロマイドを見せてくれた時は、秘密の共有者に選ばれてとても嬉しかった。残念ながらタカラジェンヌの魅力はブロマイドからだけでは理解できず、もしかしたらクラさんの立場からすれば良き秘密の共有者にはなれなかったかもしれないが。

クラさんは卒業後、私立の中学校に行ってしまったためそれ以降一切の交流は無い。

一度だけ街で中学校の制服を着た彼女と思しき人物ととすれ違った気がしたが、思い切り目を逸らされたので、よく似た他人だったと信じたい。

あるいは久しぶりに会った友人を前にトップギアで人見知りにエンジンが掛かって挙動不審極まれりの私の様子から、見ないふりをしてくれたのかもしれない、と前向きにとらえておく。


そんなクラさんと対照的な存在だったのがミコちゃんだ。

ミコちゃんはにっこり笑うと前歯の矯正器が印象的なとても優しい女の子だった。

そしてクラさんと違い、どちらかというと室内の大人しい遊びを好み、いつも女の子の輪の中に身を置いていた。

本が好きで、賢い子だったけれど、ほっちゃんのような切れ者大御所という雰囲気はなく、何となく小動物のような愛らしさがあった。 

そして今から見ると、彼女はその純粋無垢な見た目と相反する成熟したオタクな一面を持っていた。


仲良くなったミコちゃんは私にたくさんの漫画を貸してくれた。カードキャプターさくらから始まり、エンジェリックレイヤー、CLAMP学園探偵団、その後ちょびっつ、不思議な国の美幸ちゃん。

そのあたりから、全て同じ作者なうえに、内容が今まで触れたことないほどアダルトな表現に、イケナイ世界を垣間見てしまった後ろ暗さと、コレを知ってしまったことが周囲にバレることへの不安で好奇心と緊張感の狭間を彷徨きながらコソコソ読んでいた。

私も長女でありオタクであった湯気ちゃん(仮名)の影響で、りぼん、ティーンズ文庫各種、スレイヤーズ、らんま1/2、ときめきトゥナイト等の道のりは既に通ってきていたがCLAMPはまだ当時の私には刺激的過ぎた。


しかも子供の頃の私は物の価値というものを全く理解しておらず、ミコちゃんが大事にしていたであろう漫画を随分乱雑に扱っていた。自室を持っていなかったこともあり、どこか家族の居ない部屋を探すために、漫画をズボンに挟んでお腹の中に隠してはトイレに持ち込んで読んでいた。もちろんそんな扱いをすれば、カバーや帯などが痛む。

今から考えると本当に目を覆いたくなる所業である。

そんな恩を仇で返す所業をしていた私なのに、ミコちゃんはその後も仲良くしてくれたし、何かとグループを作らねばならない場面であぶれる私を快く入れてくれた聖女のような人

だった。

ミコちゃんはその賢さから当然のごとく私立中学に進学したし、クラス替えで自然と交流は無くなっていった。


2人とも孤独と隣り合わせの小学生時代を支えてくれた、大切な友人であった。

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