第18話 千桜の家
千桜の家は、『凰』と表札が付けられた立派な家だった。壁が白く、屋根は片流れになっていて、その上にソーラーパネルが乗っている。一階も二階も窓が大きく、ベランダもあった。
「どうぞ」
ささやかな門を開け、千桜に促される。ネットで出会った女子中学生が暮らす家。おれの足が緊張して動きを止める。
「大丈夫ですよ。お父さんは家から出ていって、今は私とママで二人暮らしなんです。そのママも、今日は用事があって帰らないって言って、さっきめちゃくちゃあざとい系のおしゃれして出ていきました。こういう日は明日の夕方頃まで戻らないんですよ」
本当だろうか。この前も、千桜は大丈夫と言いながら家に警察が来た。千桜は少し見通しが甘いところがある。彼女の言葉は百パーセント鵜呑みにはできない。なにせまだ中学生だ。
そうは思いながらも、おれの足は『凰』家の門を越えた。「おじゃまします」と呟き、千桜が玄関扉を開けて、その中に入る。
ガチャンと扉が閉まった瞬間、千桜はおれに抱き着いてきた。
「やっと会えました。珈亜さん」
おれの服や制服を貫通して、千桜の身体全体の柔らかさを感じる。一日を過ごした千桜の匂い。脳に直接届くかのようなそれは、ある種の危険な香りだった。会った時から我慢していた彼女の欲求の強さが腕の強さに比例していく。そのエネルギーはおれの奥底に届いて増幅され、反射するようにしておれも千桜を抱きしめた。
「珈亜さんの匂いだぁ」
甘い声を出して、おれのさらに奥へと頭を埋めようとしてくる。その小さな頭や華奢な身体に手を回す。服が邪魔になる。また、おれの家での続きがはじまる。
リビングや、千桜の部屋や、浴室で。おれたちはまた何度も交わった。おもむろに付けたテレビがバラエティを流し、なにか下品な話題でひな壇の芸能人たちが笑っている。その明かりを頼りに、おれは反復動作を続けていた。千桜の家はエアコンが機能している。汗をかくと、それが冷風にあたって気持ちいい。家柄が良さそうな一軒家。育ちが良さそうな千桜。その千桜が、おれの先で悶えている。いつもはこの家で普通に暮らしているだろう千桜が、今はこんな姿をしている。がんばって勉強しているだろう千桜が、今はこんな姿をしている。中学には千桜のことを好きな男の子もいるかもしれないのに、今はこんな姿をしている。千桜の生活の場にいるからか、そんなおれの知らない千桜の姿を想像して、目の前の千桜に目を落とす。前は険しい顔で悶えていたが、今日の千桜はその表情の色味が増している。不意に引き剥がされていた状況からの再会。待望の時間。それら抑圧からの
「今日、の、珈亜さん。すご、く、色っぽい」
お互いが思い合っている。
おれたちはさらに相性が良くなっている。
時刻はあっという間に二三時を回っていた。お腹がすいてきたねと千桜が言い、コンビニへの買い出しは直近で少し苦い記憶があったので、ピザを取ることにした。待ち時間が一時間を越えていてえぐかったので、その間に身体を洗い流すと言って二人で風呂に入って、またそこではじまってしまう。けれど、おれは千桜が相手ならいくらでも交わっていられた。
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