第12話 おれはどうなるんですか
「おれはどうなるんですか」
椅子に座るよう月岡が促してくる。学校の教室の担任用デスクのような、スチール製の灰色の机を挟み、おれと月岡は対面した。ドラマとかの影響で部屋の側面にマジックミラーがあるイメージだったが、この部屋にそういったものはなかった。入り口の扉に小さな窓があり、外からカーテンが掛けられているだけだ。おれが座ったすぐ横の壁には、いくつもの落書きがあった。
『うんこ』
『バカ』
『ふざけんな』
『天狼参上』
『百合子愛してる』などなど。
「場合による」
月岡の言葉で、おれの意識が現実に戻る。
「どんな場合がありますか?」
「一六歳未満の青少年――この場合の少年とは性別を含めないが、その青少年と性交渉があった場合、たとえ合意があったとしても淫行の要件を満たすため、条例に基づいた処罰の対象となる。またキミが彼女をたぶらかして家に連れ込んでいた事実が判明すれば誘拐の要件にあたる可能性もある。交際関係にあれば多少の事情は考慮されるが、キミと彼女については歳の差があるからほとんど意味はないだろう。金銭や物のやり取りがあれば売春行為の要件にもあたる。性交渉を写真や動画で撮影していたり、SNSでそれらをやり取りしていたら児童ポルノ関連の要件だ。要はそういったことをこれから調査する」
「逮捕されるんですか? というか、今が逮捕された状態ですか?」
「調査に支障をきたすようなら逮捕が検討される」
月岡の言葉は理路整然としていた。
「それで、まずは率直に確認したい。キミはあの女の子とセックスをしたのかどうか、事実を教えてほしい」
事実という単語が強調されていた。それによって、なんとなくウソが付きづらくなっている。けれど、おれは彼女の言葉を心の中で繰り返した。
〝なにもしてないって言って!〟
「なにも、してないです」
「そうか」月岡は間髪入れずに言った。「ウソをつくと、一般的に次のようなサインが現れる。目線を逸らしたり、目が激しく動いたり、瞬きが多くなる。身体に力が入り、動きが不自然になることがある。今のキミの発言の際、そうした様子が見られていた」
真っ向から指摘されてドキリとした。まっすぐ月岡の目を見ることができない。見ることができたとしても、彼の鋭い双眸を受け、すぐに逸らしてしまう。
「ウソはつかない方がいい。キミがウソをついても、もし彼女が真実を話せば、不利になるのはキミの方だ。固い信頼関係がある間柄でもないだろう。未成年の女の子はすぐに真実を話す。真実を通り越して、被害的に話を盛ってキミが必要以上に不利益を被ることもある。繰り返すが、ウソはつかない方がいい」
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