第13話 ここで月岡は
ここで月岡は一呼吸置いたが、すぐに「警告はしたからな」と言葉を続けた。「これからいくつか質問をするので、正直に答えてほしい」
ウソをついてもすぐに見抜けるぞと月岡の鋭い目がおれの心臓を突き刺している。構えていた緊張が弛緩する。観念するしかないと思ったからだ。千桜と一緒にいた時間は、ここで犯罪者になったとしても悔いがないくらい快楽に満ちていて、穏やかな時間だった。諦めてみると、激しく鳴っていた心臓が少しだけ楽になった。
月岡からの質問は矢継ぎ早だった。
キミは彼女と今回初めて会った。はい。彼女が未成年であると知っていた。はい。
彼女にお金を渡した。はい。彼女にプレゼントや物、食事を渡した。はい。彼女を葉加市やその付近まで迎えに来た。いいえ。彼女の同意を得て家に上げた。はい。彼女の親は今回のことを知っている。いいえ。彼女の親にキミが彼女と会っていることを知らせている。いいえ。彼女を車に乗せてどこかに連れて行った。いいえ。キミと彼女は一緒の部屋にいた。はい。彼女の家族や保護者と連絡を取っている。いいえ。キミと彼女は恋人関係にある。いいえ。キミと彼女は以前にも会ったことがある。いいえ。彼女と身体的な接触があった。
「なにもしてません」
質問の意図はこれまでと同様、はいかいいえの二者択一のものだった。けれどおれは、気付けば口をついてそう答えていた。一瞬だけ月岡の質問のリズムが止まる。が、すぐにそれは再開された。
彼女と一緒に一泊した。はい。彼女がキミに売春を持ちかけた。なにもしてません。キミが彼女に売春を持ちかけた。なにもしてません。キミは彼女を性的な目的で家に連れ込んだ。……。彼女の裸を見た。なにもしてません。彼女と一緒に入浴した。なにもしてません。彼女の着替えのために衣服を提供した。はい。着替えているところを見た。なにもしてません。彼女の身体に触れた。なにもしてません。彼女は何らかの見返りを求めていた。なにもしてません。キミが彼女を家に泊めるために彼女から見返りを求めた。なにもしてません。キミは自身の裸を彼女に見せた。なにもしてません。キミは自分の自慰行為を彼女に見せた。なにもしてません。彼女と身体の接触があった。なにもしてません。
「質問は以上だ」
月岡は立ち上がり、おれにトイレの確認をした。おれが首を横に振ると月岡は部屋から出て、今度は先ほどの車にいた初老の警官が入ってきた。そしてまた、矢継ぎ早に同じ質問をする。おれは確実に否定できるものは否定し、ウソになりそうなもはすべて「なにもしていません」と答えた。質問の返答になっているかどうかは気にしなかった。
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