第11話 横浜市内から

 横浜市内から、車は埼玉県葉加市へと移動を開始する。警察車両はパトカーではなく、少し型の古いセレナだった。携帯電話を預かりたいと言われ、特に不利になりそうなものは思い当たらなかったので、言われた通りに差し出した。eパワーのモーター音が鳴って車が首都高に乗る。

 千桜がどうなったか聞いてみようとも思ったが、すぐにそれは諦めた。どう考えても答えてくれそうにない人たちだ。先ほどの月岡という警官はおれの横に座り、まっすぐ前を見据えている。鋭い目を持ちながらもまだ若い、雰囲気ある警官だった。三列シートの一番後ろにおれたちが座り、その前に警官が二人、そのさらに前に運転手と助手席に一人、警官が乗車している。

「トイレとか大丈夫?」前の席に座る警官が言った。「このまま葉加市行くから。そこで取り調べ」

「なにを調べるんですか?」とおれは聞いてみる。

「なにって」と、その警官は笑った。こちらは初老の男性で、月岡より地位は高そうだ。「キミが未成年とセックスしてないかだよ」

〝なにもしてないって言って!〟

 千桜はそう言っていた。

「なにもしてないです」

「そんなわけねぇだろ」警官が笑い飛ばす。「監視カメラで見てっから。このまえ、コンドーム買ってたよな」

「買いましたけど」

「使ってるかどうか調べっからな」

 そういえば、使用済みのゴムはちゃんとゴミ箱に捨てていただろうか。家のことを思い出して、おれはほかに大変なことを思い出した。

「窓、開けっぱなしだ。扇風機とかエアコンも」

「ご愁傷様。カギ預けてくれりゃ、うちの署員がやっといてやるけど?」

 それはどうも……

 ただ、預けるわけがない。相手もそれがわかっているのか、カギを受け取ろうとする素振りは見られなかった。

 そこから一時間弱、車内は葉加警察署に到着するまで無言だった。半分眠っていたところを起こされて、車から降りるよう促され、深夜の警察署内に入る。署内入り口のすぐ横には警官の当直待機室のようなガラス張りの部屋があり、そこで何人もの警官が椅子の上で仮眠を取っていて、その重々しく異様な光景にギョッとした。おれはそこから二階に通されて、生活安全課の面接室に連れていかれた。

「児相は?」

「すぐ来るそうです」

 月岡が、初老の男にそう答える。

「あんな母親のとこに戻せねぇからな」

 月岡が頷くと、相手の男は出ていった。有孔ボードが一面に貼りつけられた防音室。扉が締められ、おれは月岡と二人になった。

「千桜もここにいるんですか?」

「それは答えられない」

 先ほどの初老の警官は、明らかにおれを見下す態度だった。一方でこの月岡という若い警官は、なんというか、淡々としている。声のトーンは低く、隙がなく、無駄がない。

「ここでは、キミが彼女に会うまでの流れと、会ってからのできごとを聞きたいと思っている」

「いいですけど。……今からですか?」

「今からだ」

 部屋に時計がぶら下げられている。時刻は午前三時を過ぎたところだった。

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