第10話 夜が更けていく
夜が更けていく。
人目を盗むようにして、おれたちは深夜のコンビニを訪れた。結局、おれたちは何度も何度もセックスをした。そして何度も眠りにつき、気付けば彼女の終電はなくなっていた。
「やった! お泊まり確定ですね!」
制服を脱ぎ、おれの服をだぼったく来た千桜は可愛かった。彼女を見ていると、射精後の賢者タイムなんて存在している暇がない。とにかくおれは千桜を求めてしまったし、彼女もおれを求めてくれていた。
食事も水分補給もそこそこにずっとアホなことをしていたので、おれたちはすっかり脱水状態でふらふらだ。
「親には連絡入れとけよ。マジで怪しまれないやつ」
「ママと交流のない家の子のとこに泊まるってしとくので大丈夫です!」
今まで蒸し暑い世界にいたので、キンキンに冷えたコンビニ店内はあまりに気持ちいい。おれたちはしばらくそこで涼んでから、飲み物や食料を補給して店を後にした。今度は千桜の目にも入る形で0.01mmの箱を手に取っていたが、「五個入りって少なくないですか? 買うとキリないですよ」との千桜の言葉で、おれは箱を棚に戻していた。
途中、ひと気のない公園の暗がりで、おれたちはギリギリなことをした。一時的に繋がったりもした。暗闇に目が慣れてくると、同じようなことをしている男女が他にも何組かいたことに気付き驚いた。部屋に帰ってきてからは、中断されていたもんもんとした気持ちを発散するように激しくそれを再開させた。その際、おれはわずかにためらいを感じる場面があったのだが。
「そのままいいですよ」
なにがいいのかわからない。けれど彼女は、おれのすべてを受け止めてくれるかのようだった。もしかしたら殺したいと言っても両手を伸ばして「いいよですよ」と優しく言って許してくれるかもしれない。
一度目の行為の時、千桜の両手首に幾筋もの切り傷があることには気付いていた。彼女は恥ずかしがっていたが、おれはその筋を夢中で何度も舐め回した。無性に愛しさを覚える傷痕だった。
「珈亜さんと一緒にいると落ち着きます」一連の行為が終わると、千桜は決まってそう言った。「大人の人たち、みんなしてるんですよね。こういうこと。ずるいな。もっと早くから知っていたら、私だってもっと穏やかに過ごせたかもしれないのに」
「というか正直言って、おれは千桜が発達障害だって思えないんだけど。ここに来てからは全然普通じゃん。パッチもしてないし。治療、意味ないんじゃね?」
「意味、ないかもしれませんね。珈亜さんがいれば大丈夫そ、です」
もう回数なんて忘れた。
千桜が何日家に入り浸っているかもわからなくなった。朝起きて寝ぼけたまま朝勃ちのそれを彼女に挿れ、疲れて眠って起きてセックスを繰り返す。もう数ヶ月が経過したかとも思えた。けれど実際は、まだたった二日目の夜。千桜はまた帰らなかった。こうやってズルズルと居座る気だろうか。おれたちはまたコンビニに買い物へと出かけた。昨日の夜、野外で使った公園を通り過ぎる。
その時、突然、あっという間に、おれと千桜はガタイの良い男たちに囲まれた。
「
千桜が驚いて反射的に頷くと、男たちは強引におれたちを引き剥がした。
「警察です。少し話を聞かせてください。
名前が知られている。調べられていたんだ。
男は警察手帳を示して、それを開いた。埼玉県警、生活安全一課少年係、巡査、月岡。彼はおれの手をがっちりと握りしめている。
「珈亜さん大丈夫!」男たちの壁の向こうで、千桜が言った。「なにもしてないって言って! あとは私が全部やるから! また遊びいきます!」
千桜を囲んだ群れが離れていく。
「あの女の子とあったことを署で全部教えてください。捜査にご協力お願いします」
任意同行というやつだろう。けれど警察の言う任意とはほとんど強制のようなものだ。頷く以外の選択を、おそらくおれは与えられていなかった。
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