第9話 今日、泊ってっていいですか
「今日、泊ってっていいですか?」
裸で潜った布団の中、千桜はおれに身体を寄せながらそう言った。
「無理だろ」とおれは断じてみるが。
「あっ。またおっきくなった」
なにも聞こえていないといったように、握っているものについて嬉しそうに彼女は言って、布団にもぐり、ごそごそしながらとろける刺激をはじめる。外の景色はすでに夕陽を描いていて、部屋の中は片付けられていないカップラーメンの臭いが立ちこめている。散乱した使用済みのゴムは、すでに五個すべてを使い切っている。途中、徹夜が祟って二人して眠気に襲われていたが、それ以外はずっとセックスをしていた。もはや精巣はすっからかんだ。ただ、ずっと動かし続けているエアコンがその機能を取り戻すことは永遠になさそうだったが、片やおれの方は彼女の申告のとおりだ。温かいものが先端から付け根にかけてゆっくりと移動し、潜り込んでいく。六回目の絶頂は千桜の口の中だった。激しい快楽の波のすべてを、彼女はずっと包み込んでくれていた。凪が訪れ、慎重に温みが離れていく。妙にうれしそうな顔をした千桜がひょこっと顔を出す。
「すごい味」
「……ごめん」
「ううん、全然」
慌ててティッシュを探すが、彼女は飲んじゃいましたと言って笑った。
「なんていうか、幸せ? みないなの感じてびっくりしてます」
千桜はおれの身体に頭をうずめ、抱きついてきた。
「あぁ。落ち着きます。ずっとこういう生活してたいな」
「さすがにそれは無理だろ」
「そうですかね」
「そうだよ。親も心配するし」
「ママと同じことしてるだけですよ」千桜はそう言うと「あ、そうか」となにかに気付いたようにしておれの顔を見上げた。「これなんですね。ママがいつも味わっているのは。この落ち着きなんですよ。これはハマります。私を家に置いてでも男の人と会っている理由が今わかりました」
「いや、知らんけどさ」とおれは話を戻す。「今日は帰れよ。この状況自体がそもそもまずいんだから。下手したら警察乗り込んでくるかもだし」
「逆にもう手遅れかもですよ。ママ、ブチ切れてもう帰ってくるなとか言いそう。そうなったら私、珈亜さんちで暮らしますね。毎日永遠にえっちしましょ」
「ゴムの消費がえぐいことになりそうだけどな」
「なくてもいいじゃないですか」
「ってそうじゃない。帰れって」
「じゃあその前にもう一回。舐めてたら、これが私のナカで喜んでくれてるんだなって、そういうこと思ってたらまたしてほしくなっちゃって」
彼女がまた指を這わせてくる。先の話でおれはゴムなしでの行為について想像してしまっていたので、その状態はまた恥ずかしいものになっていた。
いまさら止めることもできず、おれと千桜はまたセックスした。今度は彼女の言葉もあり、またそもそも品切れで、ゴムは使わなかった。彼女自身の感触が、おれ自身の表皮に伝わってくる。0.01mmの極薄ながらも絶対的な障壁が取り払われた性交渉は、これまでのどれよりも気持ちよく、彼女が伝わってきた。だからこそ、最後の瞬間を外で過ごさなければいけないことがあまりに孤独で切なく、そして虚しかった。
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