第4話 彼女の顔を
彼女の顔を見る。
胸の中にあるなにかが彼女の視線に撫でられているかのような、不思議な刺激を感じる。血液の循環が速くなっている。恋とも緊張とも違う心拍数。今からこの子とえっちができる。つまりそういうことだ。彼女の方から求めてきている。犯罪なんてものはバレなければなんの沙汰もない。中学生とのセックス。どんな感じなのだろう。柔らかいのだろうか。胸はどんな感触なのだろう。肌がきれいだ。おれが中学生の頃は男も女もにきびだらけだった。ただ、稀に肌が綺麗で手足が白くめちゃくちゃ可愛い女子がいた。だれもが憧れる高嶺の美女。きっと彼女もそういう存在だ。彼女のことが好きな男子生徒だっているだろう。そんな奴らをさしおいて、おれはこの子のすべてを見ることができる。汚すことができる。このまま、家に連れて帰れば。
けれどおれの理性や倫理は、最後の最後で両足を踏ん張った。
「無理だろ」
「えっ」
予想外の返事だったのか、彼女の声が裏返る。
「女子中学生、家に連れて男女二人だけとか、普通にしちゃダメなことだから」
彼女は目を丸くしておれを見つめ、フリーズした。
「それともなに。お金ほしかった?」
おれ自身、自分で自分の態度の豹変に驚いていた。完全に説教モードの口調のそれだ。性欲を引っ込ませた代わりに彼女に向けた苛立ちが噴出し、性欲と同様、無制御を求めている。
「会って瞬間家に行きたいとか、頭おかしくない? なに考えてるの?」
ガタン。ガタンガタン。ガタンガタン。ガタンガタン——
ピーン、ポーン……。ピーン、ポーン……
しばらく沈黙が続いたところで、彼女は頭を垂らした。
「……会ってくれるっていうから来たのに」
「会ったじゃん」
「そうじゃなくて」
「じゃあなに」
おれが聞くと、彼女はまた沈黙した。
「はぁ」とおれからため息が出る。「今までこうやって何人と出会い厨してきたの」
「関係ないですよね、そんなこと」
彼女の口調もおれに合わせて攻撃的だ。
「たしかに関係ないな。……どうでもいい」
もうどうでもいい。この子とはもうここで解散だ。今後ネットでやり取りすることもない。ブロック決定。おれはスマホを取り出して、彼女のプロフィールを開く。『このアカウントをブロックする』と赤文字が表示される。
「初めてです」彼女は不満を堪えるようにして繰り返した。「初めてです。こうやってネットの人と会ったの」
タップしようとしていたおれの手が止まる。
「私を買ってくれませんか」彼女の口調や視線はまっすぐだった。「五〇〇円で買ってください。ダメならいいです。他の人に声かけます」
「他の人って。っていうか、え」少し遅れて、おれは彼女の言葉を一つずつ遡りながら咀嚼する。意味が理解できて、そして理解できないことに気付く。「初めて? 自分で出会い厨って。いや。五〇〇円とか、え?」
偉そうなことを言っていた直後に戸惑いを隠せないおれは無様だった。そんなおれを正面にして、彼女の表情は毅然と強かった。
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