第10話 ヘンテコ文字とカラオケ。

「来た来た、おはよう日向さん浜中さん。」

出入口から出てきた私たちに一番早く気付いた望月君。

「おはよー、さっき遊んでたら取れたからみんなもこれ食べてー。」

そう言ってさっき取ったよくわかんないお菓子を配り始める。

私も軽く挨拶を返して、春のお菓子配りに加担する。

言ってはいけないだろうなぁと思いながら、何もしていないのにもらえる感謝で少しうれしくなることを心に秘める。

渡しながら人数を軽く数えてみると大体いつもの教室の7割程度。

思っていた以上に集まったことに驚きつつ、お菓子を食べながら幹事である望月君の支持を待つ。

「大人数で回るのもあれだし、グループ別れようと思ってまーす。なので適当にこれ引いて行ってください。」

そう言って手に握られた紙の集まりをみんなに見せる。

準備が良くて仕事ができるとは。

「歩夢ちゃん、乗り遅れる前に行こうよ。」

「行こ行こ、なんとなく最後は嫌だし。」

そういって取りに行くと、タイミング的にはギリギリ真ん中ぐらいだった。

引く順番が回ってきて、とにかく何も考えないを心に一番上を引く。

先に引いた春が一緒に開けたいとのことなので、開かずに向かう。

「じゃあ開くよ、せーの。」

その声に合わせて2人で見せ合う。

そこには見たことがあるような記号が2種並んでいた。

読み方は分からないけど、多分春とは違うグループなんだろう。

「春のそれ、ニョロニョロじゃん。」

「多分古代文字だと思うんだけど…特殊な趣味だよね。」

もしかしてこれぱっと見分からないのでは?

これ何グループなのか誰も分からないような気がして面白い。

「みんな引いたっぽいので適当に分かれてくださーい。」

そう言われてもどうやって伝えあうのか。

「あ、あそこで私のグループが集まってるかも。また後で合流出来たら!」

「いってらっしゃ~い。」

一度自分のグループを示すものを見てみる。

ダメだ、形容できるような見た目をしていない…。

「あの~、ここのグループってこの形?」

とにかく一番近くの集まりに聞いてみる。

「面白い形してるね、うちは三角形の集まりだよ~。」

「ありがとう。」

なんで三角形とか簡単なものなんですか??

ちょっと望月君を恨もうかと思ってしまった。


    ◇


あれから数分探して合流することができた。

意外と間違えてる人が居たおかげで待たせることは無かったのが救いだと思う。

ちなみに今のところグループからは浮いている…ヤバい?

「…あれ、もしかしてそこ少ない?」

そう言って私が居るグループを見ながらつぶやく望月君。

「そしたら僕そこのグループ入れて欲しいな。」

浮いていた私を助けるかのようにそんな提案が飛んでくる。

特にダメという人も居らず、浮いていた私がどうにか地上に帰ってこれた。

「それじゃこれからはグループで自由にお願いします。一応帰りとかは揃えたいので連絡とかは欲しいなって感じです。」

話が終わるとグループごとに進んでいく。

目的地へ向かうところもあれば明らかに違うところへ向かうところもあって面白い。

私含めて5人で構成されたグループは、正しい目的地へ進んでいるような気がする。

そうして受付を済まして着いた先はカラオケ。

「…ん?」

思わず声が出る。

こういう閉鎖空間は苦手で、エレベーターも避けるような私。

逃げてばかりはダメだと思い、今回は何とか勇気を振り絞る。

始めて来たカラオケは少し狭く暗い部屋という印象。

とりあえず何か歌おうよって声が誰かから聞こえた。

「今日はよろしくね、あたし青柳希羽だから!」

そう言って歌い始める。

確か入学式の次の日とかに春に話しかけてた気がする。

綺麗で優しい歌声、動画サイトで上がってても遜色ないような気がする。

そんないい声はすぐに終わりを迎え、拍手につつまれる。

…もしかしてこれ自己紹介+歌だったりする?

終わったかもしれない。

「もし良ければ一緒歌おうよ。」

困った私を見てか、有名な曲で誘ってくれる。

「僕たち美化委員の望月と「日向」でーす!」

1人で歌うのすらままならないのに…迷惑かけてないかな?

そんな思考がぐるぐる回る。

ぐるぐる回ったせいで入りミスったことだけはバレてないことを願う。

でも歌い始めたら意外となんとも無く、良い感じで歌い切った。

「ありがと。」

望月君にだけ届くような声でお礼をしながら拍手を受ける。

達成感とこの高揚はなかなか新鮮で気持ちが良い。


この後二人も同じように歌って、1周が終わった。

「少しお話ししようよ。」

青柳さんがそうやって切り出す。

これ多分拒否権がない会議になるんだろうな。




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