第9話 UFOもクレーンも無いけど、お菓子はある。

学校を超えた先の駅で春と待ち合わせをする。

今日は日曜日、クラスの親睦会の決行日だ。

結局行き先が変わることは無く、アミューズメントパークのまま。

昨日一日かけて悩んだ服装も含めて、楽しめるか不安である。

「あ、歩夢ちゃんおはよ~。」

人混みに紛れて春が電車から降りてきた。

イヤホンを取りながら春の服装を下から眺めてみる。

脱ぎ着がしやすそうなカジュアル系…端々から楽しむ気を感じる。

「おはよ春、動きやすそうで可愛い服装なとこ見ると今日はやる気だね。」

「とりあえず服装だけだよ?最近あんま運動してないからもう動けないだろうし。」

「そう言いながら走り回る姿が容易に想像できるんですけど???」

「気のせいだと思うなぁ。そう言ってる歩夢ちゃんの方も動きたそうな服じゃん。」

「ひらひらスカートで行くわけにも行かないし、とりあえず形だけはね。」

「それ私と同じこと言ってるよ?」

なんて笑い合いながら挨拶を済ませる。

挨拶の終わりが歩き始める合図と言わんばかりに二人そろって足を出す。

「じゃ、ナビよろしくね。今日の命運は歩夢ちゃんにかかってるから。」

そんな無責任な発言が隣から飛んでくる。

「自分で調べた方が早いと思いますよー。」

そう言ってスマホを出す。

私この駅は愚か、この市に来たことすらないんだけどなぁ。

「東口から出るらしいけどこれどっち?」

「…わかんない。」

駅の東口とかどっちか分からないのは結構あるあるだと思う。

「行けなかったら帰るだけだしそっち行ってみるね。」

そう言われ、とりあえず近い方から出ることにする。

「そこにコンビニがあって、そこに郵便局があるなら…こっちが東口な気がする!」

GPSもそう言ってるし、きっと行けるはず。

もし迷ったとしても知らない道に連れていかれたんだから仕方ないよね、と言い訳をする。

「あ、ここ曲がるみたい。」

「りょーかい…あれ、ちょっと道狭くない?」

マップが変なとこに連れて行くのもあるあるだと思う。

「じゃあもう少しまっすぐ行って遠回りする?」

「時間に余裕はあるしそれで行こう!よろしくね歩夢ちゃん。」

これが地図を読める人の得だと思う。

「そういえば春ってさ、クラス投票って何に入れたの?」

「確かご飯系に入れた気がするけど、歩夢ちゃんは?」

「同じ!私もご飯系に入れたと思う。」

動き回るのは苦手だからご飯系にしたんだけど。

ちょっと面白いことに意見出したのは自分なんだけどね。


    ◇


「「とうちゃーく!」」

歩いて十数分程、春と結構話していたからそんなかかった気がしないけど。

「とりあえず望月君にどこら辺に居るか連絡してみる。」

「まだ集合時間前だしまわりながら返信待とうよ。」

「楽しそうだね、賛成!」

そうしてお金を使う気も無いのにクレーンゲームだとかを眺めに行く。

難しくてクレーンゲームなんて久しくやってないなぁ…。

「ねぇ歩夢ちゃん、これどうやってやるか分かる?」

そう言って指がさす方向を見るとアームの無い機体が鎮座していた。

ここ数年で見ない間に結構変わったのかな、なんて考えながら隅々まで観察する。

「よくわかんないけど目が痛くなるね…。」

「こんだけ光ってるもんねー、とりあえずやってみる!」

そう言って100円を取り出す。

「こういうのはフィーリングで…ほら!」

ドサッという音と同時にどや顔でこっちを見る春。

今日来る人全員分のお菓子が今取れたような気がする。

「結局遊び方はどういう感じだったの?」

「んー、この光ってるやつあるじゃん?それに場所とタイミングを合わせてボタン押す感じ。ちゃんとルール読んだわけじゃないから多分だけどね。」

「機会が合ったらやってみるよ、今はなんかとれなさそうだし。とりあえずこれ頑張って持たなきゃね。」

「…今日のかばんとか容量少ないんだけど。ごめん、手伝って?」

「良いよ、お礼待ってるね。」

なんてちょっと脅してみる。

春ならきっと想像以上のお礼を出してくれる気がする。

「あ、望月君から連絡来てる。」

「どう、みんな集まってそう?」

「結構集まってるみたい。駐車場に居るらしいよ。」

「りょーかい、じゃあ景品を落とさないようにゆっくり向かおっか。」


両手にお菓子を抱え、みんなのもとへ向かう。

駅であった楽しめるかの不安は、今の春のおかげで隠れていった。

今見えるのはただ誰かと仲良くしたい気持ちだけだった。

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