第8話 家族だからこそ、大好きな時間。

望月君からの誘いで遊び場を考えるために使った脳を冷ますため、結構長めにお風呂へ入った。

そして牛乳を片手にクラスのグループを眺める。

思っていた以上に投票率は高く、だれかが票を入れ替えることが無ければ覆ることのない数の差がそこにはあった。

そして決まりかけているのは複合アミューズメントパーク。

名前を聞くだけで胃もたれがしてしまいそうなそんな場所だった。

「あ、おかえりなさい。」

そんな胃がつらくなりそうな時に帰って来た母に挨拶をする。

「ただいま、今お風呂あがったところ?」

「うん、お母さんがお風呂入ってる間に何かやることある?」

「大丈夫よ、ありがとう。」

軽く首を振って感謝の言葉を受け止める。

「あ、そういえば今日はお父さんも一緒にご飯食べるって。」

仕事が忙しい父は、たまにしか一緒にご飯を食べない。

帰ってこないとかではなく毎日会ってはいるけれど、わざわざ話すことも無く一緒にご飯を食べる時にまとめて近況報告をする感じになっているのだ。

「今日は早いんだね、色々話すことまとめとこうかな。」

「そうしたてくれたらお父さんもきっと喜ぶよ、それじゃお風呂行ってくるね。」

「ん、いってらっしゃい。」

お母さんを見送った後、 ここ数日のことを思い出す。

色々あったけれど思わず微笑むような楽しい数日だったな。


    ◇


「「「いただきます。」」」

3人でそろった声で挨拶をする。

私はこのそろい方が好きだ。

家族の絆というか、なにか言葉にできないようなつながりがあるようで。

「今日はお肉か、これ美味しくて好きなんだよな。」

3人での食事はいつもお父さんの褒めから始まる。

多分だけどいただきますと同じく欠かしたことは無いんだと思う。

そしてお母さんが「喜んでもらえてよかった。」的な返事をするのがお決まりだ。

「最近新人が入ってきてな、この時期はやっぱ楽しいものだな。」

「忙しいだけに見えるけど楽しいの?」

「そりゃ忙しいけど、びっくりするぐらい面白いんだ。きっと仕事に慣れたら化けるだろうなってのが沢山居てな。」

「育てるのってそんなに楽しいんだ。」

「それもあるけど社会人の中で一番純粋な時期だからな。先輩面しやすいっていうのも楽しい理由だな。」

「…そうなんだ。」

「あーあ歩夢が引いたよ、お父さん。」

そんな笑っていいのかわからないお父さんの冗談。

そしてそれを誤魔化すようなお父さんからの問いかけ。

「そんなことより歩夢は高校生活どうだ、楽しいか?」

一緒にご飯を食べることを知ってから待っていた、その質問。

「毎日しらないことばっかだよ、当分慣れそうにないな…。」

少し弱気に答える。

「環境が変わると人はそうなるさ、再来月ぐらいが楽しみだな。」

「慣れないからって一昨日なんて学校行かないって言ってたものね。」

「…なんでわざわざ知らない人に教えるのかな~?」

そう言ってお母さんに抗議する。

「ちゃんと高校生をやってるじゃないか、お父さんは高校生の仕事は悩むことだと思ってるぞ。」

なんてお父さんのありがたいお話が始まる。

「そういえば今度の休みに遊びに行くね。」

そうして少し強引にありがたいお話を中断させる。

「高校の友達と行くの?」

「うん、まだ知らない子が多いから友達と言われてもちょっと違う気もするけど。」

「それならいっぱいの友達を作って帰ってくるのを楽しみにしてるね。」

「…不安になって来たなぁ。」

そんな風に学校についての話が広がる。

話が広がれば広がるほど私の好きな時間も長くなる。

いつかこの時間を誰かと共有できたらな、なんて思う。

きっと共有するなんて難しいだろうから引き継ぎたいなって願う。

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