第6話 放課後は帰るだけの時間じゃないらしい。
望月君と部活棟を出ようかと歩き始めた時、私はひとつの事に悩む。
このまま教室に戻らず家へ帰っていいものかと。
確かに、教室へ行く用事もない。
だからといって一緒に帰るのも気まずいように思う。
そんな終わりのない議題で望月君の一言目を待つ。
歩きやすい歩幅で1歩、2歩…重ねて13歩程歩いた頃にようやく声が聞こえる。
「あれ、1年生?」
優しそうで、だけれど望月君とは違う深みを持った声が後方から聞こえる。
その優しい音で警戒する気持ちは薄れたけれど、咄嗟に望月君の後ろへと回る。
同時に望月君も後ろを向き、半回転するような形で先輩と顔を合わせる。
「あ、ごめんね。新1年生と部室棟で会うなんて珍しかったから、テンション上がって声掛けちゃった。」
にへへ、と聞こえてきそうな笑みを浮かべながら先輩が謝る。
「大丈夫ですよ、僕も部室棟なんて初めてでテンション上がってます。先輩のその気持ちとっても分かります!」
なんて頼りになる声で先輩の謝罪に答える。
どこか背中が大きく見える。
「ふふ、ありがとう。2人は部活とか決まってるの?」
先輩から質問が飛んでくる。
これ、適当なことを言うと先輩の部活に勧誘されるやつだと思う。
なんて思いながらも、返答の判断は望月君に任せる。
こういう会話が苦手な私は、今まで文句を言わないのを交換条件として、判断を誰かに任せてきた。
「部活ですか?2人ともそんなに考えてないですよ!」
と元気に胸を張る。
…勧誘される未来が見え、私は先輩の部活が特殊だったり運動部だったりということが無いのを願い始める。
「部活に入るのが強制だったら誘ってたんだけど…今は確か任意でしょ?」
「そうですね、任意なので入るなら幽霊にならないところを探そうかなって思ってます。」
「いい考えだね〜、私たち先輩としてもそういう選び方で入って貰えたら嬉しいよ。」
「そうですか?」
私の通ってた中学は部活が強制で、幽霊になって名前だけ持っていく人もいたな。
「任意だから尚更嬉しいものだよ。」
「じゃあこの考え方、大事にしますね。」
ここで会話が途切れる。
私は先輩が待ってるであろう質問を投げる。
「あの~、先輩は何部なんですか?」
その声を聞いた途端、先輩は目に見えて嬉しそうに答えた。
「陸上部!」
「部員の数に困ってたりは…?」
「してないよ!だからそんなに勧誘する必要もないし」
「ありがとうございます」
まともで、普通な部活だった。
もっとこう…言葉では言えないような特殊さがあると思っていたけれど、案外平気だった。
望月君の顔は少し平気そうじゃないけど。
「明日の新入生歓迎会と部活動紹介は確か同じタイミングだったと思うからさ、それ見て文芸部も考えてみて!今から見学とかして行ってもいいけど?」
これついて行ったら入部断れなくなるやつだと思う。
私は望月君に対して先行を取ることにする。
「望月君はどうする?私はこのまま帰ろうかなって思ってるけど。」
それを聞いた望月君は同感だと言わんばかりに先輩へ言う。
「すみません、今日はもう帰る予定だったので体験は遠慮させてください。」
「そっかー、帰るところ話し込んでごめんね。」
「大丈夫ですよ、先輩と話せて楽しかったですし。」
と言って空気が悪くなることなく終わる。
「それじゃ、私も部活行くね~。」
「頑張ってください、ありがとうございました~。」
「ありがとうございました~。」
そう言って先輩が走って奥の方へと進む。
その背中をなんとなく見送った後、こんどこそと歩き出す。
「ここがどこか分かったし、他の教室も見に行こうか。先輩に帰るって言ってたのもあるからただ遠回りするだけだけど。」
「いいね、賛成!」
そんな会話でうるさかった部室棟にさよならを告げる。
耳が寂しさを主張するのを横目にやり、望月君の声を聞く。
さっきまでの部室棟のうるささのせいか、声がよく聞こえる。
◇
そんなこんなで大体1時間ほど2人で学校をまわり、駅で別れた。
望月君は自転車だったけれど、徒歩で駅まで送ってくれた。
これで逆方向だったら申し訳なく思う。
いつか分かるのだろうか…?
そんなことを思いながらやってきた電車へと乗る。
昨日とは違い、楽しい下校になった。
これからの学校生活がこれ以上の楽しさになれと私は何かに願う。
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