第5話 部活動は青春(やばめ)

天気が雨ということを知って明らかに気を落とす望月君を横目に、私たちは話すことなく静かに教室まで帰ってきた。

中学生の頃はすぐに教室が閉まっていたので、教室に戻ってくるというのはとても新鮮味を感じる。

「…えっと、大丈夫?」

あまりにも元気が無いので話しかけてみる。

「大丈夫だよ、テンション落ちる理由とか無いし。」

言われてみればそうである。

ただの雨でここまでテンションが下がるのは不思議。

最悪、まっすぐ帰れば良いだけだし。

「誘ったは良いけど、今日やることが思い浮かばない…。」

テンションが下がったというより、考えていた結果ということ?

もしかして授業中に望月君の面白い姿見れる?

なんて、少し学校が楽しみになった。

「ねぇ望月君、学校見て回ろうよ。中学の頃は無かった教室もあるんじゃない?」

数少ないアイデアを振り絞ってみる。

これで少しでも元気になってくれたらと思う。

「確かに、回ってみたいかも。」

あ、元気になった。

「正直、僕もこの校舎全然知らないんだよね。今日のあれはマグレって言うか?」

「…望月君?」

「似てるのは本当。似てるってだけで同じな訳じゃないから。」

「それならまだ安心できるけれど…。」

「とりあえず学校の地図探してみようか。それとも何もわからないまま進んでいった方が面白いかな?」

「教室で地図探してみようよ、無かったら何も見ないで進もう」                                                                                                                                                                                                                                                           

「いいね、それ。」

そうして二人で教室探索が始まる。

きっと3月になればこの黒板も、掲示板もあの壁もにぎやかになってるのだろうと思いをはせる。

そんなことは高校生になったらやらないものなのかな?

どんどんと学校が楽しみになって行く。

「日向さん、なんか見つかった?」

「まだ見つかってないな~」

「ここに避難経路の地図ならあるけど、他の地図探してみる?」

「ん~、避難経路のやつ見て進もうよ」

そう言って望月君の隣へ向かう。

「学校の作りってこんな感じだったんだ。どう、中学校と似てる?」

「まぁまぁかな。ここに校舎なんて無かったし」

そう言って新校舎らしき外れにあるところを指さす。

高校の方が生徒が多いだとか、そういった予想は簡単にできる。

「じゃあそこ目指して歩いてみない?」

「いいね、賛成。」

そうしてまた望月君と歩き始める。

今度は隣に、ちょっと不自然な感じで並んで。


    ◇


話していたいと言わんばかりにゆっくりと歩くこと十分程度。

「着いたね、中学校との相違点。」

「なんて言うか、教室周りより人多くない?」

なんて望月君が気付いたことを言う。

「確かに、なんか人が多いかも。」

先輩だから単純に残っている人が多いとか?

「もう少し歩いてみたらわかるんじゃないかな?」

「それもそうだね、ついていきます。」

そう言って望月君の後ろについて歩く。

「なんか体育着の人とか多いね。」

「ところどころ制服の人も居るけど…もしかして部室棟かな?」

「そうかも、日向さん冴えてるね~。」

そう言われて少しはにかむ。

そういえば高校の部活は任意だった気もするけど、望月君はどうするんだろう。

「望月君はさ、部活って入る予定?」

「誘われたら入ろうかなって思ってるんだよね。日向さんは?」

「私もそんな感じ。まぁ文化部限定だけど。」

なんて笑ってみる。

「わかる。運動はからっきしなんだよね。」

そんな風に望月君は言うけれど、多分これは『テスト勉強してないんだよね~』と同じ意味である。

「ちなみに中学校の頃は何部だったの?」

「一応陸上部。」

やっぱ運動できた。

嘘はだめ絶対。

「一応陸上部だけど、幽霊だったよ?」

その情報があるなら違うな。

体育の時間が楽しみだなって思う。

「日向さんは部活どうだったの?」

「吹奏楽部だったよ。」

「…文化部?運動部?」

なんてたまに聞かれる質問が飛ぶ。

「んー、私にもわからないや。」

そう言って笑ってごまかす。

「強豪は走ったりするんだろうけどさ、私の所はそんな強いわけでも無かったし。」

「音楽も楽しそうだよね。」

「高校では絶対やらないって決めたから。」

「残念、うち吹奏楽強いのに。」

「だからだよ!」

ちょっと強く言ってみる。

「てへ、ごめんね」

と言って笑う望月君。

「やだ」

なんて言って反抗してみる。


この時にはもう気まずさだとかそういうものは無くなっていた気がする。

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