第4話 これがラブコメの王道ですか

放課後になり、荷物を準備しながら春と話していた。

どういう話かと言えば、中学校の頃のことや趣味などの他愛もない雑談。

クラスの半分の人が消えたころ、一人の男子が話しかけてきた。

「話してる途中にごめん。美化委員の子だったよね、僕は望月 祐樹。同じ委員会の仲間としてこれからよろしく。」

そう言って握手を求めた右手が出てくる。

誰かと触れ合うことが少ない私は少し躊躇しながらも、「よろしくね、望月君」と言って握り返す。

私より一回りほど大きなその手はほんのり暖かく、大切な何かを握っているような優しさだった。

「歩夢ちゃん、そろそろ委員会の方行ってくるね」

また明日と私は返事をして、委員会へ向かう春の背中を見送る。

「望月君、私たちも行きましょうか」

「えーと、握手をしたまま?」

そう言われて右手が握手をしたままだったことを思い出す。

優しく、心地よい握手はいつの間にか意識することを忘れさせてしまう。

恥ずかしさと気まずさで少し顔を赤らめながら望月君に謝る。

それと同時に離した右手を握手の代わりと言わんばかりに自分の荷物で埋める。

「そんな焦らなくても大丈夫だよ、忘れ物は無い?」

そう言われて少し冷静になった私は机の中を中心に一通り確認する。

置いてけぼりになるところだった筆箱を拾い、リュックにしまう。

「ありがとう、忘れ物するところだった。」

そう言ってお礼をし、望月君の左後ろにつく。

「それじゃあ行こうか、最悪また取りにくればいいだけだし。」

「それもそうだね。」

そうして歩き始める。

教室を出て数秒、気まずさを覚え始めるころに会話を始めた。

「そういえば僕は歩夢さんのことを何も知らないな。」

最初の呼び方が下の名前で驚く私。

「そのさ、名前から色々聞いても良い?」

そう聞かれた私は、良い漢字の説明を考えながら名前を伝えた。

「日向歩夢さんか…いい名前だね。」

「うん、親からもらった大切な名前、私の宝物。」

誇らしげに自慢をする。

「さっきは歩夢さんって呼んだけどさ、これからは何て呼べばいいかな?」

「苗字が良いかも。」

なんて名前で呼ばれるテレを隠すため、お願いをしてみる。

「うん、わかった。さっきは名前で呼んでごめんね、日向さん。」

目を見て謝られる、目を見て名前を呼ばれる。

それだけで私は少し緊張してしまう。

「ちょっとびっくりしたけど大丈夫だよ、望月君。」

きっと私と違って緊張はしないだろうけど、やり返してみる。

想像通り、目に見えて分かるような効果はなかったように思う。

ただ少しこじつけをするなら、目が逸れたのはやり返しの成果なのかもしれない。


そんな風に質問大会が続いた。

血液型や趣味の話から始まり、MBTIとやらの話に続き、学校の話で終わった。

望月君が言うには、中学の頃と高校で違いがあまり無いらしい。

学校の設備や部活の数など、通ずるところがいくつかあったとのこと。

「ほら、地図見なくてもちゃんと着いたでしょ。」

そう言って美化委員会が指定された部屋を指さす。

こんなことをされてしまうと、中学と似ていることを信じるしかない。

そんな驚きを感じていると望月君が挨拶をしながら部屋へ入っていく。

私も続いて挨拶をしながら部屋へ入る。

音がうるさくならないようにとドアを閉め、望月君の隣に座る。

それから数グループが来てから集まりが始まった。

年間行事予定だとかそんな話が始まる。

学年代表を決める時には率先してやる人がおらず、望月君が学年代表となる。

そんな顔合わせをして、数分で活動は終わった。

そしてもらったプリントをファイルにしまい、リュックへと入れる。

「やっと終わった~。」

なんてこぼしてみる。

「そうだな、やっと終わったな。」

耳が良い望月君はそんな声にも返事をしてくれる。

「日向さんさ、今日って何か予定ある?」

少し予定を思い出して、何もないことを確認してから縦に頷く。

「そっか、それじゃあ少し放課後一緒に過ごそうよ。」

なんて望月君は私を誘ってくる。

「何をするかは分からないけど、今雨だよ?」

それを聞いた望月君は窓から外を見て、わかりやすく肩を落とす。

「…とりあえず教室にでも戻ろうか。」

明らかに落ちたトーンで伝えられる。

学校生活の少し外側で、私は少し不安になってしまった。

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