第2話 ここから入れる保険はまだ要らないかも。

中高一貫校と知って期待が不安に変わった昨日。

その不安が布団となって私を離してくれない。

「だからって今日休む理由にはならないでしょう?」

言い訳をしても聞いてくれない母…

「それに今日休むともっと友達出来なくなるよ?

 歩夢と同じような外部進学組も同じような気持ちなはずよ」

確かに、その可能性を信じてみる価値はある。

「もうすぐご飯の用意できるから降りてきなさい」

そう言って布団をひっぺがす。

母は心強いものである。


    ◇


昨日と同じ道を通って教室へ向かう。

道中、私たちとはどこか違う制服を着ている中学生ぐらいの子達を見かけた。

目で追ってみると私たちと同じ門を通り、隣の中学校へ入って行く。

心のどこかで中学生はいないと信じていたのに…。

少し気分を落としながら今日はこけないようにと歩く。

そうして自分の席に着いた私はリュックを机の横にかけ、必要なものを取り出しながら周りを見回す。

数名で集まったグループがざっと八つほど。

残りは本を読んだり、そわそわしたり、寝ていたりする。

「ねぇ、外部進学だったりする?」

あ、前の子が女子グループに話しかけられてる。

あの子も同じ外部進学なんだ。

そう思うと同時に話しかけるきっかけが生まれたことに気付く。

…もしかしてこのままだったら私にも話しかけてもらえる?

期待をしてみたものの、待っている間にホームルームの時間がやってきた。

話盛り上がりすぎだよ、ほんと。

皆が席に着いたのを見計らって先生が話始める。

「おはようございます、昨日は入学式お疲れさまでした。」

新任とベテランを足して二で割ったような先生が担任。

「今日は自己紹介をしてもらった後、委員会でも決めようかなと思います。

 話す内容で案ある人は居ますか?」

そう言って先生が周りを見回していると、一人の女子が声を上げた。

「誰が外部進学か知れた方が皆やりやすいと思います。」

この声、さっき前の女の子に話しかけた子だ。

真面目な陽キャタイプ…なのかな?

「他に提案ある人は居ますか?」

先ほどと違って特に声を上げる人は居ない。

「じゃあ中学の頃の部活、外部進学かどうか、その他趣味などをいお願いします。

 名前順で行こうと思っているのですが、青柳さん大丈夫ですか?」

「大丈夫です、じゃあ始めちゃいますね」

そう言ってさっきの陽キャが話始める。

青柳あおやぎ 希羽みうです。内部進学なので、外部進学の子と仲良くなりたいです!趣味はか

 わいいものと甘いものです。よろしくお願いしま~す。」

元気よく、そしてお手本のような自己紹介を終える。

無意識に拍手をしていると次の人の番になる。

その人もお手本のような自己紹介をして、終わる。

そんな繰り返しで気が付いたら自分の番になっていた。

…考えてなかったなぁ。

「えっと、日向ひむかい 歩夢あゆむです。外部進学なので、話しかけてもらえると本当にうれしい

 です。趣味は読書とか、おいしいもの食べることです。よろしくおねがいします。」

特別噛むようなことも無く自己紹介を終える。

声は小さかったかもしれないけれど…。

心なしか他の人より大きな拍手をもらって座る。

緊張が解け、次の人の自己紹介は聞こえなかった。

そうして正気が戻るのと同じくらいの時に自己紹介の時間が終わる。

聞いた感じ、外部進学は八人程度…。

その中でもう周りに馴染んでいる人もちらほら。

「ここで休憩を挟もうと思います。

 10分後委員会を決め始めますので確認してもらえると助かります。」

その言葉を聞いた途端クラスが賑やかになる。

初めましての挨拶をしている人達が大多数を占めている。

「外部進学の日向さんだよね、私も同じ外部進学なの!」

前に居たおとなしめな女の子が話しかけてくる。

「えっと、浜中さんだっけ?」

「そう、浜中はまなかはるっていうの。よろしくね!」

「うん、よろしく。」

「委員会決まってる?私誰も居なかったら学級委員やろうかなって思ってるの。」

一つの悩みの種を無くすように話題が振られる。

「私は決まってないな、中学校では学級委員やってたの?」

「小学校のころからずっとね、高校でも続けられたらなって。」

「ちゃんと努力してて偉いね。」

私と違って、人前に出ることから逃げていない。

「そんなことないよ、これくらい普通。」

「そう…かな?」

「そうだよ。そんなことよりこれからよろしくね。」

「うん、よろしく。」

「あ、チャット繋げても良い?」

「良いの?ありがとう!」

目を輝かせてお礼をする。

「…できた!また次の時間の委員会決め、一緒に考えようね。」

「学級委員なれるといいね。」

「なれるように頑張るからいいんだよ。」

心強いなぁ。


学校生活への不安が少し、期待へ戻ったような気がした。

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