第8話 「生活」の「活」
どんな顔をして会えばいいのかわからない。
発作を目にした日の翌日はそんな不安を抱きながら病院に向かったが、そんな心配は無用だった。
いやむしろ別の心配が必要だった。
夜宮はあれからずっと人事不省に陥って目を覚まさないのだ。
学校が始まっても角田は毎日のように病院に通った。
ある日ひょっこり目を覚ましてあの偏屈そうな笑顔で迎えてくれるんじゃないか。そんな淡い期待は100%裏切られる。
それでも、通うのをやめてしまうのは怖かった。
「ねえ、夜宮」
角田は枕元の丸椅子に座って話しかける。
「『生活』って何だろう」
少しやつれた夜宮の横顔は、それでもやっぱり美しい。
「『生きて活動してること』だったっけ」
膝に手をついて体重をかける。
「キミは生きてるけど、活動はしてないんだ」
閉じたカーテンは、もうあのときのように輝いてはいない。
「じゃあ今のキミは、何をしてるんだろう」
ほとんどささやきに近い声は空中を漂いほどけて消えていく。
「あれから新しい小説を書いたんだよ」
夜宮はぴくりとも動かない。
「キミに、読んでほしいのに……」
角田は手で顔を拭うと
「また明日ね」
と言って病室を出た。
老人みたいな桜並木の横を通り過ぎる。
落ち葉を踏みながら考える。夜宮はいつまで寝ているんだろう?
夜宮には「活」が欠けている。だから「生活」はしていない。
だけど「生」はちゃんと持っている。
別れたって互いの「生」には問題ないかもしれない。角田は1人でも書けるし、夜宮が読むのは角田の作品じゃなくたっていいんだから。
でも「活」は?
「……なんだか説教臭いことを考えてるなあ」
自分を笑ってみる。
ローファーの爪先で蹴ると、落ち葉は歩道の上を這う。
風が吹いてくせ毛を揺らす。
角田は少し、足を速めた。
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