第11話 夏はパケモンっ!! ①

「オタ君、デート行こっ!」

「……今度はなんですか?」


 夏休みも半分が終わった。

 年々休みが早く感じていく事に恐怖を感じる今日この頃。

 今日も変わらず河合さんは僕の部屋に入り浸る。

 そんな中で唐突に河合さんはそう言った。

 今度は何に付き合わされるのだろうか。


 少なくとも、河合さんが僕に好意を抱いていてデートをしようとだなんて事ではないのはわかる。


「夏と言えばパケモン映画だよ!!」

「映画か」

「うんっ!!」


 パケモン映画と言えば配布パケモン。

 レアな伝説パケモンや色違い、レアな技を覚えている個体と様々な特典を得られるパケモン映画。


 マニアには中古ロムを買い漁ってそういった特別な配布パケモンを探す人すらいる。

 そうしてそういう行為は「中古ロムガチャ」と呼ばれてすらいる。

 さらにはその中古ロムガチャを動画にヨウツベ動画に投稿している人すらいる。

 もはやコンテンツのひとつにすらなっているのである。

 ちなみに僕もその中古ロムガチャの動画はよく観ている。


「まあ映画館なら涼しいですし、べつにいいですけど」

「んじゃ行こっ! すぐ行こっ!」

「わかりましたよ」


 ウキウキな河合さんとは対照的に僕はあまり乗り気ではない。

 メガネを掛けないとまともに映画を観ることができないのだが、メガネを掛けて長時間画面を観ると気分が悪くなるからである。

 なのでいつもパケモン映画は見に行っていない。


 配布パケモンはたしかに強いし希少性の高いパケモンが多いが、対戦などにおいてはわかりやすく技構成なども攻略されやすい。

 あくまでコレクション性の高いパケモンというのが僕の認識であり、実用性に欠けるというのが僕の感想である。

 なので配布にあまり興味もない。


 それに場合によっては交換も可能であるので、そこまでの労力をかけて貰う必要性を感じないというのもある。


「それにしてもあれですね、河合さんもワンピースとか着たりするんですね」

「そりゃ着るよ。可愛い。てか今更過ぎない?!」

「いや、まあそうなんですけど」


 電車に乗って一駅の道のり。

 普段はギャルギャルしい格好だったりラフな格好が多い河合さんだが、今日は僕の家に来た時にはワンピースだった。

 なのでその時にでも本来なら服装についての話題を振るのがモテる男なのだろうが、そんなのを僕に期待されても困る。


「どう? 可愛い?」

「そりゃまあ、そうですね」

「いやいや、そこはさ「可愛いよ河合さん」とかキメ顔で言ってよ〜。じゃないとモテないよ?」


 そんな事を面白おかしく告げてくる河合さん。

 感想を求められたって、キュンとくるような気の利いたセリフなんて僕は言えないし言わない。


「キメ顔に関しては完全に僕をからかう気満々ですよね? そんな痛々しい事を僕がするわけがないでしょう。そもそもモテようだなんて思ってません。僕は一人寂しく死にます」

「そんな捻くれた事言わないの! もしかしたらひとりくらいはオタ君の事を好きになってくれる人がいるかもしれないじゃん? たぶん」

「そうだと良いですねー」

「うわぁ〜ちょー棒読みじゃん」


 世の中諦めが肝心だ。

 だから僕の気持ちを河合さんに伝える事はないだろう。

 期待しない。希望を持たない。


 それが僕の身の丈に合った人生だ。

 それでいいんだ。


「まあでもほら、今日はあたしとデートだし?」

「パケモン目当てのデート、ですけどね」

「筋金入りの捻くれ者だなぁ〜」

「僕はただ身の程をわきまえて生きているだけです」


 河合さんと付き合えるだなんて思っていない。思ってはいけない。

 今こうして一緒の電車に乗っているだけでも奇跡に等しいのだ。

 楽しくおしゃべりできているだけでも満足しておかなければいけないような人種なのだ。


「でもオタ君ってそんなに顔は悪くない気もするんだけどなぁ。ちょとメガネ外してみ」

「メガネ外すと何も見えないので困ります」

「いいからいいから」


 そう言って有無を言わさず僕のメガネを取り上げた河合さん。

 近い距離にいるはずの河合さんの顔すら酷くぼやけていて輪郭すらはっきりしない。


「んで、ちょっと髪型を……あ」

「ん? どうかしました?」

「い、いや?! なんでもないよっ?!」


 とりあえずメガネを返して貰えたので助かった。


「……そっか。オタ君があの時の……」


 極端に視力のない僕がメガネ無しに街に出ようものならたちまに迷子になってしまう。

 小学生の時なんて、メガネを隠されたり壊されたりして家に帰れなくなって警察のお世話になったりとかよくあったし、むしろメガネが僕の本体と言っても過言ではない。


 そんな状態の僕が電車なんかに乗ってたら気がついた頃には知らない土地にご到着、なんて事もあるわけで。


「河合さん、着きましたよ」

「あ、うん。降りよっか」


 メガネを掛けて落ち着いた僕とは反対にどこかぎこちない河合さん。

 まあ普段からテンションの高い河合さんだが、そういう時もあるのだろう。

 改札を出て映画館へ歩く。

 やはり暑い。


「時間的にも丁度いいですね」

「そだね。あたしポップコーン食べたい」

「映画館の定番ですね」


 そうして僕はチョコ味、河合さんはキャラメル味のポップコーンを購入した。


「あとで、ちょっとちょうだい?」

「はいはい」

「やったぜ」


 そうなると思ったから別の味を頼んだのだ。

 好きに食べてくれればいい。


 ……僕は既にずいぶんと河合さんに対して甘くなってしまっているようだ。

 いやはや恋とは恐ろしい。

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