第7話 やり取り。

 河合さんとの色違い厳選縛り旅におけるルールがある。


 まず1つはルールにのっとってパケモンをプレイすること。

 これは大前提である。


 その上での4つ目のジムメダルを獲得した時点でお互い通信バトルである。

 このバトルにおいて、もしその時の手持ちの色違いパケモンが最大で6体(手持ちに入れられるスタメン)未満であってもバトルとなる。

 そして河合さんが僕に負ける度に河合さんがお迎えしていた色違いタトゥーショコランはお預けとなる。


 一応僕の方がパケモン歴が長いので僕が勝ってもインセンティブ的な事はない。

 ただ河合さんがショコランを連れ戻せるかどうかの戦いなのである。


 個人的にはさっさと負けて河合さんとの縁が切れるのを願うばかりだが、アメを上げても努力値が無いと弱いままなパケモンのように河合さんをそこそこトレーナーとして育成しなければ縁は切れそうにもないことはもうわかっている。


「しかしまあ、ルールとして通話をしながらプレイするというのを無くしたのはやはり大きいな。気楽になった」


 河合さんが「ライバル」だと言うのでせっかくならお互い手の内を知らないまま通信対戦で会おうということにしたのである。

 ふはは。我ながら策士。


 河合さんの性格と経験値的には可愛いパケモン特化で揃えてきそうではあるが、そもそも色違いを見つけてしっかりと捕獲できるのかと言えばそうではないだろう。


 そもそも希少な色違いをしっかりと捕まえれられる保証なんてないのだ。

 熟練のプレイヤーや配信者でも逃がしてしまったり倒してしまったりするのが色違い厳選。


 場合によって色違いは御三家だけの可能性すらある。

 というかジムメダル獲得すらできない可能性もある。


「それにしてもうちのサーニャイト可愛いな」


 僕の嫁、サーニャイト。

 願わくばサーニャイトに抱き締められて死にたい人生であった。


 3次元に恐怖する僕にとっては女神にも等しい存在と言える。


「…………」


 そんな事を考えていても、僕のベッドに寝転がっていた河合さんの太ももを思い出して死にたくなった。


 そうして煩悩ぼんのうを振り払って2次元の煩悩へと逃げる。

 僕みたいな人間はそれでいいのだ。

 期待とか、希望だとか、そういうのは現実に求めない。その方が心の平穏を保てるのだから。


「ん?」


 色違い厳選をしていると不意に河合さんからメッセージが来た。


 河合 最花

『色違い2人目お迎えψ(`∇´)ψフハハハ』


 どのパケモンを捕まえたのかは知らないけども、凄く調子に乗っている事だけはわかった。


 なので僕は無言で現在手持ちにいる色違いたちと一緒の写真を添付した。

 河合さん曰くライバルらしいが、全く負ける気はしないのでこちらは手の内をあえて晒してあおる事にした。


 逆にされたら僕でもストーリー序盤のパケモン技構成くらいは把握しているので河合さんは圧倒的不利になるだろう。


 河合 最花

『はぁ?!(D_D)ハァ?! ちょ早くない?!』


 阿佐ヶ谷 翔太

『メッセージ送ってる暇あったら頑張った方がいいですよ』


 河合 最花

『めっちゃ煽ってくるじゃんι(`ロ´)ノムキー』


 こちらには色違いタトゥーショコランという人質がいるのだ。

 そんなのんきにしているとどうなっても知らないぞふはは。


 阿佐ヶ谷 翔太

『あ、ちなみにもうジムメダル4つ集めたので河合さん待ちです』


 河合 最花

『……オタク君がいじわるする( ;-; )ヒドイ』


 実際は最初の色違い御三家を含めても3匹しかいないが、それでもやりようによってはジムメダル4つくらいなら獲得は容易だ。


 あくまでもライバルというのだから仕方がない。

 僕は甘やかすのなんて得意ではない。


 阿佐ヶ谷 翔太

『いじわるではありません。ライバルなんでしょ?』


 河合 最花

『それはそうだけどさー(づ ̄ ³ ̄)づブーブー』


 阿佐ヶ谷 翔太

『でははげんで下さい。僕は厳選に戻ります』


 河合 最花

『うい〜( ̄^ ̄)ゞ』


 やり取りが終わりそうになかったので無理やり終わらせた。

 メッセージのやり取りをしながらでは厳選が進まない。

 これならまだ通話を繋げたままの方がマシだ。


「なんか、急に現実が忙しくなったような感じがする」


 そう呟いて作業に戻る。

 ただゲームをしているだけだ。

 なのに、河合さんと接するようになってからどこかせわしない。

 もどかしさを感じる事もある。


 河合 最花

『待ってろよライバル✌︎(Ⲻⲻ Ⲻ✧)ドヤ』


 そのメッセージと共に送られてきた写メは2つ目のジムメダルを獲得した時の写メだった。


 僕のライバルはずいぶんと愉快なライバルである。


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