強化
パーティーからの追放
「あんたのやり方にはもうついていけねえよ」
その言葉を聞いたとき、バルトはまたかと思った。ギルドから請け負った仕事の帰り、先を行く彼に向けて、仲間の弓手兼近接職のケネスの放った言葉だった。
「俺に文句でもあるのかよ?」
バルトは振り向き、ケネスに詰め寄る。
普段はそれで引いていたケネスであったが、今日は違った。彼の後ろにいる聖職者の少女ソノアと魔術師の青年キャスは、目を合わせようともせずうつむいている。
「あるね。大ありだ。あんたは戦闘の時に前に出すぎなんだよ。そのせいで、ソノアの加護は間に合わねえし、追いつかねえ分はキャスが防御面をやってる。苦手な補助魔術で魔力は持ってかれるし、隊列が空いた部分の防御壁と先行するあんたのための補助魔術もやんなきゃなんねえ。その結果ろくに攻撃もできてねえし」
戦闘時の治癒や体を守る加護、身体能力強化というのは、基本的には聖職者が行う。祈りは魔素を通じて神に届き、人に加護と治癒の力を与える。それは方法論として確立しており、聖職者の魔力消費も少ない。同様の効果を与える魔術も存在するが、複雑な手続きを踏まねばならず、特に治癒に関しては術者に大きな負担を与えるため、高位の魔術師しか使用できない。
「ケネス、それは本気で言ってんのか?」
腹の底から響くような、威圧感のある声で、バルトは聞き返す。さすがのケネスも、顔を引きつらせ、言葉に詰まる。だが、今回の彼は本気だった。
「……バルト、今日こそは聞いてもらうぜ。俺たち三人はやれることはやってる。なのにあんたが自分勝手に動いて、何もかもぐちゃぐちゃにしちまう。一応仕事は終えたが、こんなの続けてたら身が持たねえぜ」
言葉を紡ごうとするケネスの前に、バルトがもう一歩踏み出す。鍛え上げられたバルトの体に圧倒され、ケネスは後ろに下がる。
「ケネス、そういう言葉は自分の仕事ができてからにしろよ。お前、ゴブリン相手に弓一発外してるよなあ。それでこっちの隊列が崩れて、俺が前に出ることになった。近接になってもゴブリンくらい軽くひねれりゃいいんだが、剣の使い方が甘すぎる」
「そ、それは……」
バルトはケネスに向けていた視線をキャスに向ける。
「キャスは魔術の効果範囲の把握ができていなさすぎる。混戦になると俺たちを巻き込むことに気を取られて魔術の使用頻度が極端に落ちる。だから範囲攻撃による敵の足止めがうまくいかないんだ。結果俺が前に出ることになり、慣れない補助魔術を使う役回りになるんじゃねえか」
「ごめん……ぼくも精一杯やってるつもりなんだ」
キャスはさらに体を縮こまらせる。
「ソノア」
「はい……」
ソノアはうつむいたまま、か細い声で返事をする。
「加護だの治癒だのに関しちゃあんたの専門だろ。キャスが防御に回るなら、あんたが指示を出すべきだろ。自分の仕事だけやってりゃいいって甘いことを考えてんじゃねえのか」
「でも、私は、加護の祈りだけで精いっぱいで……」
「じゃあその加護の方はどうだ? 俺たち近接職は前に出る分、魔物から攻撃を受けることも多い。確かに加護はありがたいもんでもあるが、あんたはあまりにも先回りして加護を俺たちに重ね、無駄な魔力を消費している。あんたの魔力は戦闘継続には重要なもんだ。その辺もしっかり考えといてもらいてえもんだな」
「ごめんなさい」
ソノアは目に涙をためて体を震わせていた。
「もううんざりだ!!」
ケネスがたまりかねたように叫んだ。バルトはゆっくりとケネスに視線を戻す。
「確かにあんたの言ってることは正しいかもしんねえ。今回の仕事だって、あんたがほとんどの魔物を倒しちまった。認めるさ。あんたは強い。ただよお、俺たちにも自分の限界ってもんがあるんだよ! あんたの言ってる通りに動けたらって思うこともあるが、そうそううまくはいかねえっての!」
「ああそうだ。だから俺は多くを求めていないし、これから強くなってくれたらいい。今受注できる仕事はは俺の力だけでもなんとかなるからな」
「だから! その! 上から目線が気に入らねえってんだよ!」
そこでバルトは初めて動揺を見せた。
かつて所属していたパーティーでも同じようなことを言われていたからだ。
「あんたは上を見すぎなんだよ。認めたくはねえことなんだが、今のところ、あんたが求める水準に、俺たちは届く気がしねえ。なんで俺らのところに入る気になったんだよ。あんたはもっと上のパーティーを探すべきだぜ……」
言ったあとで、ケネスは下を向いた。冒険者にとって自分の無力を認めることほど辛いことはない。皆上を目指して冒険者ギルドに飛び込んだのだ。
「俺たちは同じくらいの実力の近接職を探す。今回の報酬はあんたが全部もらってくれよ。だからあんたも……」
ケネスが顔を上げ、バルトの顔を見ると、彼はとても悲しげな表情を浮かべていた。
「分かった。俺は抜ける。すまなかったな」
ケネスは申し訳なさそうに、
「いや、俺たちも、あんたが悪い奴だって言いたいわけじゃないんだ。ただ、ほかにあんたがいるべき場所があるってことでさ、なあ?」
と言い振り返って、ソノアとキャスに声をかける。二人は無言で頷いた。
「報酬は本当にいいのか? 俺だけが魔物を倒したわけじゃない」
「いいんだよ。もらってくれ、これは俺たちからの報酬金だ。あんたのおかげで自分たちの実力以上に稼がせてもらった。これからは実力なりの仕事を探すことにするよ」
「そうか……」
そして、一人と三人はその場で別れた。
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