第3話
「それで、いったん話を戻すけど、君たちは事件を探してるのよね?」
そう言って、理恵は私たちに視線を向ける。
「ちょっと待って。なんであたしの方にも視線を向けるわけ? 君たちの中に、まさかあたしを含めてないわよね?」
「安心して〜。志摩子ちゃんはもう、泉探偵団の一員だからぁ」
「いや、その事実はあたしを著しく不安にさせるから」
「私は認めたくない。認めたくないけど――綾香が認めるのなら、私はあなたの探偵団入りを……了承する!」
私は歯を食いしばり、拳を作り震わせた。
「あんたが認めても、あたしは絶対に認めないから」
「どうやら話が纏まったようね。実は私、泉探偵団に事件の解決をお願いしたいのよ」
「今の話のどこに纏まりがあった?」
「理恵ちゃん、私たち3人なら大丈夫だよぉ」
「綾香が大丈夫と言えば、絶対に大丈夫。何せ、綾香はこの世界の女神だから」
「も〜、泉ちゃんったらぁ、それは言いすぎだよ〜」
綾香は顔を真っ赤にさせ、私の左腕をぽかぽかと叩いてくる。そのあまりの可愛らしい姿は私の心を締め上げる。奇跡の瞬間を逃すわけにはいかず、私は慌ててスマホで激写した。
すると、彼女は笑顔でピースサインした。
どんなに怒っていても――写真を撮ると必ず笑顔でピースサインをする、そんな天使のようなあなたが好き。狂おしいほどに。
「理恵、こいつらっていつもこうなの?」
「いきなりの名前呼び!? 流石は陽キャ。末恐ろしい存在ね。早く私の書く薄い本でめちゃくちゃにしたくなってきたじゃない」
「よくわからないけど、あんたの方がよっぽど末恐ろしい存在なんだけど?」
「ふふふ、これぐらいで恐ろしいと言ってはいけない。私が抱える事件と比べたら、そんなの鼻糞みたいなものよ」
「例えが、あまりにも小学生男子ね」
「ねぇ、理恵ちゃん。一体、どんな事件があったの?」
綾香は私へのぽかぽか攻撃を止め、理恵の方に視線を向けてしまう。しかも、期待を向けた眼差し! その事実は私の心を苦しめる。
「そう、あったのよ、とんでもない事件がね」
そう言って、理恵は眼鏡をくいっと上げてみせた。
「おそらく――この学校中が震撼するほどの事件が」
綾香は緊張のあまりか、唾をごくりと飲み込んだ。
「そ、それは、一体なんなのぉ?」
理恵は自分の唇の前に人差し指を立てた。
「これは、あんまり大きな声では言えない。だから、みんな集まってちょうだい」
私たちは志摩子の机の周りに近づき、輪になった。
「なんで私のところに集まるのよ。まぁ、確かに気にはなるけどさ」
そう言って、志摩子は紙パックをつかみ、口を咥えた。
「で、なんなの〜」
「私が口に出せば、間違いなく警察沙汰になるでしょうね」
綾香は再び、唾をごくりと飲み込んだ。
「盗まれたのよ」
理恵は、皆に視線を向ける。
「私の――」
緊張がほとばしる。
「――コスプレ用のブルマがね」
志摩子はジュースを口から盛大に吹き出した。
***
放課後。
私たち泉探偵団は、被害者の理恵を連れて被害現場まで向かった。
「なんで私まで……」
志摩子は、今日なん度目かの愚痴をこぼした。
「私の顔にジュースをぶっかけたからよ。あの、ドロリとした濃厚なものをね!」
そう言って、理恵は眼鏡をくいっとあげた。
「それは何度も悪かったって、謝ってるでしょ」
「謝ればすぐに許されると思う――これだから陽キャは駄目なのよ」
「それ、陽キャ関係なくない!? ってか、いい加減、名前で呼んでよ、理恵」
志摩子の言葉に、理恵は鼻を鳴らした。
「本当、あんたは感じ悪いわね!」
理恵はある部室の前で止まると、その扉を指差した。
「さぁ、ついたわよ。君たち、気持ちを切り替えなさい。容疑者たちはすでにここへ到着している!」
「オタク研究部?」
志摩子は、扉に張り出された紙に書かれた言葉を口にした。
「そうよ、陽キャ。君には分かんないでしょうね。この名前がいかに高尚なものかを。だから、馬鹿にする。それは何故か――理解できないからよ!」
「そうね、確かに高尚かどうかは分かんないわね」
理恵は、馬鹿にしたように鼻で笑った。
「でも、あんたがこれを大切にしていることは分かったわ。なら、馬鹿になんてしないわよ」
「うっ」
何故か、理恵は一歩だけ後ずさった。
「く、口ではなんとでも言えるのよねぇ!」
「理恵ちゃん〜、素直にならないと駄目だよ〜」
「黙れー、この天然娘がぁ」
「天然〜? そ、そんなことないよねぇ、泉ちゃん!」
あ、綾香が、不安そうに私を見上げてくる!
「理恵、それは神への冒涜だから!」
「ぼ、冒涜? 私はそこまでの罪を犯してしまったって言うの?」
「その通り、だからあなたは明日――死ぬもしれない」
「死ぬ!?」
「そう――神の怒りの雷を受けて」
「何故に明日!? 時間差攻撃になる理由は何なの!」
「……それは、分からないけど」
「分からないの!?」
志摩子がわざとらしくため息を吐く。
「本当に話が進まないわね。さっさと話を聞いて、さっさと帰るわよ」
そう言って、志摩子は扉を開けた。
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