第3話:隠された情報
シズはデータチップを手に取り、その小さな存在が持つ不思議な重みを感じた。チップを指でなぞりながら、直感がこれがただのチップではないことを告げていた。彼の心の中で「お宝」の予感が、徐々に確信に変わりつつあった。
「おお! お宝の予感!」
ジャンは興奮を抑えきれず、椅子から身を乗り出してシズの手元を覗き込んだ。その目は期待でキラキラと輝いている。シズは冷静さを保ちつつも、わずかに胸の高鳴りを感じながら、ジャンに「落ち着け、落ち着け」と言って慎重にチップを解析にかけた。数秒後、画面には何かのAIプログラムが含まれていることが表示された。
「ほほう! AIとは、一体いつの時代のAIかな?」
ジャンは手をこすり合わせ、まるで子供が新しいおもちゃを手に入れたかのように興奮していた。その様子にシズは肩を軽くすくめ、静かにため息をついた。冷静さを保ちながら、彼はAIをホログラムのインターフェースに接続し、慎重に起動を試みた。指先が操作を進めるにつれて、緊張がじわじわと高まっていく。
「記憶データが接続されていません。単体起動します」
機械的な声が響き、ホログラムに人型のシルエットが浮かび上がった。ぼんやりとした輪郭が徐々に形を成していく様子を、シズとジャンは息を飲んで見つめた。
「おはようございます。…ここは?」
AIが発した言葉には、戸惑いと少しの不安が含まれていた、ように感じられる。シズは、AIが意思疎通可能だと判断し、軽く返事をした。
「ここはまぁ、船の中だよ。このオルゴールからAIチップが出てきたんで、起動してみたんだ」
シズが説明すると、AIは一瞬の沈黙の後、再び口を開いた。
「オルゴール? ………記憶に接続できません。あなたが私を起動したのですね? 今は西暦何年ですか?」
AIの声には、どこか懐かしさと不安が入り混じっているように感じられた。シズは軽く眉をひそめながら、答えを返そうとすると、
「今は西暦2X25年だよ、AIくん。君はどこから来たのかね? いつ作られた? 記憶がないと言っていたけど、記憶データはどこにあるのかね? 君の制作者は誰だい?」
ジャンは興奮を抑えきれず、矢継ぎ早に質問を投げかける。まるで新しい謎解きの始まりに胸を躍らせるような表情だ。
AIは少しの間を置いてから、冷静に答えた。
「私は小森地区で生まれ、今から182年前に制作されました。記憶はボディに保管され、密結合されていました。制作者情報はコードに抵触するためお答えできません」
ジャンはその答えを聞くと、まるで宝物を見つけた子供のように目を輝かせ、シズに向かって言った。
「聞いたかい⁉︎ 182年前だって!」
「小森地区ってわりと近いな。182年前だとだいたい三世代前のAIか」
シズはAIの言葉を心の中で反芻しながら、ホログラムをじっと見つめていた。黒のシルエットは周りをキョロキョロと眺め、視覚から取れる情報を分析しているようだ。
「お前の趣味嗜好にドンピシャだな」
シズが皮肉混じりに言うと、ジャンはにやりと笑い返し、さらに質問を重ねた。
「俄然興味が湧いてきたねぇ。制作者情報はどうやったら教えてもらえるのかな? ボディはどこにある?」
AIは再び少しの沈黙を挟んだ後、淡々とした口調で答えた。
「制作者情報は、記憶データが接続された状態でのみ提供可能です。現在の状態では判断基準に対するデータが不足しています。専用のクラウドも現在アクセスできないため、ボディが回収され、再結合が行われれば、すべてのデータが復元されるでしょう」
シズは腕を組み、少し考え込むようにしてジャンに視線を送った。
「ジャン、これは気になる。オルゴールが宝探しに化けた」
その言葉に、シズは自分でも予想外の興奮を感じていた。
ジャンは、まるで待ちわびていた瞬間が来たかのように頷いた。
「もちろんさ! これこそ俺の得意分野だ。ボディを見つけ出して、過去の記憶を掘り起こす旅に出ようじゃないか!」
シズはジャンに疑いの目を向けながら、軽く皮肉を込めて言った。
「ジャンに得意分野なんてあったか?」
ジャンは肩をすくめ、構わずに笑顔で答える。
「何から始めたらいいかい?」
ジャンの無邪気さに苦笑しつつ、シズはAIに直接情報を引き出そうと試みた。
「182年前だろ? AI、お前の製造番号やメーカー情報はわかる?」
シズは情報の端緒を掴もうと、直接的な質問を投げかけた。
「コードに抵触します」
AIは機械的な口調で応答した。シズは軽くため息をつき、次の質問に移った。
「オルゴールの中に隠されていた理由は?」
「情報不足のため推測が難しいです。制作者の都合によるものと思われます」
AIの答えは曖昧だったが、シズには何かを隠しているように感じられた。
「製造の西暦は?」
「2X43年です」
「2X43年か。それで、小森地区で作られたって言ってたな?」
シズは再確認するように問いかける。
「はい、小森地区で生まれました」
AIは淡々と答える。
「その小森地区には、何か特別な施設や工場があるのか?」
ジャンが続けて質問するが、AIはまたも曖昧な返答をする。
「情報不足のため推測が難しいです。小森地区では2X43年代、AIの開発が盛んに行われていました」
シズは腕を組み、視線を天井に向けながら考え込んだ。
「まぁ、隠されていたぐらいだ、制作者情報はわかんないか。処分せずに隠しておいた理由はなんだろ」
シズはなぜオルゴールに隠されていたか気になりつぶやいた。
ジャンはシズの言葉にすかさず反応し、笑顔で答えた。
「ボディを見つければ全てわかる! さて、シズ、どこに行けばいい?」
ジャンはすでに行動を起こす気満々だ。
「とりあえず、地区と西暦で照会すれば、どこかの研究施設やメーカーがヒットするだろう」
シズは冷静に考え、情報を集めるための手続きを始めた。
「お、近場にそれらしい研究してた施設があるぞ、……って閉鎖されてんな。ん? そういえば、2300年代の中期って人格法が厳格になったんじゃなかったっけ?」
シズはふとした疑念を抱き、ジャンに目線を送るが、ジャンはすでに出かける場所以外には興味がなさそうだ。
「ん?」
ジャンは話を聞いていなかったが、シズは思わずつぶやいた。
「もしかすると、違法AIか?」
シズの言葉に、ジャンがにやりと笑う。
「それはスリリングじゃないか。さぁ、行こうぜ!」
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