第3話 魔族、城に行く

「やっと、開放された……」


城を出るなりカインはその場に座り込んだ。


「情けないわね。……あーあ、もう夕方じゃない。どうしてくれるのよ、まったく……」


こんなに時間がかかったのはレイナのせいなのだが、カインにはもう相手をするだけの気力は残っていなかった。


さかのぼること四時間前___。


レイナが魔法で門扉を開け、壊してしまったことで、城内にはサイレンが鳴り響いていた。


「ま、魔王様!城の扉が外部の者に破壊されたようです!」


「これは恐らく魔族の魔法では無いですぞ……! ついに勇者パーティーが来てしまったというのか?」


「魔王様、ご命令を!」


パニックである。

加えて、前魔王の突然の崩御により魔王が変わってからまだ間もない時期であるので、周囲の不安は大きいのだ。


「敵の数は?」


騒がしい大ホールに、凛とした声が響く。視察に向かわされた魔族が一人、声をはりあげた。


「あの、ひ、一人です!」


一瞬にして静かになる大ホール。

口には出さないが皆、なんだ大したことねーじゃんと思っていることが伺えた。

門の方から凄まじい魔力を感じていればまだザワついていただろうが、割とそうでもないのである。


城の入口が、開いた。

魔族たちの緊張が高まる。


魔族たちは、疲れきった顔で魔導書を開いている若い魔族と、衛兵と怒鳴り合う一人の人間のメスを目にした。

魔族たちの間には戦慄が走ったという。


「言ってるでしょ、私魔王に敵意あるわけじゃないって!!」


「だからその魔王呼びをやめろ!魔王様だ、魔王様!!」


「わかったからさっさと通しなさいよ、この魔王信者!」


「わかってねぇだろ、こんのクソガキが!魔王様は神聖な存在!どんなことしててもカッコイイし演説なんて耳浄化されたし角が黒いのもカッコイイし全てが美しいし(以下略)前魔王のオッサンから現魔王様に変わって本当に狂喜乱舞したんだよ!一週間前寝ずに全力でサンバ踊ったんだよ!!それをお前みたいな人間のメスガキが(以下略)」


この間にカインは魔族の間を通り抜けると、「が今回の獲物です」と魔王に耳打ちした。


「……あの、言い争っているやつが?」


「左様にございます……」


魔王は玉座から立ち上がると、衛兵のそばに立った。転移魔法を使ったのである。

固まる衛兵。


「お前、本当にサンバ踊ったのか?」


「は、はい!ゼクロス様が魔王様になられることが大変嬉しく……」


「そりゃどーも。けどその前にオレの親父のことオッサンとか言わなかった……?」


声の調子が低くなったことに気づき、衛兵の顔色がサッと青くなる。


「お前、クビね」


魔王はニコニコしながら拳を固めた。どす黒い何かがその拳を覆う。

衛兵が口を開いた瞬間、魔王の拳が衛兵の鳩尾に沈んだ。そのまま吹っ飛んでいく衛兵。

間近で見ていたレイナはドン引きした。


「さて……そこの人間。お前なんで自分がここにいるかわかってるか?」


キョトンとするレイナ。


「なんでって……カインに攫われたからよ?」


「じゃあ、なんで門を破壊した?」


「そんなことしてないわ、カインが開けるのに時間かかりそうだから自分で開けただけよ」


破壊だなんて心外だというふうに答えた。


「オレが見た感じだと、最低二つは使い物にならないくらい壊れてるが?」


レイナは何も言わず肩をすくめてみせた。

しばらくの沈黙の後、魔王は肩を震わせる。


「ははははっ!気に入ったよ。お前は喰わないでおいてやろう」


レイナは露骨に顔をしかめる。


「私、元は貴方の食用肉だったのね……なんか嫌」


「まあ気にするな。ところでフローレス卿。お前カインという名前だったのか」


魔王は、早く帰ろうと近くにやってきたカインに言った。

それを聞いたカインは血の涙を流す。


俺、ゼクロス様が魔王様になる前からゼクロス様のために働いてきたんだけどな……。


魔王はさらに言った。


「名前を知ったついでだ。カイン、壊れた門扉を直せ」


「私修復系の魔法は使えないのよね。手伝ってあげられなくて残念だわ」


ちっとも残念そうでは無い口調のレイナ。

カインの心には、怒りと苦しみの嵐が吹き荒れる。


「あと、この人間に敵意がないか確認しておこう。カインも手伝え。門扉を直した後でな」


「待っている間私はなにをすればいいかしら?」


「オレとお茶でもどうだ?少し話したい」


それを聞いた召使いが、慌てて場の片付けを始める。混乱はすっかり収まっていた。


「じゃあ、頼んだぞカイン」


カインは、声にならない悲鳴をあげた___。





そういうわけで、カインは疲れ果てている。

レイナは、魔王城に人間を住まわせるのは如何なものかということで、しばらくはカインの自宅で生活させることになった。レイナの扱いは今後の魔族間の話し合いで決まるそうだ。

その関係で、カインの家とレイナに護衛をつけることが決まり、カインの疲労感は増した。


「帰るぞ……」


カインとレイナ、そして護衛は、ノロノロとカインの自宅へ向かって行った。

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