第2話 魔族、扉を開ける
魔界の入口にて___。
「意外と遠いのね、魔界って」
魔族・カインの手から開放されたレイナは開口一番そう言った。
「お前の村が異常に遠いんだよ……いつも行く町は今の半分の時間で往復できる」
カインはげっそりした顔をした。体の大きさが、かなり小さくなっている。先程まで巨人だったのが、今は長身の男性より少し大きい位のものだ。レイナは、魔法で大きくなっていたんだわと思った。
「それなのに魔王様の気まぐれで辺境から人間のメスを連れてこいとか言われて……町から離れたら集落全然ねぇし最悪すぎ。ようやくよさそうな奴見つけたと思ったらこんな……」
「グダグダうるさいわね。しかも今すごく失礼なこと言おうとしてなかった?」
青くなった顔をブンブン振るカイン。
「そんな顔色悪い時に頭振ったら気持ち悪くなるわよ。にしても顔色悪すぎない? 無理はよくないわ」
お前を攫う相手に選んだことでいつもより消耗してんだよ!という言葉を呑み込み、魔界へ足を踏み入れた。カインは慣れ親しんだ空気に、そっと息をつく。
二人並んで魔王城へと向かう。道行く魔族からの視線に、レイナは落ち着きを失くした。
「私、すごく見られてるわね。やっぱり、私が美しすぎるのかしら」
魔族の少ない道に入ると、自信満々に腰に手を当ててそう言った。口元はニヤけ、頬が微かに上気している。
カインはそんなレイナを一瞥すると、ため息をついた。
「見た目の良さはみんな似たり寄ったりなんだよ……お前より良い奴もいるしな。お前が見られてんのは、自分の足で歩いているからだと思うぞ」
レイナは意味がわからずキョトンとした表情になる。
そもそも普通の女の子であれば、魔族に捕まり、ものすごい速さで空を飛んで魔界に連れてこられる時点で失神するのが当たり前だ。
もちろん、魔界に入っても失神したままなので、魔王城までの道中はずっと魔族の手の中だ。また、途中で気がついても恐怖で動けない者が大半である。
そんなわけで、ケロッとした顔で自分を襲った魔族の隣を歩いている事など、完全にイレギュラーな事態なのだ。
しかし、この事をそのままレイナに言えば『私が普通じゃないっていうの!?』とブチ切れられるのが安易に想像できてしまうので、カインは何も言わない。
「着いたぞ。魔王城だ」
レイナはむくれてみせた。
「先に髪飾り直してくれないの?」
「魔王様への報告が先だ」
カインは素っ気なく言い放つ。
「直った髪飾りをつけていったほうが、私の美しさが際立つし、魔王にとってもいいと思うわ」
「こればかりはダメだ。規則だからな」
渋々といった様子でレイナは城の扉の前に立つ。
カインも隣に並んだ。
「開けるからしばらく待ってろ」
カインはコートの内ポケットからボロボロの本を取り出し読み上げた。
「開けゴマ!」
ごぉぉおと轟音を立てて動く扉。
その奥には次の扉が現れる。
「次は……開けセサミ!」
「……ダサ」
扉が開き、再び新しい扉が現れる。
「……扉って何個あるの?」
「勇者対策で今は確か15枚」
「…………ダサ」
カインは至って真面目な表情で呪文を唱える。
「開け本!……間違えた、開け花!」
「開け未来!開け運命!!開けえぇぇぇぇぇ!!!!」
「開け、扉!!」
ようやく十枚。カインは既に肩で息をしている。
呪文を唱える度レイナは死んだ魚の目をカインに向けた。
人間の第三者が見ていたら、その目には頭がイッちゃった魔族が叫ぶさまをゴミを見るかのような目で眺める見目麗しい美女が映ったに違いない。
だがここは魔界。こんなのはいつものことなので気に止める者はいない。
レイナは盛大にため息をつくとカインの前に立った。左手で扉に触れる。
「ヒラ・ケゴーマ!」
レイナが叫んだ瞬間、残りの五枚の扉が一斉に開いた。勢いに耐えきれず、扉が2枚大破した。唖然とするカイン。
「早く行きましょ。済んだらすぐに髪飾りを直しに行くんだから」
スタスタと歩くその背中を見て泣きたくなる。
ヒラ・ケゴーマの方がダサいなと思いつつ、カインは重くなった体を引きずり、レイナの後を追った。
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