いつも通り女子さらったら面倒なことになった~魔族は日々奮闘中~
#はりがね
一章 (1~4)
第1話 魔族、怒られる
世の中に魔族が溢れかえり、比例して勇者が増えていった世界。
その中で、不穏な世の中とは対照的にのんびりした空気が流れている村があった。
ここは森の奥の小さな村。
花畑の真ん中に少女が座っていた。 木漏れ日が彼女の髪を照らしている。
アーモンド型の目に、整った顔立ち。少女が村一番の美人であることは言うまでもない。
少女は、頭の上を飛び回る蝶を眺めて目を細めた。
その時___。
突然空が暗雲に包まれた。木に止まっていた鳥が一斉に飛び去っていく。
少女が何事かと立ち上がると、目の前に黒い壁がそびえ立った。
身の危険を感じ逃げようとするも、既に少女の体は捕縛されている。
「人間……メスだな。顔も悪くないし丁度いい」
少女は先程壁だと思ったものが、今自分を捕まえている者の巨体であったことを悟った。
加えてその頭には角が生え、額には紫色の模様がのぞいている。
魔族だ。
魔族は更に少女の体を品質チェックでもするかのように掌の上で転がした。少女の顔が強ばる。
魔族が少女の足の裏を見るべく体を持ち替えた時、少女の我慢は限界に達した。
「きゃああああああああああああ!!!!」
耳をつんざく少女の悲鳴に、魔族の体が跳ねる。続く少女の言葉に魔族は固まった。
「なあぁぁにやってんのよ!!!!この変態が!!」
固まってしまった魔族に、少女は眉を釣り上げた。
「スカートめくれてるでしょうがッ!!女の子攫おうってんならもっとレディに配慮しなさい!!」
魔族は、選ぶ相手を間違えたことを唐突に理解した。
慌ててスカートを直してやると、丁寧に少女を掌の上に乗せる。少女も背筋をのばし魔族に向き直る。
「謝るとかないのかしら」
「ご、ごめん」
「髪型も崩れちゃったわ。付けていた髪飾り、お気にのやつだったのに……あ、探すの手伝ってくれる?」
「……」
「まず降ろしてよ。探せないじゃない」
大人しく少女を地面に降ろし、二人で髪飾りを探す。
程なくして見つかったが、粉々に砕け散ってしまっていた。
「あーあ……。魔法で何とかならない? 貴方魔族よね?」
「装飾品の復元は俺にはできない。専門にしてるやつはいるが……」
少女はしばらく考えた後、スカートのポケットに髪飾りの破片をひとつ残らず入れた。
散らばった小さな破片を簡単にまとめてしまったことに、魔族は素直に驚く。
「貴方、私を攫って他の人たちみたいに魔界に連れていくつもりだったのよね?」
「……まぁ、そうだな」
「じゃあ予定通り攫って。ついでに魔界で髪飾りを直してもらうわ」
なんとなく予想出来た答えに、少女を放置して帰りたくなる魔族。
「この村には、他にメス……特にお前ぐらいの歳のやつはいるか?」
恐る恐る尋ねると、冷たい目を向けられた。
「なに、更に攫っていくつもりなの? そうね、私の他には三人いるわ」
そう言って大きな木に目を向けた。
「二人は隣の町に働きに出ているから今はいないわ。あと一人はずっとそこにいるわよ」
魔族は少女の見据える方に目を凝らすが、そこに人影は見当たらない。あるのは一本の木と、その根元に大きめの地蔵……。
「誰もいないじゃないか」
少女は少し笑って、地蔵の肩に手を乗せた。地蔵がゆっくりと動く。
「あーもう。地蔵ってるときは触らないでっていつも言ってるじゃん」
地蔵は眉をひそめると、ため息をついてから再び仏のような笑顔をうかべて静止した。
一部始終を見た魔族は戦慄した。そして諦めたように少女の前に手を差し出す。
少女はタクシーにでも乗るかのように魔族の掌の上に乗る。
魔族は少女と共に飛び立った。
「地蔵ちゃんは攫わなくてよかったの?」
「……重そうだったし」
ふーん、と少女は興味なさげに呟いた。
「そういえば、私はレイナよ。貴方は?」
「カインだ。周りからはフローレス卿と」
「じゃあカインでいいわ」
話を遮られイラッとするカイン。
「もっと早く飛べないの? 早く髪飾りを元通りにしたいのだけど」
「やってもいいがお前の体が潰れるぞ」
いつもは皆飛び始めると失神するんだが……。これだとこいつの相手をするだけで疲れ果ててしまいそうだな。
そう思ったカインは、レイナをガン無視することに決めた。
しかし、結局耐えきれず話してしまうのである。
少女を一人攫うのに、ここまで疲労感を感じるのは初めてである。
まだ魔界の入口も見えないのに、既に頭痛を感じるカインだった。
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