終幕

脚本

 西城俊一さいじょうしゅんいちは渋い表情で、手にした脚本をテーブルの上に放り投げた。

「これって、春禰はるねの事件を題材にしていますよね? 巧に名前を変えてありますけど、出て来る人物はどう見ても春禰の事件関係者たちだ!」

 俊一のいらだちに、沖博信おきひろのぶは「はい」と満面の笑顔で頷くと、「ちなみにホンに出て来る内と言うスポンサーは私のことです。永野という演出家兼脚本家は、こちら、隣にいる永田海斗ながたかいと君がモデルになっています」と隣に座っている卵型をした顔に小さな目がついた小男を紹介した。見た顔だ。かつて一緒に仕事をしたことがあるかもしれない。

 二人共、脚本に出て来る人物描写の通りだ。

「犯人の一人、東城誠一って、これ、僕のことですよね?」

 脚本の人物描写の通り、俊一は堀の深い顔だ。

「ええ、まあ。分かりますか?」

「分かりますかじゃないでしょう。誰が見たって、そうですよ!」

「えへへ」と沖は悪戯を見つかった子供のような笑い方をした。

「笑い事じゃありません。沖さん、あなた、この脚本で、僕に映画を撮らせるつもりなのですか?」

 西城俊一は売れない映画監督だ。もとは役者をやっていた。役者として売れず、映画監督に転身したのだが、こちらも泣かず飛ばずの状態だった。ただ、映画出演が縁で知り合った芸能界のトップ女優、西城春禰と結婚したことで、世間の注目を集めた。

 西城春禰は二十代で国民的女優と言われるトップ女優に上り詰めた。春禰が他の女優と違ったのは、類稀なる美貌に加えて、経営の手腕にも恵まれていたことだ。大手芸能事務所から独立して個人事務所を立ち上げると、数年で芸能界の一大勢力となる大手芸能事務所へと育て上げた。

 その西城春禰が殺された。

 今年の冬のことだ。春禰は故郷、群馬県の僻村に建てた別荘に遊びに出かけた。そして、別荘に到着した翌朝、二階の寝室で、冷たくなった春禰の遺体が発見された。寝室は内側から鍵がかかっており、窓にも鍵がかかっていた。密室状態だった。だが、細い首筋に索条痕と呼ばれる首を絞められた赤い筋がくっきりと残っていた。他殺と判断された。

 事件当夜、春禰は頭が痛いと言って、早めに休んだという。

 別荘には夫の俊一と通いの家政婦の飯田勝子いいだかつこしかおらず、死亡推定時刻の夜、八時から十一時の間、俊一は村の居酒屋に飲みに出かけており、勝子は自宅へ戻っていた。屋敷は無人の状態だった。外部からの侵入者により、殺害された可能性が高かった。

 別荘がある辺りは、温泉が沸く以外、何もないようなところだ。容疑者は簡単に絞られると思われた。だが、困ったことに、春禰は帰省に合わせて、関係者を村の旅館に招待していた。それも、彼女に恨みを持つものばかりだった。

 この辺の事情は、ほぼ脚本にあった通りだ。

 宿泊客の全てにアリバイがなく、動機があった。だが、捜査は難航していた。

 そんな折、映画製作会社で働く沖から西城俊一に連絡があった。沖とは助監督時代に何度か一緒に仕事をしたことがあった。突然、沖から連絡があり、映画を撮りたいので、俊一に監督を頼めないかという話だった。

 映画監督と言っても、もう何年も映画を撮っていなかった。ヒット作など皆無だった俊一に監督を頼んでくる映画製作会社などなかった。それが突然の監督依頼だ。俊一は張り切った。早速、会社に沖を尋ねた。

 会社の勢いを象徴するかのように、見晴らしの良い広々とした応接室に通された。四角く並べられたソファーの隅に固まるようにして二人の男が座っていた。

 沖から、脚本家の永田を紹介された。そして、「この場で読んでみてくれ」と言われて、脚本を渡された。

 俊一は長い脚を組むと、脚本に目を通した。

 そこに書かれていたのは、登場人物の名前こそ変えてあったが春禰の事件だった。

「この映画をあなたが監督すれば、世間で話題になること、間違いなしです。映画は大ヒットを記録して、西城さん、あなたも、売れっ子映画監督の仲間入りをすることができますよ」

「そ、それはそうかもしれませんけど、趣味が悪い。いや、悪過ぎます。しかも、事件の犯人が僕だと言っているに等しいじゃありませんか!?」

「いえ、あくまで犯人は東城誠一です。あなたではありません。実際の事件をモチーフにしていますが、映画ですから作り物です。それに、脚本をよく読んで下さい。事件は舞台、即ち、劇中劇の形で語られています。真犯人が誰だとか、どうやって殺したかだとかは、舞台を見たスポンサーと演出家が話し合って決めているだけです。

 実際の事件をモチーフにしているのは、映画の中、劇中劇の舞台の上だけなのです。事件は未解決のままですから、当然、オチが必要な訳です。それが無いと、観客は納得してくれなません。だから、それを舞台劇関係者の会話で補っているのです。どうです? この脚本、よく書けているでしょう。これが実際の事件と関係ないことくらい、観客だって見れば分かりますよ」

「ですが、この脚本だと、僕が犯人だと暗示しているようなものだ。僕は春禰を殺してなんていない!」

「まあ、その辺りが、この映画の面白いところなのですがね」沖は薄ら笑いを浮かべた。

 生き馬の目を抜く芸能界だ。俊一は沖に、(この世界のことが、何も分かっていない)と思われているような気がした。事件関係者がたまたま映画監督なので、映画を撮った。それも、自分が犯人だという内容だ。世間を騒がせるに違いない。

 沖が畳み掛けるように言った。「西城さん。あなたが監督をしなくても、別の誰かがこの映画を撮りますよ。そうなったら、事件の犯人が、あなたではないことを弁明する機会は永遠に失われてしまいます。あなたが、この映画を監督して、世間に対して、自分は無実だと、申し開きをすれば良いじゃありませんか。多少、脚本を変えても良い。どうです?」

「えっ、まあ、それは・・・」

 映画の監督はやりたかった。だが、それはこんな映画ではなかった。むしろ、こんな映画は陽の目を見てもらいたくない。それが俊一の本音だった。だが、こんな映画でなければ、俊一に監督を頼んでくる者などいないのだ。

「しかし、よく取材してありますね」と俊一は話を変えた。

「それは、ここにいる永田君が事件関係者、一人一人、尋ね歩いて話を聞いて、仕上げた脚本だからです。おや、そう言えば西城さん、あなたからも話を聞いたはずですよ」沖の隣で、永田が二、三度、頷いた。

「ああ、そうでしたね。お会いした顔だと思いました。いやあ、事件の後、たくさん取材を受けたものですから、誰に何を話したかなんて、すっかり忘れてしまっていました」

 道理で見た顔な訳だ。一躍、時の人となり、世間の注目を浴び、会う人、会う人に、調子に乗って事件のことを、しゃべり過ぎた。

「それだけ世間が注目している事件だと言うことです。時期を逃すと、話題性が薄れてしまいます。映画製作には時間がかかります。一刻も早く、動き出さないと、他社に出し抜かれてしまいます。それこそ、下手に犯人が捕まろうものなら、こんな凝った脚本で、映画化する意味が無くなってしまいます。時間との戦いなのです。西城さん、いかがです? この映画、監督してもらえませんか?」結局、話を戻されてしまった。だが、沖の言う通りだ。

「脚本を多少、変更しても良いんですよね? やっぱり犯人は夫じゃない方が、面白い。容疑者として名前が挙がるのは構いません。でも、最後に、僕は。いや、夫は犯人じゃないってことにしてもらいたいのです。だって、僕は春禰を殺してなんかいませんから――」

「はは。良いよな? 永田君」沖が永田に尋ねる。

 永田が答える。「そこはご相談と言うことで。こちらとしても、前向きに考えます。ですが、事件の舞台は変えないで頂きたいのです」

「事件の舞台ですか?」

「ええ。呪い谷という村や、そこにある阿房宮というお屋敷のことです」

「ああ、それ。しかし、ひどいな。春禰の故郷は呪い谷なんて、そんな忌々しい名前じゃありませんよ。温泉が沸くので、上湯井かみゆいという名の山間の小さな村です。山を少し下った場所に同じように温泉が沸くところがあって、そちらは下湯井しもゆいという名前だったと思います。朝焼けに染まった赤い雪が降ることはあるみたいですけどね。それに、春禰は漢籍に詳しかったですけど、別荘に阿房宮なんて、そんな悪趣味な名前をつけていませんでした。名無しの普通の別荘です」

「映画となると、普通の別荘だとインパクトがありませんからね。殺人事件が起こるのは、何々館とか、何々屋敷とは、おどろおどろしい名前の方が良い」

「まあ、そうですね。そうだ。僕にひとつアイデアがあります。この事件の犯人が、種市巧たねいちたくみであることに、僕も異論はありません。ですが――」俊一の話を遮って、永田が言った。「あっ、古市卓巳です」

「そうでした。何だか面倒臭いなあ。古市って、種市のことでしょう? モデルとなった人を知っているので、つい間違えてしまいます」

「そうおっしゃるだろうと思って、対比表を準備して来ました」そう言って、永田は脚本を入れてきたバッグから、一枚の紙片を取り出して、テーブルの上に置いた。


 東城秋香=西城春禰

 東城誠一=西城俊一

 飯島典子=飯田勝子

 佐藤晴彦=加藤敦彦かとうあつひこ

 古市卓巳・結子=種市巧・結衣ゆい

 八田正剛・美鈴・楓・甚大=八木正大やぎしょうだい美里みさと紅葉もみじ寛大かんだい

 石田正春=大田正明おおたまさあき

 関口忠明・真奈=関谷忠せきやただし真美まみ

 近田翔子=今田良子いまだりょうこ

 金井明=金田亮かねだあきら

 堀口久典=堀井勝則ほりいかつのり

 飯塚茉莉=赤塚千里あかつかせんり

 西岡工=東田太ひがしだふとし


「ああ、これだと一目瞭然だ」と沖が歓声を上げる。

 俊一も「ふむ、ふむ」と対比表を覗き込むと、「加藤がマネージャーの佐藤な訳ですね。あいつは春禰が引き抜いた大物俳優のマネージャーでした。俳優の引き抜きによって仕事にあぶれたマネージャーまで一緒に春禰は引き取ってやった。

 その後、大物俳優に嫌われ、マネージャーをクビになってからは、春禰は自分のマネージャーとして使ってやっていたんですよ。それなのに、あいつ、春禰を裏切りやがって・・・」

「堀井勝則の使い込みに加担していた件ですか?」永田が舌なめずりをしながら尋ねる。

「そうです。春禰は同級生だった堀井を信頼して経理を任せていたのに、あろうことか事務所の金を使い込んでいた。そうそう、永田さん。あなた、脚本の中で、僕にその辺の事情を語らせていますが、あなたにそんな話をしましたか?」

「いいえ。私があちこちの情報ソースから掴んできた情報です。それを脚色して脚本に盛り込みました。そういった裏話を遺言書の後で、あなたに語らせたのは、舞台劇の形を取っていますから、場所や登場人物をこれ以上、増やしたくなかったからです。だから、あなたの口からまとめて語ってもらうのが良いと思ったのです」

「そうですか。映画化するなら、その辺は僕、いや東城誠一じゃなくて、誰か別の人間にやってもらいたい」俊一の心は既に映画を監督することに傾いているようだ。

「う~ん。となると、会社の事情に詳しい人間をまた増やさなければならない。ただでさえ、登場人物が多いのに・・・考えます」

「お願いします。じゃあ一通り、対比表を確認させてもらいますね・・・芸能界のドン、八木正大が八田正剛な訳ですね。春禰の成功の陰には、芸能界で最大手と言える芸能事務所の社長だった八木正大の力があった。政界にも、裏社会にも繋がりのある、文字通り芸能界のドンでしたからね。八木正大は既に亡くなっていますが、彼と春禰の関係を暴露するのは、どうですかね?」

「だから、名前を変えてあります」

「芸能界には八木と春禰の関係に気がついている人間が、少なからずいます。映画化すれば、『ああ、やっぱりそうだったのか』と分かってしまいます。大騒ぎになりますよ」

「八木先生は芸能界では知らぬ者のいない大物ですが、世間での知名度はそう高くありません。芸能界では、今も八木先生の影響力は絶大ですので、敢えてこのことで騒ぎ立てる芸能人はいないでしょう。大丈夫です。騒ぎになることはないと思います」

「そんなものですか? まあ、分かりました。それから・・・ああ、正明君が正春なのですね。春禰に隠し子がいて、しかも春禰が母親として不適合者であったことを公にすることは、どうなのでしょうね?」

 なかなか細かい。この調子で、俊一は一人ずつ確認して行くつもりのようだ。流石に永田は嫌な顔をして言った。「じゃあ、どうします? 石田正春こと大田正明の存在を消します? そうなると、最初の里親だった関口夫婦、いや関谷夫婦ですか。あの二人も消さなければならなくなります。容疑者が一気に三人も減ってしまいますよ」

「ああ、そうですね・・・それは困るなあ・・・ちょっと僕の方で考えてみますね」

 こちらは俊一が折れた形になった。

「後の登場人物は名前を変えているだけで、背景は変えていません」

「ちょっと待って下さい。確認をさせて下さい」と俊一はしつこい。「妹の今田良子が近田翔子ですね。彼女の雑な性格がよく出ています。そして、春禰の高校時代の教師、金田先生が金井と。セクハラ騒動があったことは知りませんでした。春禰は何も言っていなかったものですから」

「おや、そうですか? 平内比奈ひらうちひなさん、ご存知ですよね? 春禰さんの幼馴染で、高校まで一緒だった方です。脚本では幼馴染として堀井しか登場させていませんが、実際には彼女もいた。しかも、『芸能界では、誰も信用できない』と言っていた春禰さんが、唯一と言っていい信頼していた友人であり、幼馴染だった。私も彼女に会ってみて、明るく、裏表の無い方だと思いました。

 春禰さんはあなたと結婚後、別荘に戻った折に、彼女を呼んで何度か一緒に食事をされたことがあるはずです。平内さんが、そう言っていました」

「平内さん? ああ、確か、そんな人がいましたね」

「彼女から聞いた話ですが、食事の席で、あなたにこっそり教えたことがあると言っていましたよ。春禰さんは、高校時代に漢文の教師からセクハラを受けていたと言う話を――」

「そうでしたっけ・・・すいません。忘れました。そんなことがありましたか?」とぼけているのかと思ったが、本当に俊一は覚えていないようだ。

「彼女が嘘つついていなければ――ですけど」

「しかし、永田さん。綿密に取材されているのですね。驚きました」

「春禰さんの事件が起こった時、『これだ!』って思いましたからね。私にとっても、この脚本は一世一代、千載一遇のチャンスなのです」

 永田の境遇も俊一と同じだ。売れない脚本家なのだ。

 俊一は感じるところがあったのか、「分かりました」と神妙に頷くと言った。「堀井が堀口で、物語のキイパーソンの一人、飯塚茉莉は赤塚千里なのですね?

 赤塚千里の父親は春禰に所属芸能人をごっそり引き抜かれて自殺した赤塚芸能の社長、赤塚学あかつかまなぶです。最愛の父親を殺されたと、赤塚千里が春禰のことを恨んでいました。この事件の黒幕として申し分の無い人物ですが、僕、いや、僕じゃない、東城誠一と愛人関係にあったと言うのは、どうですかね?」

 白々しく、永田が尋ねる。「ダメでしょうか?」

「僕は浮気なんかしていませんよ!」

「映画はあくまでフィクションですから――」

「でも、映画を見た人は、僕が浮気をしたと思います」

 横から沖が永田に助け舟を出した。「この映画は『実話に基づいた話』だなんて謳いません。むしろ、『実在の人物、団体には関係ありません』って、映画の冒頭で告知しても良い。それなら問題ないでしょう」

「いえ、そう言う問題では・・・そうだ。こうしましょう。赤塚じゃなかった、飯塚茉莉が関係を持っていたのは種市・・・ああ、紛らわしい! 古市だった。飯塚茉莉が事件の黒幕で、彼女は古市を誘惑して秋香を殺害させた。これで良いでしょう!」

「まあ、そう焦って結論を出すことはないでしょう」沖が俊一をなだめる。

「夫の誠一が犯人だなんて、ありきたりですよ。飯塚茉莉、古市、二人の犯行だった。僕はこの線で行った方が良いと思います」

 俊一の提案には答えず、「ところで、アイデアって何です?」と沖が尋ねた。話が途中になっていた。俊一はそのことをすっかり忘れていた。

「何でしたっけ?」

「先ほど、何かアイデアがあるとおっしゃっていましたが?」

 俊一は「何だったかな・・・」と暫く考えてから、「ああ、そうだ! 思い出した。脚本では誠一が古市にキーボックスの合鍵を渡したことになっていますが、これを家政婦の飯田、いや脚本では飯島でしたね。彼女に変えてみてはどうかと思うのです。そうすると、合鍵の受け渡しが、よりスムーズになります。飯塚茉莉の浮気相手を古市に変えると、誠一を共犯にする必要がなくなります。秋香の殺害は飯塚茉莉と古市、それに飯島の三人の仕業だった。これでどうでしょうか?」と言った。

 俊一の言葉に、永田がうんざりしたように答える。「なるほど、で、何故、飯島は古市の犯罪に手を貸したのでしょうか? 雇い主の東城秋香がいなくなれば、彼女は仕事にあぶれてしまう。辻褄が合わない」

「それは、永田さん。あなたの方で考えて下さい。古市に買収されたとか――」

「古市は金に困っていました。飯島を買収するような余裕は無かったでしょう」

「じゃあ、脅されていたっていうのはどうです? 飯島は古市に何か弱みを握られていて、脅されていた」

「脅されていた・・・まあ、それなら可能性はありますが、難しいですな。まあ、少し、考えてみましょう」結局、永田が折れた。

「どうせだったら、もう一人、二人、殺した方が良いんじゃありませんか?」

 俊一の言葉に、永田は「えっ!?」と驚いた。

「ああ、いや。言い方が悪かったですね。僕が言いたいのは、連続殺人事件にした方が、派手で、観客は喜ぶんじゃないかと思っただけです」

「いえ、そうなると、実際の事件とは、まるで別物になってしまいます・・・」

「良いじゃないですか。だって、どうせ作り物なのでしょう。実際の事件とは別物だって、さっきおっしゃったじゃないですか! そうだ、古市に東城誠一を殺害させましょう。呪い谷に伝わる、おどろおどろしい伝説に倣って、秋香と誠一が殺害されるのです。どうです?」

「いえ、流石に、それは・・・」

 見かねて、沖が二人の会話に割って入った。「まあ、まあ、西城さん。すっかり乗り気のようですね。こちらとしては、この作品の監督を引き受けて頂けると考えて良いのですね?」

「いえ、それは・・・」俊一の心は揺れていた。この映画の監督を引き受けると、世間から、まともじゃないと思われてしまうだろう。今後のキャリアに傷がついてしまうかもしれない。

 だが、もともと引退状態にあった監督業だ。今後のキャリアがあるのかどうかさえ、はっきりしない。(これを当てて、一躍、スターダムに)と言う気持ちもあった。

 結局、「少し、考えさせて下さい」と俊一は返事をしただけだった。

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