舞台裏

誰が東城秋香を殺したのか?

「もう、良い!十分だ。止めてくれ!」内典弘うちのりひろ永野大陸ながのたいりくに言った。

「おお~い、一旦、ストップだ。みんな、ご苦労さん。三十分、休憩だ。一休みしてくれ」永野が客席から立ち上がって、舞台に向かって叫ぶ。

 内は大事なスポンサーだ。(何か気に障ることでもあったのだろうか?)と演出家の永野は不安になった。

 内は五十代。都内で飲食店を経営している。所謂、居酒屋で、道楽として劇団のスポンサーをやっている。外見は居酒屋の親父と言うより、銀行マンと言った感じで、長方形の顔に胡麻塩頭が乗っている。その要望から、気難しそうな印象を与えるが、実際、気難しいところがあった。

――金を出すが口も出す!

 と言うのが、内のモットーだ。若い頃に役者に憧れたことがあるそうで、しばしば、舞台の演出に口を挟んでくる。所詮は玄人気取りの素人意見なのだが、永野たちのような中小劇団にとっては、スポンサーの意見は天の声に等しい。

 永野大陸は劇団「桃青とうせい」の演出家であり、脚本家でもある。四十代。舞台俳優を目指したが、裏方の面白さに目覚め、脚本を手がける演出家として、名を上げつつある――と言うのが自己アピールの際の常套句だ。

 舞台俳優を目指したところまでは事実だが、大根で役者をクビになった。それでも舞台から離れられずに、脚本家、演出家と肩書きを変えながら、舞台にしがみつき続けている。

 小振りで、綺麗な卵型の顔立ちなのだが、目が小さい。細身で身長も高くない。目立たない風貌だ。もう少し、目鼻立ちがはっきりとしていて、大柄で大きな顔をしていたら、舞台俳優として大成したかもしれない。

「永野さん。あれだ、この事件の犯人は夫の東城誠一でしょう?」

「えっ!」永野は焦った。

 ここは話を合わせておいた方が良いか、正直に結末を伝えた方が良いか迷った。迷った末に「いえ、犯人は別の人物を考えています」と言葉を濁した。

「えっ! そうなのかい。途中までゲネプロを見せて頂いたが、犯人は東城誠一以外にいないような気がしたんだけどね」と内が言う。

 永野は内にゲネプロと呼ばれる本番さながらに行われる通し稽古を見せていた。

 永野が脚本を書き演出を手がける舞台、「呪い谷に降る雪は赤い」の初日公演が迫っていた。内は大事なスポンサーだ。毎度、初日は勿論、公演中に何度も客を連れて観劇してくれる。時間さえ合えば、ゲネプロを見たいと言い出すことなど、しょっちゅうだった。

 永野としては内の頼みを断れなかった。

 だが、劇の内容に口を挟まれるのは願い下げだった。初日公演が迫っている。今更、内容の変更などできる訳がない。今から変更していると、初日に間に合わなくなってしまう。

 それでも控えめに、「誠一が犯人だとすると、当たり前過ぎませんか?」と反論した。

「そこだよ。逆に、これだけ容疑者が多いと、先ず、夫の誠一はないなと、観客が勝手に思い込んでくれるはずだ。そこで、裏をかいて誠一が犯人なのだと思ったんだけどな」

「それで観客が驚いてくれるかどうか・・・しかも、誠一が犯人だとすると、遺言書が書き換えられてから、秋香を殺害したことになります。秋香を殺害するには、時期が悪過ぎます」

「そうかい? それは遺言書が書き換えられていたことを、誠一が知らなかったからだよ。劇中でも、そう伏線を張ってあったじゃないか」

「いえ、あれは伏線ですので、実は、誠一は遺言書の内容を知っていて、驚いたふりをしただけです」

「どうやって遺言書の中味を知ったんだ?」

「秋香本人から聞いた・・・のだと思います」

「思いますって、君。自分で書いた脚本だろう? それは変だなぁ~何故、秋香はわざわざ誠一に相続する財産を減らしたことを伝えたんだ?」

「そ、それは・・・」永野が言葉に詰まる。

「だろう? 誠一は遺言書が書き換えられたことを知らなかったんだ。秋香を殺害すれば、莫大な遺産を手に入れることが出来ると思い込んでいた」

「では、何故、誠一は今になって秋香を殺害したのでしょうか? もっと早く、遺言書が書き換えられる前に殺害しておけば良かったはずです」永野はどうしても脚本を書き換えたくない。内を説得しようと必死だった。

「それは・・・昨年、遺言が書き換えられた時に、何かがあったんだ。秋香の気が変わるようなことが・・・やっぱり浮気だろうね。確か、秋香の方が年上だよね。誠一は秋香を裏切って、若い女と浮気をした。それが秋香にバレて、遺言書が書き換えられた。どうだい? 僕の推理は?なかなかのもんだろう?」

「はあ、まあ・・・」

(まずい。このままだと、脚本の書き換えを要求される!)と永野は焦った。

「早く秋香を殺してしまわないと、離婚されて、家から追い出されてしまう。そうなる前に秋香を殺したんだ。浮気相手はそうだねえ~飯塚茉莉が良いな」

「飯塚茉莉ですか!?」

 このままだと物語の結末が大幅に書き換えられることになる。

「そうだよ。飯塚茉莉を演じていた女優さん。なかなか魅力的な子じゃないか。彼女がこの事件の黒幕なのだ。おっ! 我ながら冴えてるねえ~彼女は父親を秋香に殺されたようなものだ。秋香を恨んでいた。亡き父親に秋香への復讐を誓っていたんだ。だから、彼女から誠一に近づいた。あの美貌だ。誠一を色仕掛けでたぶらかして、秋香を殺害させた――どうだ? 面白いだろう。だから彼女には鉄壁のアリバがある。真犯人は彼女だ。それなら、観客も驚いてくれるだろう」

「と言われましても・・・」永野は公演初日から逆算して、何時までに脚本を書き直さなければならないか、頭の中で計算し始めた。

(今晩中だ。徹夜してでも、今晩中に書き直さないと、初日に間に合わない)絶望が永野の頭を過ぎった。

「でも、まあ、永野君。今からストーリーを変更していると、舞台の初日に間に合わないよな?」内がストーリーという英単語を妙に気取って発音しながら言った。

(助かった。内さんも俳優を目指していただけあって、分かってくれている)と永野は胸を撫で下ろした。

「はい。今からだと、ちょっと間に合いそうにありません」

「それで、君は一体、誰を犯人にするつもりだったのかい?」内が尋ねる。

「それは、この先を観てもらえば、分かります。もう、後・・・」永野が携帯を取り出して、時間を確かめながら答えた。「十分もすれば休憩が終わります。続きを演じてもらいましょう」

「まだ十分、あるじゃないですか。教えてくれよ。一体、誰が犯人なのだい?」

「そうですか・・・」永野は迷ったが、内の言葉は天の声だ。どのみち、抗えない。「実は、古市卓巳が犯人なのです」と答えた。

「古市卓巳!? ああ、なるほど、確か、分かり易い伏線が張ってあったな。彼が使っているショルダーバッグの肩紐が、秋香絞殺に使われた凶器である――みたいな」

「よくご覧になっていますね」

「なるほど、なるほど。で、動機は何なの? 何故、彼は秋香を殺害したんだい?」

「それは、奥さんを秋香に殺されたからです。八田との関係をバラすと脅してきた古市の妻を秋香が殺した。それが秋香殺害の動機です」

「秋香は八田との関係が表に出ることを恐れていなかったのではなかったかな?」

「いえ、古市の妻が秋香のもとを訪れた時、八田はまだ健在でした。秋香は八田に迷惑をかけたくなくて、古市の妻を殺害した」

「そして、遺体を裏山に埋めた――という訳だな?」

「そうです。流石、内さん。ご理解が早い」と永野は内を持ち上げた。

 脚本の書き直しは、何としても避けたい。

「奥さんが失踪したのは・・・確か二年前、その頃には八田はもう亡くなっていたんじゃなかったかな? その時には、古市の妻が持ってたネタは、もう意味を成さなくなっていた。殺す必要は無かったんじゃないか?」

「そ、そうでしたっけ・・・?」痛いところを突かれた。もう一度、時系列を整理し直さなければならない。

「大体、古市の妻が失踪してから、二年、経っている。何故、今になって古市は秋香を殺害したんだい?」

「それは・・・秋香が妻を殺害した証拠を、古市が掴んだからでしょう」

「――からでしょう? 君が脚本を書いたんだよね? 古市は一体、どんな証拠を掴んだと言うんだい? 裏山から奥さんの遺体でも出てくれば、秋香の犯行を裏付ける決定的な証拠になるかもしれんがね。どうだい?」

「ああ、良いですね。それ、そのアイデアで、行きましょう」

「君、いい加減な。では、古市はどうやって奥さんの遺体を発見したんだい?」

「そうですねえ・・・がけ崩れでもあって、埋めていた遺体が出て来たというのはどうです?」

「立ち入り禁止の山だよ。がけ崩れがあったとしても、誰が遺体を発見したんだい?」

「それは古市自信です。彼は奥さんの遺体を捜して、山を歩き回っていましたから」

「おや、それを否定する証言があったと思うよ」

「じゃあ、その証言を削除しましょう」

 古市が犯人だとしても、脚本の書き直しは避けられないようだ。

「君、いい加減な」と再び繰り返した後で、内が言った。「奥さんの遺体を発見したのなら、警察に届け出れば良かったのに――」

「それは、自分の手で秋香に復讐したかったからです」

「それじゃあ、百歩譲って、古市が犯人だとして、あの夜、彼はどうやって秋香を殺害したんだい?」

「こっそり旅館を抜け出して、屋敷に向かったのです。夜の十時頃です」

「彼は車を持っていたんだっけ?」

「ああ、車を持っていたことにしましょう。それをどこかに書き加えておきます」

 口には出さないが、内がまた(いい加減な)と思っていることは明らかだった。「それで、屋敷に行って、ショルダーバッグの肩紐で秋香を絞め殺した。となると、当然、古市が尋ねていった時、秋香は起きて来て、彼を屋敷に招きいれたことになるな」

「ええ、そうです。そして、秋香を絞殺した。後は遺体を寝室のベッドに寝かせて、鍵をかけただけです」

「簡単に言うけどね。君、寝室は密室になっていたんだよ。どうやって鍵をかけたんだ?」

「合鍵を使ったのです」

「ああ、確か、劇中でも刑事がそんなことを言っていたな。古市は、一体、どうやって合鍵を手に入れたんだ?」

「家政婦を買収したのです」

「金に困っていた古市が家政婦を買収? ちょっと無理があるんじゃないか?」

「東城誠一にもらった――というのは如何ですか? 彼なら何時でも鍵の型を取ることができた。予め鍵の型を取って、合鍵を作っておいたのです」

「何故、誠一が古市に合鍵を渡す必要があるんだ? それに、合鍵を使うのなら、密室にする必要はなかったと思うぞ。合鍵を使って密室にしたことを観客が知れば、きっとがっかりする」

「そ、そうですか!? じゃあ、密室は止めましょうか? なんとなく、密室にした方が、話が面白くなると思ったものですから――」

「君ねえ・・・」内は呆れて言葉が出ないようだ。

 内は気難しいとことがある反面、比較的、気が長い方だ。呆れてはいるが、まだ怒ってはいない。だが、それも何時まで続くか分からない。

「すいません。本格的なミステリーを書いたつもりは無くて、その、どろどろとした人間関係を描いた舞台にしたかっただけですから――」

「それは良いけど、最近のお客さんは目が肥えているからね。ミステリー仕立てなのだから、もう少し、辻褄を合わせておかないとね。いくら、場末の劇団でも、客が入らないよ」

「すいません」と永野が萎れると、内が、「いや、まあ、そう悲観することはない。名探偵役の毒舌刑事は悪くなかった。いや、だが、口の悪い名探偵なんて、珍しくないかもな」

「いえ、実は名探偵なのは助手の方なのです。相棒の若手の刑事、茂木がこの物語の本当の名探偵なのです。その辺は続きを見て頂ければ、分かります」

「ああ、なるほど、なるほど。助手の方が名探偵か。それは新しいかもしれないね。悪くないと思うよ。そうだ。ところで、謎の脅迫者は一体、誰なのだい?事件と関係があるの?」

「ああ、それは古市が疑いを逸らす為に、出したものです」

「そうかい。じゃあ、犯人が東城誠一だとすると、誠一が出したものになる訳だ」

「いえ、まあ、犯人を東城誠一とするなら、そうかもしれませんが・・・」

 永野が困惑する様子を見て、「分かるよ。今更、脚本を書きなおせるかっ――て思っているんだろう?」と内がズバリと永野の胸中を言い当てた。

「いえ、そんな・・・」と誤魔化したが、出来れば脚本が書き直したくない。

「ただね。やっぱり、やるからには観客に満足してもらえるものにしたいと思わないかい? そこで、どうだい? 二人で、なるべく、脚本を書きなおさないで、観客が満足できる結末を考えてみようじゃないか」

「は、はい」永野が頷く。

 どうやら脚本の書き直しは避けられないようだ。であれば、確かに変更は少ない方が良い。この辺が妥協点だろう。

「古市が犯人だとすると、どうしても密室が邪魔になるな。密室を止めても良いけど、密室殺人事件は、それだけで観客の興味を引く。密室を止めると、観客の興味が薄れるだろうし、脚本の書き直しも多くなってしまう」内が独り言のように呟く。

「そうですね」

「東城誠一が犯人なら、その辺は簡単なのだが、君が言うように、旦那が犯人と言うのは、ありきたりかもしれないな・・・おっ、ひらめいたぞ!」内が目を輝かせる。

 恐々と永野が尋ねる「どうしましょう?」

「東城誠一が共犯と言うのはどうだ? 古市が秋香を殺害するのに、誠一が手を貸していた。二人は共犯だったのだ。どうだい、良いアイデアだろう?これなら密室を止めなくて良いし、観客も驚いてくれるんじゃないかな?」

「誠一が共犯・・・古市が犯人なのは変わらない・・・それなら、最後の謎解きの場面で、刑事の台詞を少し書き直すだけで行けるかもしれません!」

「うん。我ながら良いアイデアだ。東城誠一が共犯だった。彼は飯塚茉莉との不倫の事実を秋香に捕まれ離婚の危機にあった。不倫の上、離婚となると、慰謝料を払うべき立場になるから、主夫の誠一は裸同然で放り出されることになる。その前に秋香を殺害したかった」

「古市は裏山のがけ崩れ現場から、偶然、白骨遺体を発見する。妻の遺体だと確認した古市は東城屋敷に乗り込む。だけど、秋香の姿はなく、誠一しかいなかった。古市から秋香の過去の忌まわしい犯行を聞いた誠一は古市に復讐を持ちかける――という訳ですね」

「おおっ! 永野君。冴えているじゃないか。誠一が買収したと言うのはどうだ? 妻の復讐をけしかけた上に、古市が秋香を殺害することができたら、彼が相続する遺産から分け前を与えると約束したんだ。どうだ? 誠一は遺言が書き換えられたことを知らなかった。秋香が死ねば莫大な遺産が転がり込んで来ると思っていた」

「ああ、良いですねえ。それ頂きます。金に困っていた古市は一も二もなく、秋香の殺害に同意した。誠一は自分の手を汚さずに、目的を達することができた訳だ。――ですね?」嫌々だった永野が乗ってきた。

「おいおい。君が言った通り、本当の黒幕は飯塚茉莉だ。彼女は鉄壁のアリバイに守られ、誠一を操り、秋香を殺害させた。そこのところ、頼むよ。そして、誠一は金のほかに寝室の鍵を古市に渡した。永野君、これで行こうよ」

「待って下さい。僕もひとつ、良いアイデアを思いついちゃいました」

 内が満面の笑顔を尋ねる。「おおっ! 何だね、永野君。君のアイデアと言うのを、是非、聞かせてくれ」

「誠一が寝室の合鍵を古市に渡した――と言うだけでは、観客は(な~んだ)と思うだけかもしれません。もう、ひとひねりした方が面白いと思います」

「そうだね。で、具体的にどうやる?」

「誠一が作ったのは寝室の合鍵じゃなくて、キーボックスの合鍵だったと言うのはどうでしょう。家政婦に言って、秋香の寝室の合鍵をキーボックスから取り出してもらうより、キーボックスの鍵を借りて型を取った方が早い。合鍵を借りると、それだけで、家政婦の記憶に残ってしまいます。ですが、キーボックスの鍵なら、借りる口実は何でも良い。どこの部屋でも良い訳ですから、鍵を開けたいと言って、家政婦からキーボックスの鍵を借りることが出来たはずです」

「うう~ん。良いね。その調子だよ。密室の謎解きがひとひねりしてあって、観客も喜ぶだろう。良いね。それで行こう。ぐっと良くなった。後は、古市が妻の白骨遺体を発見したことを、どうやって観客に伝えるかだな」

「謎解きの場面で古市に語らせれば良いのではありませんか?」

「まあ、それでも良いけど、ミステリーは謎解きまでに全てのヒントを事前に開示しておくことが大事だ。そうでないと、アンフェアだと観客に思われてしまうぞ」

「そんなものですか。それは困ったなあ・・・山で白骨を発見するシーンを追加するとなると、新たにセットを組まなければなりません。時間的にとても間に合わない・・・」

「予算的に苦しいな。それに、そんな場面を追加したら、古市が犯人だと言っているようなものだ。もっとさり気なく、匂わせることが出来ないだろうか? う~ん。難しいな」

「白骨がないとダメですかね?」

「それはそうだろう。古市が秋香を殺す理由がない。奥さんが失踪して二年も経ってから、いきなり秋香を殺したなんて、ちょっと無理がある」

「そうですか・・・」と二人、考え込む。

 休憩時間が終わり、役者が舞台に戻り始めていたが、二人はお構いなしだ。脚本が固まらないと、ゲネプロをやっても意味がない。

 会場でさわさわとひそひそ声が流れる中、「そうだ!」と永野が何か思いついた。

「おっ! 永野君。何か思いついたようだね!?」

「はい。こういうのはどうでしょう? 刑事から事情聴取を受けた場面で、古市に語らせるのです。それも、はっきりと白骨遺体を見つけたとは言わさずに、そうですねえ、例えば――去年の夏は雨が多かったでしょう。この辺りも相当、降ったようです。もしかしたら妙仏山の一部でがけ崩れがあったかもしれません。そしたら、万に一つの可能性かもしれませんが、がけ崩れの現場から白骨遺体の一部が見つかることが、あるかもしれません。

――と言うような思わせぶりな台詞を言わせてみては如何でしょうか?」

「おっ! 良いじゃないか。白骨遺体の一部を見つけたことを匂わせておく訳だな。確か、誠一は秋香殺害の前に、秋香を迎える準備をする為に、暫く屋敷にいたはずだ。実は秋香殺害を計画していた。そこに白骨遺体の一部を見つけた古市が乗り込んで来る。二人は意気投合して、秋香の殺害計画を練り上げた。うん。良いんじゃないか」

「誠一と古市の二人の実行犯が逮捕された後、舞台は暗転し、スポットライトの中に、黒幕の飯塚茉莉が現れる。見事、父親の復讐を果たした彼女の高笑いで舞台は幕を降ろす――と言う終わり方にしましょう」乗ってきた。次々とアイデアが浮かんでくる。

「それだ! それで行こう。今から、間に合うかい?」

「間に合わせてみせますよ」

「期待しているぞ!」と言うと、内は客席から腰を上げた。

「えっ!? 続きはご覧にならないのですか?」

「見ても仕方がないだろう。大丈夫、初日には必ず顔を出す」

「分かりました」

 忙しくなる。家に戻って脚本を書き直している暇はない。今からこの場で脚本を書き直して、ゲネプロをやり直さなければならない。それまで、役者陣には待機してもらうことになる。ゲネプロは夜中まで続くだろう。

 永野は内の後姿を見送ると、舞台に戻って所在なげにうろうろしている役者たちに向かって、歩いて行った。

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