第1話 同居初日の社内風景
「
七月下旬、某日。
所属する総務課の一角で俺は自身の居住地届けの変更処理をしていた。
既に主要な荷物は新居へ運びこんである。
と言っても衣類の他に持って行ったのは折り畳み式の簡易ベッドとデスクトップパソコン一式(デスクとチェア含む)だけ。
何か必要なものがあれば都度取りに帰ればいいし、家電一式は
まあなんにせよ。
今日の仕事終わりを
「ねえ。どこに引っ越したの? もしかして会社の近く?」
コロ付き椅子に腰かけ俺の手元書類を覗き込んでくるのは
3個上の先輩。
そして俺のメンターでもある彼女はその
覗き込まれた拍子になんとも言えぬ良い香りが鼻先を掠め、ちらと横目に見遣るとそこにはスラっと鼻筋の通った涼しげな美人顔が。
興味深げに目を
ナチュラルっぽく見えるもののしっかりとメイクはされていて、それが逆に大人っぽさを漂わせまた良い。
「最寄り駅は同じですよ。駅の近くに引っ越したんです」
彼女に住所メモを手渡すと処理を進める。
要らなくなった駐輪場の費用は交通費から差し引いて、と。
総務課だから自分で処理できるのはメリットだ。
もし自宅に戻ってもまた戻せばいいだけだし。
と、隣で
どうやら住所から検索を掛けたらしい。
「
「はい。そうですよ」
「そうですよって。どうして? え。もしかして……。結婚? 結婚するの?!」
「はっ?! って、そんなわけないじゃないですかっ。ちょっと訳あって高校で部活が同じだった奴と同居することになっただけです」
あたふたと弁明をすると、
「あぁ、そういうこと。びっくりするじゃない」
ほら見ろ。びっくりされたじゃないか。
「
そう言うと
どうやら彼女の中で野球部イコール肩が堅いというイメージがあるらしい。
同棲じゃないとはいえ、女性と同居するなんて言ったらまた面倒な展開になるんだろうなぁ。
ここは黙っておくのが吉か。
そう思い「はい」とだけ答えたのだけど。
次の瞬間には、なぜか
「ね、今度遊びに行ってもいい?」
耳元で囁かれ、
「は?? だ、駄目ですよっ。急に何言い出すんですか?!」
と慌てふためいていると救いの神が現れる。
「姫野さーん。
課長が昼食から戻ってきたらしい。
奥さん第一で有名な課長は背が低いのとその柔らかな雰囲気も相まり、社内からマスコット的な人気を誇っている。
すると一方の
「そうなの?
「まあ……はい。そうです、ね」
いい匂いがするし。脳がやられそうだし。もっとやって欲しいし。
「そっかごめん。難しいな。メンター」
え。今のがメンター?
逆にメンタルブレイクさせるのが目的かと思ってました。
「姫野さんと
「いいんですか課長? やった。行こ、
「でも。課長が一人になっちゃいますよ」
本来総務課には4人いるが、今日は病欠で1人休みだ。
結局その後、課長の優しい笑顔に送り出されることに。申し訳無さ半分、俺もお言葉に甘えさせてもらうことにした。
場所は変わり、近くの蕎麦屋。
つるっとしたのどごし。
噛めば噛むほど口いっぱいに広がる香りと風味。
控えめに言って最高だ。
「さっきはごめんね。
良かった。からかってる自覚はあったんだな。
「で? どんな子なの?」
正面に座る
その拍子で強調されたボリューム感のある胸に嫌が奥にも視線が引き寄せられてしまう。
大きさだけなら
でも健康わがままボディの
って、見てると思われたらマズいな。
同時に気恥ずかしくもあった俺はフイと目を逸らした。
「あとこうやって反応が
そう言うとクスっと笑う
ほんと、余裕のある歳上女性はこれだから困る。
もっとやって欲しいものだ。
それはともかくとして。
同居人が女性だってこと。まだ言わない方がいいよな。
別にバレて困ることも無い。
けど敢えて言うことでもない気がするし。
まあさすがに
とはいえ今後の人生においてそういう展開が絶対に無いとも言い切れないわけで。
そうだな。
この件はまた
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