第4話 美術館
(トントン ドアをノックする音)
「おはようーっ!」
「ケン君ーっ?」
「ケン君、寝てるー?」
(ガチャ ドアを開ける音)
「あ、今日は早いね。おはよう」
「ケン君、寝ぐせ立ってるよ?」
「え? わざと? 無造作ヘア? 無造作ヘアの人に怒られちゃうよー」
「ほら、鏡見て」
「ね? ヘアワックスかけな~」
「よし、いい男」
「バッグとか準備OK?」
「それじゃ、しゅっぱ~つ!」
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(美術館に到着)
「とぉ~ちゃ~く(笑)」
「なんで美術館なのって?」
「Masakoさんの展示があるからだよ」
「知らない?」
「Masakoさんはアーティストだからどこかで見聞きしてるはずだよ」
「あ、美術館内は静かにね」
「分かってる? ご、ごめんね」
(美術館 入館)
「回るような感じで進むよ」
「ほぼ一方通行だから大丈夫だよ」
「あ、ほら名言ポスターが貼ってある」
「『恋愛は限りなく自由』 化粧品のテレビCMに採用されてたんだけど、どう? 覚えてる?」
「やっぱり、名言だもんね」
「Masakoさんの美しい顔で発する言葉には迫力があるんだよなあ」
「『恋に泣く』 実写映画なんだけど観た?」
「観てない?」
「そっかぁ、残念」
「このMasakoさんの展示は名言が多いと思うから、一週したら人生一週分かも(笑)」
「え? 名言? ありがとっ(笑)」
「『マイノリティの春』 これは物議を醸した作品。批判が高まって結局公開停止になっちゃった。今だから展示できる作品だよ」
「あ、こっちは『再婚』 これ、これだよ。これが見たかったんだ。ケン君、知ってる?」
「そうかぁ、知らないかぁ」
「なんとなくこの映画の内容が私たちの境遇に似ていて、共感できるところが多いよ。ケン君も観てみてよ」
「あんまりヒットはしなかったけど、ファンの間では名作と称えられてる」
「あ、ここからは裸の女性の写真があるね。Masakoさんは人間の裸をARTとして捉えていたみたい。人の体そのものが個性的なARTだと」
「ケン君、興奮しないでね(苦笑)」
「え? 大丈夫? それはよかった(苦笑)」
「それで、Masakoさんの小説や関連本がここ。『愛』、『素顔』、『花束』など代表的なものがたくさんあるよ」
「中でも私は映画化された小説『再婚』がやっぱり、好き」
「表紙もさ、好きなんだ。Masakoさんの抽象的な絵がいいよね」
「ケン君、気になるのあった?」
「え? 『再婚』? ああやっぱり。ケン君もぜひ」
「次は、名言コーナーだね」
「『恋愛は限りなく自由』の他に、『愛することは平和を愛すること』、『全ての人間は愛されるべき生き物』、『小さな愛の積み重ねが世界を豊かにする』とか。名言がいっぱいあるよ」
「ケン君はどれが好き?」
「え? これ?」
「『私には姉が全てだった』?」
「意外だね」
「ちょっと危なっかしい言葉だけど。そうなんだ、ケン君これがいいんだ」
「Masakoさんの人生が凝縮された展示。私たちの人生に参考になる部分が少なからずあると思う」
「だから、もし、私たち家族じゃなくなっても姉弟でいられたらいいね」
「あ、そうだね。考え過ぎだね。まだ、先のこと。分からないよね、未来なんて」
「私、親が再婚して嬉しかったんだ。お母さんができたこともそうだけど、弟ができてほんと、嬉しかった」
「妹でもよかったんだけどね(笑)」
「姉弟が欲しかったからね。実際にケン君が弟になって、血は繋がってはいないけど、やっぱり嬉しかったんだ」
「一緒に小学校通えたし、運動会も楽しかった。運動会の日、ケン君とお昼食べられて嬉しかったよ。一人は寂しいからね」
「思い出がいっぱいできた。つらいこともあったけど、楽しい思い出がいっぱいできた。それはたぶんケン君が居てくれたから。だからこそ私は今生きていられるんだと思う」
「これは何かの縁だと思うの。だから私、これからも……」
「あ、ほら、そろそろ終わりだよ。どうだった、ケン君?」
「よかった?」
「一緒に来れてよかった?」
「ありがとう。私も」
「あれ、見える? Masakoさんの最後の名言。『楽しいことだけ考えよう』。どう? 息を引き取る数日前の言葉なんだって」
「今はさ、死ぬわけじゃないけど、私も楽しいことだけ考えようって。ケン君と一緒に居ようって」
「それはさ、大切な姉弟だから……」
「今日はありがとう」
「ケン君と居ると癒やしになるよ」
「え? ケン君も?」
「ありがと。優しいね、ケン君」
(美術館 退館)
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