第2話 湖



(トントン ドアをノックする音)


「おはようーっ」


「ケン君? ケン君ー?」


「いないのー?」


(トントン ドアをノックする音)


「寝てるのー?」


(ガチャ ドアが開く音)


「あ、おはようケン君」


「はい。おはようございます。良くできました」


「今日は地元の湖に行こ?」


「準備OK?」


「よーし、それじゃあ出発!」



//////



「よーし着いたー」


「どう? 大きな湖を見た感想は」


「特にって 全く困りますなあ」


「あのさ、ケン君 アヒルさんボートに乗らない? 私一度乗ってみたかったんだー」


「え? 怖い?」


「いやいや落ちないよ たぶんね(苦笑)」


「まあ、確かに落ちたらレスキュー要請だけど……」


「ケン君って泳げない?」


「あーそぉなんだ。まあ、私も泳げないけどね」


「でもまあ落ちないでしょ 乗ろうよ、ね?」


「よし、じゃレッツゴー」



//////



(きーこきーこ アヒルさんボートの音)


「水面、近いね 触れるよ、ほら」


「ケン君、怖くない?」


「こ、怖いよねー 私も怖い。けど、なんか楽しいからいいや」


「あ、鳥だ」


「なんか近寄ってきたよ、ケン君」


「わー ケン君、鳥さんにモテモテ」


「エサとかあげていいのかな」


「え、ダメなの? ああそぉか、いろいろ問題あるもんね」


「あれ、鳥さん潜ったよ」


「エサ、確保してるのかな」


「あ、出てきた出てきた」


「バイバーイ、鳥さんっ!」


「ケン君、向こうのさ、噴水あるでしょ? 近くに行ってみようよ」


「溺れるなよ?」


「ん?」


「俺に溺れるなよ?」


「冗談?(笑)」


「元気出てきたね、ケン君」


(きーこきーこ アヒルさんボートの音)


「写真撮ろ?」


「ほーら、ピースして」


(カシャッ カメラの音)


「撮れた。アルバムにまた追加しとこ(嬉)」


「ケン君は写真はいいの? ここ、映えじゃない?」


「噴水だけ? まあそれもいいけど……」


(カシャッ カメラの音)


「どう? 撮れた?」


「おおー 凄いじゃん! プロが撮ったような写真だよ」


(ケンタ 恥ずかしがる)


(きーこきーこ アヒルさんボートの音)


「あれ、魚?」


「なんか魚いるよ?」


「さっきの鳥さん、魚を狙ってたのかな」


「違う? まあ、大きいもんね」


「そう言えばケン君、魚食べられるようになった?」


「え? 無理? そっかぁ。かく言う私も魚、ダメなんだよねー」


「小さい頃、ケン君が喉に魚の骨を詰まらせちゃった時は大変だったなー」


「ご飯を飲み込んでも「痛い痛い」って 結局、夜間診療で診てもらって」


「あれからだよね、魚がダメになったの」


「え? 私? 実は私も魚の骨が喉に刺さったことがあってさ、それ以来ダメになっちゃった」


「栄養があって食べた方がいいんだけどね」


「肉ばかりでは飽きちゃうし」


「まあ、忘れた頃にお魚食べよ(笑)」


(きーこきーこ アヒルさんボートの音)


(きーこきーこきーこきーこ…… 湖、一週)


「いやー なんか疲れたね」


「あそこにカフェあるよ 行ってみよ?」



//////



(カランコロン )


「あ、二名です」


(席に座りメニューを見る)


「ケン君、何を頼む?」


「バニラアイスクリームの黒みつかけ? 美味しそうだね、それ。私も同じのにしよ」


「コーヒーはいいの?」


「あ、ケン君ってコーヒー飲めないんだ。いつも飲んでるイメージあるんだけどなあ。私はアイスコーヒーを一杯お願いしよ」


………………

…………

……


(バニラアイスクリームの黒みつかけ×2とアイスコーヒーが届く)


「何これ美味しいっ! 最高じゃんっ!」


「ケン君、どう? ケン君も感想聞かせて」


「『美味しい』って、普通に良い感想だね(苦笑)」


「この甘甘あまあまな味、トリコになるわあ」


「苦めのコーヒーが癖になるぅ」


「満足満足」


「ケン君も満足?」


「そう。よかったよかった」


「お会計は私が済ますわ」


「え? ケン君が払ってくれるの?」


「ほんとにいいの?」


「ありがと(嬉)」


「またよろしくね(笑)」


(カランコロン )



//////



(湖前の広場)


出店でみせがあるよ、なにかのイベントかなぁ」


「あ、カラオケ大会じゃん」


「ケン君、歌上手いよね 挑戦してみたら?」


「え? 嫌なの?」


「人前が嫌? そっかぁ、残念」


「じゃ、出場選手のカラオケを見物しましょ」


「『君が好き』だよっ ケン君の得意な曲っ」


「上手いね、あの人」


「ケン君の方が上手? じゃ聞かせてもらおうかな、ケン君の歌声」


「ん? ここでじゃないの?」


「ああ、カラオケ店でってこと?」


「久しぶりにカラオケもいいね。お姉さんも歌っちゃうよ~(笑)」



//////



「わー なんかハイテクだね。数年間カラオケに行ってないから新鮮過ぎるー」


「あ、そうだよね、ケン君も久しぶりだよね」


「それじゃトップバッターのケン君、よろしくお願いします(楽しい)」


(『君が好き』のイントロ、そして熱唱)


「上手いっ! 上手いよケン君っ! 全然劣化してないっ!」


「いや、もっと自信を持っていいんだよ」


「プロ並みだよ オーディション受けてみたら」


「無理? ああ、人前が苦手なんだね」


「でも今は顔を出さないアーティストもいるから、いけるんじゃない?」


「それでも、 そっかぁ。残念」


「え? 私?」


「私はね『star』を歌いますっ!(笑)」


(『star』のイントロ、そして熱唱)


「どう?」


「上手い? ありがと(笑) でも、ケン君さまには敵いません(笑)」


「久々だけど声が安定してた。劣化してなくてよかったよ、私(苦笑)」


「ちなみに『star』は『君が好き』への返歌だからね」


「え? 知ってる?」


「じゃ、私が『star』を選んだ理由は……?」


「分からない? もうっ 肝心なとこでしょうよ、そこ」


(続いて二人、それぞれ熱唱)


「まあ、楽しめたしいいか。ケン君も楽しめた?」


「そう、よかった」


「こういうことの一つひとつが大事だよね」


「ううん、なんでもない」


(プルル プルル カラオケ店員からの利用時間終了の連絡)


「さ、帰ろうか」



//////



「すっかり日が暮れたね」


「星が輝いてるよ」


「ん? 『star』?」


「そう。『star』は『君が好き』への返歌。もちろん、ケン君への……」


「なーんちゃって(苦笑)」


「でも、でもね。こんなに星が輝く夜は、少し酔ってもいいんじゃないかなって……」


「……」


(二人、沈黙の夜を歩く)


「ケン君、また遊びに行くよ」


「次は夜更かししないでね(苦笑)」


「じゃ、またねーっ!」






「ケン君が引きこもった理由は分からないけど、ケン君なら大丈夫。きっとまた心の底から笑えるよ……」


「親の再婚で家族になった私たち。血は繋がってはいない。ケン君のことは関係無いと言えば関係無い。でも、私たちはきっとかけがえのないなんだと思う……」


「でもまた離婚の危機だなんて。親の都合に振り回されるなんて。ちょっと嫌だな……」


「ああ、なんて星が綺麗なんだろう……。少し泣きたい……」


(『star』の鼻歌 星が輝く帰り道)



//////



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