第7話 ワタシワタシ、メリーさん詐欺に気を付けよう (前編)
こっくりさんの騒動の翌日、私たちはまたいつもの日常に戻っていた。覚は台所で昼食の準備、私は部屋で読書、ただ座敷童だけは少し違う様子だ。いつもなら座敷でテレビを見たりゲームをしたりしているところだが、今日はスマホを片手に難しい顔をしている。奇妙な着信音を奏でるスマホ、顔をしかめる座敷童、どうやら電話がかかってきたようなのだが非通知のようで出るかどうか、迷っているようだ。
「うーん…誰だろう、これ。たいしょーがついにスマホを買ったのかな。いやそんな話聞いてないし……ま、出てみればわかるか」
座敷童は悩んだ末その電話に出てみることにした。
「はい、もしもしわらしです」
座敷童が電話に出ると、相手は妙に高いテンションで話しかけてきた。
「あ、わらしちゃん?ワタシワタシ!」
「えっ…誰?」
「ひどいなー私だよ。ほら、寺子屋で一緒だったメリーさん」
(ん?寺子屋で一緒だった…?確かに昔寺子屋に住み着いてたこともあった気がするけど、そんなに仲良かった人いたっけ…とはいえ本当に昔のことだから忘れてるだけかも…?)
若干疑問に思う座敷童であったが、昔の友達であることを信じているようだ。
「あ、ああー!メリーさんね、はいはい。もちろん覚えてるよー…」
「よかったー!私わらしちゃんに忘れられてるんじゃないかってひやひやしたんだよ?ところでさー今隣町の駅にいるんだけどお金がなくて切符が買えないから暴走しちゃいそうなんだよねー…あーどこかに大金が無いかなー大金があったら切符も買えるし金銭欲求も満たせて暴走止まりそうなんだけどなー」
…どう考えても胡散臭い内容である。切符が買えないから暴走しそうなどさすがに無理がある話だ。それに金銭欲求を満たす必要があると言い必要以上の大金を用意するという明らかに詐欺まがいのことだ。…おい座敷童、騙されるなよ?いいな?…まあさすがに大丈夫だとは思……
「ええー!?そうなの!?大変!すぐにそっちに送金するね!」
ああ、こいつ、馬鹿だった。
「ありがとー!この恩は一生忘れないよー!」
「いいって!私も妖魔解放戦線の一員なんだもん!未然に防ぐのが賢い人なんだよ。」
…この小娘、詐欺に引っかかっておきながら「やってやったぜ」といった顔をしている。
「それで?どこに何円振り込めばいいのかな?」
「poypoyでいいよ?大体一万円くらいかな」
「いっ、一万!?…うーん…これで妖魔がひとり救えるなら…安いものだよね!?」
その後、結局座敷童はメリーさんに一万円を支払ってしまった。しかしこれだけで終わらないのが今回の事件である。なんとこのあと複数回にわたってメリーさんから座敷童に電話がかかってきたのだ。そしてその度に金額はどんどん上がっていき…その全ての要求をのんだ座敷童は最終的に合計十万円分のpoypoy残高を支払うことになってしまった。これには一時的に金庫に保管してあった解放戦線の経費も含まれている。一体どこで金庫の暗証番号を知ったのかは不明だが。
そしてまだまだ終わらない。なんとこのメリーさんという女、封天寺の場所や間取りなどを巧みな話術で聞きだしてきたのである。よく考えてみると電話をかけてくる度徐々に封天寺に近づいてきているような気がする。そして数十分後、ついにことは起きた。再び一本の電話がかかる。
「もしもし、私メリーさん。今森の中にいるの。あなたにお礼がしたいから結界に入る権利をくれない?」
「うん、わかった。いいよ!」
座敷童はすでに洗脳されていた。そして認証装置を作動させに行った所を、たまたま通りかかった覚に見つかった。
「あれ?わらしちゃん、どこへ行くんですか?」
「あ、覚さん。わらしね、暴走しそうになってた妖魔を一人助けたんだよ?それでね、わらしにお礼がしたいから結界に入る権利をくれって言うの。」
「そうでしたか。えらいですね!…ん?待ってください。わらしちゃんあなた、いつどこで、どうやってそんな妖魔を助けたんですか?今日はあなたが外に行く様子を見ていませんが…」
「うん、実はね!」
座敷童はこれまでのことをすべて覚に話した。最初こそ穏やかな表情で聞いていた覚だったが、次第に表情が曇っていき、ついに廊下の壁を思いきり叩いた。
「ひっ!?さっ、覚さん?どうしたの急に…」
「わらしちゃん…あなた、自分が何をやったかわかっているんですか…?」
「え?だから、わらしはメリーさんを助けて…」
「どう考えたって詐欺だってわかりますよね!?馬鹿なんですか!?それに十万円って、しかもそこに経費も含まれてるんでしょう!?…言語道断です!あなたがここまで馬鹿だとは思いませんでした!ただでさえ脳みそ詰まってないんですから勝手なことはしないでください!」
「…うぐっ…ひどい…ひどすぎる…わらしは、わらしはただ…みんなの役に立とうとした、だけなのに…」
覚の酷すぎる罵詈雑言に座敷童は涙を浮かべる。
「…あ、ごめんなさい…そんなつもりは…」
「…っ!覚さんなんて大嫌いだ!!もうこんな家出て行ってやる!こんな家、どうにでもなってしまえ!」
そのまま座敷童は寺を飛び出してしまった。
「わらしちゃん!」
「…どうかしたのか?」
「あ、ゲンヨウさん。それが…」
たまたま通りすがった私に、覚はすべてを話した。
「…なるほどな…それは、お前も言いすぎだと思うぞ」
「わかってます…謝ろうとしたのですが、その前に寺を出られてしまいました」
「座敷童のことは心配だが、今はその…メリーさん?の方を優先した方がいいだろう。行くぞ。」
「…はい。」
私たちは結界の外へ向かうことにした。覚は道中常にうつむいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます