第6話 【閑話】半妖・「天野クラマ」

 私たちが帰路につこうとしたその時、突如上空から妖気の塊がこっくりさんの胸を貫いた。そしてこっくりさんはその傷口から石に変わってしまった。上空を見ると、一人の男が私たちを見下すような眼で見降ろしていた。



 (…何なんだ…こいつ…そもそも人間なのか?妖魔なのか?どちらの気配も併せ持っている気がする。妙な奴だ…)


 「…!あなた、何者ですか!なぜこっくりさんを石なんかに!」


 「いや、石に変えたのは俺の力じゃないさ。俺は奴を完全に除霊しようとした。でも奴ときたら…魂が壊れる直前に自身に対して石に変える妖術をかけやがった」



 覚が問うと男はねちっこい喋り方で答えた。



 「じゃあ、こっくりさんは…」


 「ああ、まだそこにいる。それよりも…問題はお前が今こっくりさんを除霊しようとしたことだ」


 「ん?ああ、そういうこと…俺の予想だと…君たちも将門の怨念に対抗するべく動いているのだろう?まさか妖魔を怨念から解放してはい終わりだなんて考えてないだろうね。もしそうだとしたら、君たちは甘すぎる。将門がこの世にいる限り妖魔たちの暴走は止められない。だから俺はこの世界の妖魔を皆殺しにすることにしたのさ」


 「妖魔を皆殺しに?ふざけるな。妖魔の魂を何だと思っている」


 「そうだ、そうだ!妖魔にも人権、いや妖権があるんだぞ!」



 座敷童は男に対し頬を膨らませながら腕を振り回す。



 「だから甘いんだよ。どのみち妖魔は怨念に支配されていようがされていまいが害を及ぼすものだ」


 「違う。それは今のこいつらが証明している。こいつらは人間の文化に馴染みともに共存している。それに、怨念に支配されないような妖魔もたくさんいることを俺は知っている」


 「ああ、そうだな。例えばそう、鬼の王、酒呑童子。かつては最強の鬼として日本中を恐怖させたが、打ち取られ幽体となった今では比較的温厚な性格となっているそうだ。だから俺は暴走した妖魔だけを狙っているんだろ?優しい方だと思うがねぇ」



 …ああ…まるで話にならない。こいつと私たちでは考え方が根本的に違っているようだ。分かり合うことのできない人間…こんな形で出会うことになるとは。つくづく運が悪い。



 「じゃあ、今日はこの辺でお暇させていただくよ。…あ、最後に教えておいてやろう。半妖、『天野クラマ』。これが俺の名だ。」


 「天野、クラマ……あ、待て!」



 天野クラマ…彼はその名を残して凄まじい速さで虚空に消えていった。



 「んあー!むかつくー!なにが、どのみち妖魔は怨念に支配されていようがされていまいが害を及ぼす存在、だ!あんな奴、酒呑童子がその気になれば骨も残らないくらいにぐちゃぐちゃに出来るんだから!」


 「それよりも、あいつ、半妖って言ってたよな。津多と似たようなものか?」


 「はい。ですが、津多さんは妖魔の末裔だというだけです。それに対して彼は半妖。つまり、肉親が妖魔なのでしょう。津多さんとは妖力が比べ物にならないほど高いですから」


 「これからはあいつにも注意しなければならないわけだ…面倒なことになったな。だが私たちのやることは変わらない。妖魔の『解放』、それだけだ。」


 「はい、そうですね。」


 「…あ、そうだ忘れるところだった。」



 私は白崎と美奈の元へ向かう。二人はいまだに事態が呑み込めず恐怖と混乱に震えている様子だった。



 「二人とも、大丈夫か?いろいろと迷惑をかけたな。」


 「いっ、いえ!そんな!」


 「そうですよ!捕まった私のせいでさなが来なきゃいけなくなったんですから!…あ、自己紹介がまだでしたね。さなから少し聞いてるとは思いますが、さなのマブダチの『美濃倉美奈みのくらみな』です。今日は本当にありがとうございました!」


 「うう…みなちゃん、やっぱりそのマブダチってのなんか恥ずかしいんだけど…」


 「ええ、今更?あんたさっき自分で言ってたじゃん。」

 

 「だって…」

 

 「ふふ…仲がいいんだな」



 二人を見て私はどこかほほえましく思えた。ちょうど私にもそんな友人が昔いたような気がする。



 「ええ、まぁ…とにかく、私からもお礼を言わせてください。本当にありがとうございました」


 「ああ。二人の名前、これからも覚えておこう。もしまた何かあったらいつでも連絡してくれ」


 「はい!」



 こうして、私たちはそれぞれの帰路にようやくつくことが出来た。ちなみに石になったこっくりさんはというと、あそこに置いておけばどうなるか分からないということで、石化が解けるまで一時的に封天寺で保管することとなった。



(何キロもの道を一人で担がせた恨みは一生覚えておくからな。)



あわゆく暴走しそうになる私であった。


何はともあれいつもの日常に戻れるかと思われた私たちだが、この時まだ私たちは知らなかった。翌日私たちは、ある意味では過去最大の事件に巻き込まれることになることを。


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