第4話 こっくりさんに振り回される話 (前編)

 某日、とある神社にて



 「みなちゃん、明日の試合、頑張ってね」


 「うん!私、絶対優勝するからね!」


 「…この神社、前にどこかのサッカーチームも参拝に来たことがあるんだってさ。早速お参りしよう」


 ガランガラン


 白いセーラー服に身を包んだ二人の少女は勢いよく鐘を鳴らす。二礼二拍手一礼…夕日に背を焼かれながら真剣な表情で小さな社に向かって手を合わせる。



 (明日の試合…絶対勝てますように…!)


 (みなちゃんが明日の試合に、絶対…ぜーったいに勝てますように…!)


 「…ふう…よし、じゃあ帰ろっか。私も最後の調整しておきたいしさ」


 「うん、頑張って。応援してるから」



 二人は帰路に付こうと神社の小さな鳥居をくぐろうとした。しかし次の瞬間、シャラン…という鈴の音がどこからか鳴ったかと思うと、明日テニスの試合があるという美奈という少女が突然、まるで最初からそこにいなかったかのように消え去ってしまった。



 「…みなちゃん…?」


 ……


 「…つまり、その美奈さんは、神隠しにあってしまったのではと?」


 「お願いします!みなちゃんを助けてください!」


 「落ち着け。その美奈という人間は、本当に消えたのか?」


 「あの後私もみなちゃんを探しました。でもどこにもいないし、警察もまともに相手をしてくれなくて。それどころか、みなちゃんの家に行ってもみなちゃんのお母さんからは『そんな子うちにはいません』って一蹴される始末で…」



 とある週末の朝、封天寺には一人の客人が訪れていた。今朝突然寺の電話が鳴り、ここのポスターを見たという少女が、友達が消えてしまったので探して欲しいと言ってきたのだ。そして今は実際にその少女、「白崎早菜しらさきさな」と直接会って話している最中だ。



 「…姿だけならず存在も消されている、か…私の経験上、完全に存在が消されたわけではなく、ただ忘れられているだけだろうと思う。しかしこのような妖術はあまりにも…」


 「ええ、力が強すぎます。間違いないでしょう、その神隠しを引き起こした犯人は、将門の怨念に支配されているはずです。より力の強い上位の妖魔の仕業とも考えられますが…そもそもそのような妖魔たちはこんな程度の低いいたずらはしませんしね」


 「それじゃあ、協力してくれるんでしょうか」


 「もちろんです。私たちの仕事はそれですから」


 「…!ありがとうございます!」


 白崎はぱっと顔を明るくしてお辞儀をした。



 「…で、手掛かりはあるのか?」


 「うーん…直接現地に行ってみたいところですが、昨日の夕方との話でしたからね…これだけ時間が経っていれば霊道も閉じているでしょう」


 「白崎、他に何か情報はないのか…?」


 「情報…あっ!そういえば、みなちゃんがいなくなる直前、鈴の音が聞こえてきたんです!シャラン…って!」


 「…!それって…!」


 「はい!白崎さん、それはどんなタイミングでしたか!?」


 「ええ…?タイミング…確か、鳥居をくぐった瞬間だったかな…」


 「……やっぱり。間違いない!」


 「白崎さん、その犯人、わかりましたよ」



 そう。私たちには心当たりがあった。神社、鈴の音、神隠し…考えられる犯人は一人しかいない。



「犯人は、こっくりさんだ」



 こっくりさん…その名を知らない者はいないだろう。紙とペン、それに十円玉…あと友達があればできる定番の降霊術だ。なんでも質問に答えてくれるが、ルールを守らないとこっくりさんに連れ去られてしまう。



 「…こっくりさん?って、あのこっくりさんですか?でもなんで…別に降霊術をしたわけでもないのに…」


 「稲荷神社に行ったんだろ?お前たちは、こっくりさんの巣に足を踏み入れてしまったんだよ。それも運悪く将門の怨念に支配されているときにな」


 「そんな…じゃあ、本当にタイミングが悪かったってことですか?」


 「ああ。本来は降霊術を通してこっくりさんを降霊させてからでないといけないのだが、将門の怨念のせいで常時降霊状態になっていたのだろう。そしてお前たちはこっくりさんを社に戻す前に儀式を強制終了、つまり今回で言うと鳥居から出てしまった。これにより、きっと先に鳥居をくぐって神社を出たのであろう美奈は儀式を終わらせた者とみなされ、こっくりさんに連れ去られてしまったんだ。…あと、どうでもいいが戦勝祈願なら稲荷神社じゃなくて八幡神社に行った方がいいぞ。稲荷神社は豊作祈願だからな」


 「そうなんですか!?私全然知りませんでした!」



 白崎は目を丸くして言った。今の若者は学が無いとインターネットなるものに書いてあったが全くその通りだと思う。そのくらい知っとけバーロー。



 「ということなら、やることは一つですよね。ゲンヨウさん」


 「ああ、俺たちもこっくりさんに連れ去られるのみだ」


 「え?うえぇーーーーー!?」


 「ただし、今回は一人おまけをつけますよ。」


 「おまけ?」


 「はい。こっくりさんの怨念領域ともなると、花子さんのものよりも完成度がより高いものでしょうから、専門家を連れて行きましょう。」



 そう言って覚は廊下に向かって力いっぱい声を張り上げて叫んだ。



 「わらしちゃーん!出番ですよー!」



 しばらくすると、最初にここに来た時のようにドタバタという足音と共におかっぱ頭の少女が畳に滑り込んできた。



 「おわぁ!びっくりした…誰?」


 「なに?またお客さん?わらしはね、わらしっていうの!」


 「わらし?…もしかして、座敷童?妖怪!?なんかよくわからないけど、よろしくね」


 「んで、なんで座敷童なんだ?」


 「わらしちゃんは領域支配のスペシャリストなんですよ?なんてったって、どんなに広い家でも富を与えられるほどの力を持ってるんですから。きっとこっくりさんの領域だってすぐに構造を把握してくれるはずです」


 「うん!わらしに任せて!こっくりさんなんて相手にならないんだから!」


 「…よし、じゃあ、出発しようか。」



 私たちは例の稲荷神社に向けて出発した。座敷童については若干の不安が残るが、まあいい。実力は確からしい。しかし今回の相手は妖魔は妖魔でも一応神である。より一層気を引き締める私と覚であった。それにしても、白崎はよくわかっていなくて当然だが、あの小娘ときたらのんきに鼻歌を歌っていやがる…やはり若干不安が残る私であった。




  

 

 

 

 

 


 

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