第16話  少林寺拳法の凄み

 私の母校、西南学院大学体育館の一番上にある道場は、畳敷きの部分を合気道部が、板間の部分を少林寺拳法部が使っていた。


 その道場は、合気道部や少林寺拳法部の占有と言うわけでもなく、時々、フェンシング部なども使っていたので、その道場が空いている時は、私も時々、そこで一人稽古に励んでいた。


 大学二年の夏休みに、そこで稽古していると、板間の道場側のドアから、少林寺拳法部の連中が入って来た。時々、ウエイトトレーニング・ルームで顔を見る連中だったが、その日は、30代初めくらいの精悍な男性が、一番最後に道場に入って来た。


 一目見て、その人が、只者じゃない事は、すぐに分かった。全身に、何とも言えない野性的なオーラを纏っていたからである。



 少林寺拳法の連中は、まず基本と組み演武の稽古をし、その指導員らしき30代の男性が、部員たちの動きを矯正していた。やがて、基本と組み演武の稽古が終わり、指導員と主将が、乱取り稽古の準備を始めたので、私は、自分の稽古の手を休めて、彼らの稽古を見学することにした。主将は、胴とグローブを着用し、指導員の男性は、何も着用していなかった。


 主将は、黒帯二段で、結構な実力者だった。彼が、サンドバッグに突き・蹴りを入れているのを何度か目にすることがあったが、威力のある突きと蹴りだったので、乱捕りをしても、結構やるんじゃないかと推測できるヤツだった。


 で、乱取り稽古が、始まった。


 驚いた。それまで、私は、少林寺拳法と言うのは、突き・蹴りは、空手に比べるとマイルドで、関節技で相手を制するのが、メインだと勝手に思い込んでいたが、その指導員の先生が放つ前蹴りや回し蹴りは、まるで空手の蹴りのように鋭く、「ビシッ!バシッ!」と言う音とともに、グローブをはめている主将の受けを弾き飛ばして、主将の着けている胴に先生の上足底(中足)がメリ込んでいた。その威力は、胴を突き抜けているらしく、主将は、痛みで顔をしかめていた。



 その乱捕り稽古の後、その先生と目が合って、どちらからともなく歩み寄って話し始めた。


「それ、ホントに少林寺拳法ですか?空手みたいに見えるんですけど、空手のご経験は、おありですか?」


「いや、やったのは、少林寺だけだよ。君は空手をやってるのかい?どこの流派?」


「高校の頃は、剛柔流空手をやってました。今は、松濤館流を習ってます。」


「おお、そうか。先輩が、剛柔流空手をやってたよ。」


「それにしても、スゴイですねえ。空手の人でも、あんな鋭い蹴りをする人は、滅多にいませんよ。」


「いや、俺なんか、全然大したことないよ。本部道院の先生たちは、もっと凄いから。」



 後日、主将から聞いたところ、この指導員の先生の段位は四段で、四国の本部道院から福岡の大学の少林寺拳法部の指導のため派遣されて来た先生だと言う事だった。彼は、


「あの先生、ホントにスゴイよ。先生が本気で乱捕りを始めたら、あんなもんじゃない。この間は、俺にケガさせないように気を使って、手加減してくれてたんだ。」


と言った。あれで、手加減?少林寺拳法の底知れない凄さを目の当たりにした思いだった。



※次回は、松濤館流の道場を辞める直前に起きた愉快な出来事をお送りいたします。では、次のエピソード"Boards don't hit back."で、お会いしましょう。



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