第10話 フルコン空手vs我流格闘術 4
A君のただならぬ実力を直観したO君は、離れてジッと相手の出方を待っています。一方、O君の実力を見切ったA君は、さっきよりも早いテンポで間合いを詰めていきます。
そして、二人の間合いが限度まで来た瞬間、A君は、わざとO君の腹部を見ながら右回し蹴りを放ちます。腹部に殺気を感じたO君が、両手をブロックするために下げた瞬間、A君の体重が乗った回し蹴りが、O君の左頬に「バシッ」と言う鈍い音とともにヒットします。いわゆる段蹴りです。かなり空手や拳法を修行した人でも、上手な人にこれを使われると中段を守ることに気を取られて、この蹴りを食らってしまいます。まして素人のO君においてをや、といったところでしょうか。
蹴りが当たった瞬間、O君の体が浮き、O君は「アイターっす!」という泣き声にも似た悲鳴を上げ、倒れかけます。この試合を見ていた誰もが、これで決まったと思いました。しかし、O君は、バランスを崩して倒れながらも、A君に武者振り付いていきました。上段回し蹴りを放ったばかりで、まだ片足だったA君は、そのまま転倒します。
O君の下半身が細かったことが、O君に有利に働きました。バランスを崩して倒れることで、回し蹴りの威力が、逃げたのです。もし、O君が安定した下半身の持ち主だったら、回し蹴りの威力が逃げずに、O君は、脳震盪を起こしてノックアウトされていたことでしょう。
空手の試合では、ここでストップがかかります。倒れた相手を攻撃してはならないと言うルールがあるからです。しかし、これは異種格闘技戦です。私は、試合を止めませんでした。
O君は、倒れたA君に襲い掛かります。それを察したA君は、倒れた姿勢から子供がやるように両足をバタバタと連続的に押すような動作を見せました。フルコン空手の強さに対する幻想が、A君の強さに対する幻想が、全て崩壊した瞬間でした。
空手は、立った状態から、対戦相手を蹴ったり突いたり出来るから強いんです。倒れてしまえば、空手は惨めなもんです。技もへったくれも、あったもんじゃありません。今度は、O君が攻撃する番です。(つづく)
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